4   章
       1、城中の廊下

昨日まで、いつ急変するかも知れないと医者から言い渡され、
目の離せない状態であったにペレアスの父上でしたが、
今朝早く、ようやく峠を越え回復の兆しが見え始めました。
これまで閉め切られていた寝室の窓も開け放たれ、
殆ど意識もないままに深い眠りが続いていたのが、少しずつ
喋ることもできるようになり、次第に血色も良くなってきました。

父上は、ペレアスの顔を見るなり、そばに呼び寄せて手を握り
小さくかぼそい声ではありますが、はっきりとした口調で言いました。

アルケル国王

ペレアスよ、おまえ、今、何か悩んでいることがあるようだな
このまま、城に残ることはないよ・・・・私のことなら、もう
心配することはないのだから、旅に出たいのなら、そうしなさい。

母は、父のその言葉を聞いて安堵し、これまでの張り詰めた
緊張感から解放され、そばですすり泣いておりました。

ペレアスは、その両親の様子を見ていて安心したように、
いよいよ、今夜、旅立つことを決意するのでした。

さっそく、寝室から出てこのことをメリザンドに知らせねばと
廊下に出てメリザンドの部屋の方に向かって歩き始めると、
メリザンドも、自室から出て廊下を歩いているところを

ばったりと遭遇しました。

ペレアス
やあ、 おはよう、 メリザンド

 

メリザンド
あら、おはよう、、ペレアス、 どうしたのですか?

ペレアス
ああ、いま、父上の寝室から出てきたところだよ。
やっと、容態が回復に向かい始めたようなんだ。
そろそろ、旅に出たいのならば、そうすれば良いと、
父上からもお許しがあったので、その言葉に従おうと思うんだよ。

あっ、誰かが向こうから歩いてくるみたいだ。
メリザンド 今夜、どこで会える?

メリザンド
そうね・・・  どこへ行けばいいのかしら・・・・・?

ペレアス
それなら、あの「盲人の泉」のところではどうかい?
あそこなら出てこられそうかい?

今夜こそ、本当だ。 今夜、旅立つことにするから
これからは、もう会えなくなるのだから、
必ず会いに来てくれるね。 約束だから、ね。

メリザンド
ねぇ、ペレアス・・・

お願い、それだけは言わないで
私はあなたがいなくなってしまったら、このお城で
これから、ずっと、どう生きていけば良いというの?
お願い、お願いですから、このまま独りにしないで。

ペレアス
メリザンド わかってくれよ。 それは、できない相談なんだよ。 
僕は、もう、たぶん・・・・・・・君には二度と会えないんだ。
もう、会ってはいけないんだよ。 僕たちは・・・・・ 

 

わかるかい?  うんと遠いところに行ってしまうんだ。
それに、今とてもすがすがしくて嬉しい気分なんだよ。

メリザンド
ああ、、、、、あなたの言っていることが、さっぱりわからないわ
何を言っているのか。なぜ、これから会えなくなってしまうことが
嬉しいなんて思えるの? わかるはずないわ・・・
私のことが、もうどうでも良くなってしまったの?

ペレアス
ほら、ここで泣いてはだめだよ。人に聞かれてはまずいから、
今夜、今夜、かならず、約束の場所に来るんだよ。わかったね

メリザンド
・・・・・・・・・・・・・・・・・

二人はひそひそと、慌しく、今夜 盲人の泉で待ち合わせをして、
人目につかないよう、またそれぞれの方に向かって歩き始めました。