ゴロー
では、ゆっくりと落ち着いてお話をしようではないか。
あの二人は、いつも、どんな話をしているんだい?

イニョルド
ペレアスおじさんと母さんが?

ゴロー
ああ、、、そうだよ。   
なにを、話しているんだい?

イニョルド
ぼくの事だよ。ボクは、将来、きっと父さんに似て
背が大きくなるだろうって、いつもそう言っているよ。

ゴロー
ふ~む。困ったものだなぁ。
私はそんな話を聞きたいわけではないんだがなぁ、、どうしたものか
なぁ、イニョルド、そうだなぁ、、、、、
あの二人は、父さんのことについては、何か話しているのを
聞いたことはなかったか?

イニョルド
父さんのこと、いつも話しているよ
ぼくはもうじき、父さんぐらい背が高くなるだろうって。

ゴロー
まったく・・・・こいつの話は・・・・
おまえ、本当にあの二人のそばにいつも、いるのだろうなぁ?

イニョルド
ぼくは、ずっと母さんのそばについていてあげるんだよ。
だって、あの二人はとても悲しくて可哀相なんだから。
いつも部屋を暗くして二人して泣いているんだ・・
だから、ボクは母さんのそばにいてあげるんだよ。
母さんを見ていると、ボクまでもが泣けてくるんだ。

ゴロー
そうだろうともよ・・・・・・・
それで、おまえ、あの二人が仲良くしているのを見ると
嬉しいのかい? キスしたりもするんだろう?

イニョルド
キス?   しないよ、しない、しない・・・・
あっ。そうだ!
 一度だけ、雨降りの日に・・・

ゴローなんだって? キスしたのかい?どんなふうに?
どうやってしていたんだ?

イニョルド
こんなふうにさ。ほら、こんなふう・・・
父さんのヒゲが、ボクの唇に当たるとくすぐったいよ
チクチクするし・・・・父さんのヒゲ、ずいぶんと
白くなっちゃって・・・・ふふふっ・・・・

イニョルドは父親の唇にキスをして声を立てて笑いました。

夫婦の寝室に明かりが灯り、そこにメリザンドとペレアスの
シルエットがあるのを見つけました。
ゴローは、その茂みからそれを見逃さず、固唾をのんで
この二人が、これから何をしようとするのかを見ていました。

ゴロー
畜生め・・・・

イニョルドも、ゴローの体をつついて自分にも見せて欲しいと
いうので、抱き上げてじっと寝室の方向を眺めていました。

寝室の二人は身じろぎもせずに、ただじっと長い間、
見つめあっていたのでした。
ゴローは、たまらず、寝室の方に向かって走り出しました。