12月3日(水)


scamam一家が住むこの街のすべての小学校で、この9月からSingapore Math を導入したことは以前にも書きましたが、アメリカの子供とその親たちにとって、この転換は相当の衝撃を持って迎えられているようです。特に、小学校最終学年である5年生にとっては、新カリキュラムをたった1年勉強しただけでmiddle schoolに上がらなくてはいけないので不安は更に増大しているようです。今週は、score report(成績表)が届けられ、conference(個人面談)が始まる週、5年生のparents対象に、Singapore Math Meetingが一斉召集されました。


meeting roomに入っていくと、既にタビーのママ、ゲイルが、プロジェクターの準備をしているこの街の小学校の算数カリキュラムの責任者に深刻な顔で詰め寄っています。ゲイルはタイ人で、ドイツ人と結婚し、イギリスで子育てをしてこの夏に渡米したばかり。アメリカの算数のレベルの低さを常々嘆いていて、機会があればレベル分けクラスにして欲しい、って頼むつもりよっ、て言ってましたから、ああやってるな、って思って見ていたら、目ざとく見つかって、隣に座れというので、よりによって、エイジアンママが二人、最前列に陣取ることになりました。「どうだった?」とこっそり聞くと、「レベル分けなんて全くその気なしよ。」ってがっかり顔でした。


さて、meetingには、小学校の算数カリキュラムの責任者の他に、校長先生、中学校の責任者そしてPTA会長までやってきました。そして、もう一度、Singapore Mathについて、その採用理由が説明されました。


その要旨は、この街が去年まで採用していたカリキュラムはTrailblazersというプログラムなのですが、このプログラムは大変抽象的で説明も問題も論述が多い(fuzzy mathと呼ばれる所以です)、しかもスパイラル方式なのである単元を完全に理解しないままとりあえず次に進んでしまって、忘れた頃にまた戻ってくる、それに比べて、Singapore Mathは説明がpictorialで具体的、問題解決志向が強く、creativeだというものです。

例として、「割合」(fraction)について新旧二つのカリキュラムの比較が具体的に示されました。singapore Mathのテキストには日本人のscamamにとっては本当に見慣れた図式が並んでいますが、Trailblazersのテキストは文章で埋め尽くされていて一瞬の画面から読み取ることはできませんでした。更に、Singapore Mathの「割合」の単元の最終目標は、「マイケルは持っている卵の3/8を売りました。売った卵は63個でした。全部でいくつ持っていましたか。」という問題が解けることです、と説明されると、会場がざわめきました。


エイジアンママが二人最前列で沈黙を守りつつ、失礼にならないようにブルブルと笑いを堪えているのを知っているのか知らぬのか、ここからは、それはもう活発な質疑応答が始まりました。思い出すままに書き連ねますが、この面白さは現場にいないとわかってもらえないかも・・・残念です。


親「今年の5年生は、最後の1年になって新カリキュラムに移行したから今までの蓄積も何もないのに、こんな難しい問題、一体何人の生徒ができるようになるのかしら。」

先生「3年生、4年生のテキストも随時使って補っていますよ。それに、middleの先生ともタイアップしていますから、ちゃんとmiddleに進んでからもフォローします。この年度に全てが完璧にならなくても心配する必要はありませんよ。」(注:最近、5年生が3年生、4年生のクラスに行って算数のテキストをごっそり借りていくことがあるそうです。)


親「私たちはSingapore Mathで育っていないのよ。子供は毎日家で宿題にstruggleしているけどどうやって教えたらいいのかわからないわ。」

先生「テキストブックには容易な言葉と図式でわかりやすく説明されている。その言葉をそのまま使って説明してあげてください。」

親「そんなこと言ったって、先生は家にテキストを持ち帰ってはいけません、って言うのよ。何のmaterialもsourceもなくて何が教えられるの?」(注:アメリカの学校の教科書は貸与されるものであり、原則持ち帰り禁止です)

親「インターネットで買えるわよ!」

親「どうして学校の教科書に親がお金を払わなくちゃいけないの!」

校長「学校としては算数の教科書を持って行かせないように、とは言っていません。是非、個人面談で担任の先生にプッシュしてください。」


親「どうして能力別グループにしないのですか。クラス全員に同じようにわからせようとして午前中ずっと算数をやっていることもある。うちは、算数にそんなに時間をかけてもらいたくないわ!」

校長「クラスの運営はすべて担任の判断です。それも是非個人面談で話して下さい。」


親「この学区はこの街では一番所得が低くて親が勉強見てる家庭が多いけれど、お金持ちの住む学区じゃ最近では家庭教師をつけてガンガンSingapore Mathを勉強させているのよ。middleになれば街中の子供が一つの学校に集まることになるから、このままだとこの学区の子供だけmiddleで落ちこぼれちゃうわ。」

親「放課後の特別授業なんかしてもらえないかしら。あるいはPTA主催で勉強会を開くとか。」

校長「そうしていただければ学校側も本当にありがたい。そのようなボランティアはいつでも大歓迎です。もちろん我々もできることは全てやっていきたいと思います。」


こんな風に振り返ってみると、ずいぶん校長先生が引き気味だな、って思いますが、こちらの学校では担任の先生の権限がとても強くて、校長先生が口を挟める範囲が限られているのも事実です。皆が思いっきり意見を述べ合って紛糾したまま特に具体的な解決策が出るわけでもなく、しかしこれからもしっかりこの問題を考えていきましょう、と、締めくくられて、会は1時間半で終了しました。日本人の参加者はscamamの他にもう一人だけ。「どうだった?」と感想を聞くと、こちらで有名な日系受験塾にお子さんを通わせているそのママは、「〇〇(塾の名前)のテキストをパーンと見せてやって、こんな問題でガチャガチャやってるんじゃないわよ。日本人はこんなのやってるんだからね!って言ってやりたかったわよ。」ってかなり過激な答えが返ってきました。学校とアメリカ人の親、そして傍観者たるアジア人、三者三様の思惑入り乱れ、この問題がこれからどうなっていくのか、乞うご期待。ちなみに、翌週明けには5年生全員が、分数に関わる4年生と5年生の教科書のコピーを配賦されて持ち帰りました。


さらにご関心ある向きには、fuzzy mathと酷評されて今回ボツになったTrailblazersと、新しく採用されたSingapore Mathの5年生の教科書の最後の問題を比較しているwebを見つけましたので、抜粋します。この動き、今全米で起こっていてちょっとした話題になっているようです。


from the last page of Primary Mathematics 5B (U.S. Edition):(注singapore Mathのことです)

18. A fish tank is 2/5 full after Sara poured 14 gal of water into it. What is the full capacity of the tank in gallons?

from the last page of Math Trailblazers Grade 5:

4. Write a paragraph comparing two pieces of work in your portfolio that are alike in some way. For example, you can compare two labs or your solutions to two problems you solved. One piece should be new and one should be from the beginning of the year. Use these questions to help you write your paragraph:
Which two pieces did you choose to compare?
How are they alike? How are they different?
Do you see any improvement in the newest piece of work as compared to the older work? Explain.
If you could redo the older piece of work, how would you improve it?
How could you improve the newer piece of work?


個人的には、Trailblazersは算数の天才向き、Singapore Mathは日本の算数と同じく解き方だけ詰め込んでいるようにも思えるのですが、算数カリキュラムの責任者は「Singapore Mathはcreative」と何度も強調していたので、一体どういうことなのか、疑問が残りました。