2.窓の下からセレナーデ
メリザンドはベッドで眠る前に、寝室の窓辺によりかかって
夜風にあたり、海の上にぽっかりと浮かぶ上弦の月をながめ、
潮騒のさざめく音色に合わせるように口ずさみながら、
長いブロンドの編みこまれた髪をほどいて櫛でとかしていました。
窓の下から、ささやくようなセレナーデが聞こえてきます。
オーラ、オ~ ♪
メリザンド 聞こえるかい 僕だよ
小鳥の歌をうたいながら、何しているんだい
髪を整えているところよ。あまり夜空が美しかったから
窓を開けて眺めていたの 気持ちがいい夜だわ・・・
こんなに星がたくさん見える夜もめずらしいよ
月の女神が海の上で、僕らを見守っているみたいだね
窓から君の身体を、もっと放り出して、 ほら
その長い髪と、君の顔を、もっとそばで見ていたいんだ
暗くてよく見えないんだよ。 ほら、もっと・・・・
僕の頬に近づけて よく 見せておくれ
メリザンドは、少しでもペレアスのいる所まで
近づけるように、窓から身を乗りだしました
ねぇ、お願いだ。 その指先だけでも、僕の方に差し出して・・
お別れする前だから・・・・・僕は明晩ここを発つことにするよ
これきり。 これで最後だ、もう会えない。 だから、
君の愛しい、その指先に キスさせてくれないかい
それは、いやです。
ここから出て行ってしまうなら、差しあげられないわ
行かないで・・・・・ペレアス・・・・・
おねがいだから、 どうか ここで独りにしないで・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・ねぇ、ほら、あそこ 見て。
暗闇に一輪の白い薔薇が見えるわ
どこに? 背の高い柳しか見えないよ。
庭のほうよ。あそこの、こんもりとした木立の方・・・
(ゴローは茂みに隠れ、二人の逢瀬の様子をじっと見ているのでした)
さぁ、こっちを向いて、もっと近づいて。
ああ、もうこれ以上、危ないわ。髪が・・・・・・
メリザンドのほぐした長いブロンドの髪は、窓の下にいる
ペレアスのほうに、するすると降りていきました。
君の髪が、僕のほうに降りてきてくれた
ああ メリザンド、 僕は君をしっかりとつかんだよ
君の髪にキスをしよう この両手で抱きしめよう・・・
・・・・・・・ペレアス
ペレアスは、窓の外からメリザンドの髪に触れ、
抱きしめることで彼女の体温を感じていました。
君も、どうか僕のことを忘れないでほしい
・・・・・・・・・・・
さぁ、もう、よしましょう。 早く、私を放して
ほら、向こうから足音が聞こえてくるわ。
ゴローよ、夫が、私達の話を聞いていたのよ
寝室に戻ってくるわ。 いそいで!
ゴロー
おまえたち、さっきから、こんなところで何をしているんだ!
ペレアス
僕は、ここで・・・ただここで・・・・・・・
ゴロー
ただここで、なんだ? なにを していたんだ!
メリザンド、そんな窓から身を乗りだしたら危ないじゃないか!
もう夜更けだぞ。まったく、おまえたちは、子供みたいなやつらだなぁ~
ふっ、ふっ、、ふ ・・・・・・・・・
仕方のないやつらだ・・・困ったやつらだわ・・・・・・・
ゴローは二人の逢瀬が、今夜始めてのものではなく、ずっと
以前から親密に続いてきたものであることを確信をしたのでした。