3、 洞窟の入り口

夜更けすぎ、ペレアスとメリザンドはやむなく洞窟へと
向かいました。  たいまつやランプを持たなくても、
月明かりだけでなんとか先に進めるのではと考えましたが、
こんな時にかぎって、月は雲の中に隠れてしまい、
岩がゴツゴツして、足元には海草などが落ちていて、
ぬめぬめと滑りやすく危険で思うように進めません。

ペレアスはメリザントの肩を引き寄せ手を取って、
洞窟の入り口まで近づいて行きました。

メリザンドは、夫にはイニョルドと洞窟で貝殻拾いを
していたと申しましたが、まだ一度も、この洞窟に
入ったことなどありませんでした。

ペレアスも、指輪を泉に放り投げたのを見ていたので、
ここにはないことを知っていましたが、嘘を言ったかぎりは、
この洞窟で落としてしまったと筋を通さねばならず、
心は激しく動揺しながら、さて、どこに落としたことにしたら
良いものかと、その既成事実を工作するのに必死でした。

兄からしつこく尋ねられても、全てをきちんと答えられるよう
指輪を失くした場所を、しっかりと見ておかなくてはね・・・

そう心得て、二人は洞窟に入って行きました。

洞窟は鍾乳石がにょきにょきと垂れ下がっていて、
それが植物やら人のような格好にも見え、真っ青な闇が
中に張りつめて、その不気味な様相を見ると、
誰もが奥まで行けなくなり途中で引き返してしまうほどの
恐ろしそうな暗がりの場所です。

いちばん奥には、昔、海で遭難した船の残骸が漂着し
宝ものが流れ着いて眠っているかもしれないという
うわさを聞きつけて、それを探しに行ったきり迷ってしまい
戻れなくなった人もあるような場所なので、そこまでは
行けません。

海から、空からの光が途絶えたところで引き返すより
ありませんでした。

洞窟の天井は、水晶や塩の結晶がこびりついて、

暗闇の中では、まるで夜空のように、美しく光り輝いてみえます。
海から寄せるさざ波の音が静かに、洞窟の中まで響いてきます。

洞窟内を探し回り、指輪を落とした場所を確認すると
二人は、またさっき来た入り口の方へ向かって引き返し歩き始めました。
さっきまで雲に隠れていた月が、洞窟の入り口を照らし始めました。

洞窟の外に出ると、さっきまで気がつかなかったのですが、
岩場に、三人の白髪の乞食が寄り添って眠っているのを
発見しました。  どうやら深く眠り込んでいるようです。

メリザンドは、体を寄せながら、

今までつないでいた手を振り払うと、
急によそよそしくなり、

手を、、、この手を放してくださらない?
あなたと寄り添って歩いているところなど

人に見られては困りますわ 、、、、、 

離れて歩くことにいたしましょう

大丈夫ですよ。 あの人たちは、目を覚ましませんから。
また、いつか、一緒に来ることにしませんか?

メリザンドはゴローの妻であることへの後ろめたさがありながら、
ペレアスと一緒にいられる幸せを感じ始めていました。

また、ペレアスは彼女の傍から離れたくない反面で、
兄への服従心の裏切りから、この国にとどまることは良くないと
また旅立つことを考え始めていました。