ゴローの疑いの目はメリザンドにも向けられ、新しい生命を
宿していることなど目にも入らず、毎日、責め立てるばかりで
メリザンドの母体は目に見えて衰弱していきました。

 

          2、 城中の王室

アルケル国王は、メリザンドを王の部屋に招き入れました。
城に来た頃から、日が経つほどにどんどんと顔色は悪くなるばかりで、
笑顔を見せることがなく、いつも、哀しみに暮れている様子。

国王はこれまでそれに気づかない振りをしておりましたが、
まるで今にも死が迫りくるような具合の悪そうなメリザンドの
様子を見ていると、放っておくわけにもいかず、いったい、
何があったのかを聞きただそうとしておりました。

若くて美しい人というのは太陽のように明るく、周囲の人に
幸福をもたらすもので、その若さとエネルギーが多くの人々に
未来の思考を与え、新しい時代の扉を開く担い手になるべき立場で
あるはずなのに、なぜ、そんなに未来のない表情をして不幸を
背負って生きていかねばならないのかと、この娘の事が不憫に
思えてなりませんでした。

そこへゴローが、乱入するように入ってきました。

ゴロー
国王、ペレアスは、いよいよ今晩、出立いたします。

アルケル国王
ゴロー、そなたの額から血が出ておるぞ。

メリザンドが夫の額の血を布でぬぐおうとしたところ
ゴローは、メリザンドの体を突き倒すようにして振り払い
怒鳴り散らしました。

ゴロー
お前のような女とは口も利きたくないわ あっちへ行け!
汚らわしい奴め。 離れろ。 離れるんだ 
剣はどこだ? おれは、ここへ剣を取りに来ただけだ。

( 祈祷台に置いてあった剣を手にして )

ゴロー
国王、また海岸で農夫が餓死していたそうじゃないですか。
やつらは、われらの前であてつけがましいことをしやがる。

 

おい、メリザンド、おまえ、この剣を見て何をそんなに
さっきから怯えているんだ? お前を突き刺すとでも思ったか!

この私が何も知らんとでも思っていたのか? 愚かな奴め
私は、この大きな目で、何でも見通せるわ。

 

さあ、 こっちへ来い、 来るんだ
お前の体は吐き気がするほど汚らわしいわ

この、毛長の化け物女め、私の前でひざまずけ、
頭を床にこすりつけて、さあ、膝をつくんだ。

アルケル国王
ゴロー、何をする! やめんか!

メリザンドの体を押さえつけ、髪をわしづかみにして、今にも
殴りかからんばかりのゴローの様子を見かねて、アルケル国王は
かけ寄りそれを制止し、メリザンドを解放してやりました。

ゴロー
私は、別にスパイなどしてはおらんわ。 そのうち、かならず・・・
そのうちにな ・・・・今に見ておれ  ・・・ 絶対に、許さんからな。

そう言って、剣を振りかざし王室から飛び出していきました。

アルケル国王
いったい、どうしたことなんだ。
何を言っておるのか、さっぱり、わからん。
あれは、酔っ払っておるのか?

メリザンド
いいえ、そうではございません。
夫は、私のことなど愛してはおりません。
ただ、不幸せなだけでございます・・・・

エルケル国王
そなたたちは、哀れよのう・・・・・・ 不憫でならん・・・