4、地下穴の出口のテラス
 

ゴローとペレアスは地下穴から出て、海を一望できるテラスへあがってきました。 

潮の香りが心地の良く、みずみずしい風が吹いてきて、さっきテラスで

水撒きしたばかりなのか、ほのかに薔薇と若草の甘く、苦味のある香りが漂ってきます。

それにひきかえ、さきほどの地下穴のその悪臭は呼吸ができなくなるほどで、

身体中に鉛の露がこびりついたように重苦しく、まるで毒団子でも

食べさせられたような胸くそ悪い気分になっておりました。

おまけに足を滑らせそうになった時には、ペレアスはまったく
生きた心地がしませんでした。

ああ、やっと息がつけた・・・・
気が遠くなるところでしたよ。

朝早くに地下に出かけた筈でしたが、いつの間にか正午の鐘が
鳴る時刻になっていました。いったいどれほどの時間をそこで
過ごしていたというのか、ペレアスは、しばらくのあいだ、
自分の状況をよく理解できないまま、そこに立っていました。

ゴローは複雑な心境でした。憎しみがあるとはいえ、
いざ、危険な場所へ連れて行けば、やはり、突き落とすなど
という馬鹿げた考えにおよんでしまい、あの悪意に満ちた

自分の心が、いったい何だったのかを想像するだけでも、
おぞましく、自らが恐ろしくなってきたのでした。

ゴロー
なあ、ペレアスよ。 昨晩のことなんだがな・・・
おまえたちの話を立ち聞きしたぞ。
あんな子供じみたことは、おまえの悪ふざけに
違いないと、よくわかっておるつもりだ。

だが、メリザンドはもうすぐ母親になる身重でな。
いつもより神経質になっておる時だから、
あまり、神経を高ぶらせるようなことはやめて、
気をつけてもらわないと困るんだ。

おまえ達の間に、以前から何かがあるのではないか
ぐらいは気がついていたが、なあ、察してくれないか、
さり気なく、お前の方から出会わないように
離れてはくれないだろうか。

ゴローは腹の底とは裏腹に、つとめて冷静な態度で
ペレアスに注文をつけました。

ペレアスは、兄の子を身ごもっている事を聞かされて、ますます、
早く、ここから出立せねばならないことを決意したのでした。

ゴローは、自分の子であると思いたいけれども、どこかで
ペレアスの子ではないか、という疑念を抱いておりました。