2、城中の寝室

もう何日も、深い眠りから目を覚まさないメリザンドのベッドを囲み、
アルケル国王、ゴロー、医者は、その様子を見守っておりました。
妻がこのまま死んでしまうのではないかと、ゴローは気が気では
ありませんでした。

主治医は、この程度の傷では死ぬことはないので殺意があったのではなく、
少し剣の先が体に触れた程度の事故に過ぎなかったのだと慰めました。

しかし、ゴローの心底には、あの二人が強く抱き合っている姿を見たとき、
あれが兄妹のようなものだと思いたくても、どうにも感情が抑えられなくなり、
憎しみが湧いておもむくままに、気がついた時には刺し殺していたという
意識が働いたことを感じていました。

( つい、うっかり・・・ やってしまったんだ・・・ )

随分と、何日間も意識が回復することのなかったメリザンドが
目を覚ましたようでした。

医者はゴローに興奮させぬよう静かにと諭しました。

メリザンドはペレアスが会いに来てくれたあの窓を開けて、
潮風にあたり、海の景色を見せて欲しいとせがみました。
ちょうど赤焼けた夕日が海に落ちていくところでした。

そちらへ目をやり眺めていました。けれどもメリザンドの目は、
うっすらと光りが感じられる程度で、あたりはぼんやりとして、
あまり見えなくなっておりました。

ゴローは、扉は開放しておくので、夫婦二人きりにして欲しいと頼み
国王と医者を寝室の外へ出しました。
そしてメリザンドの手を取って言いました。

ゴロー
メリザンド、私が悪かった。 許してくれ。
本当に申し訳ないことをしてしまった。許してはくれないか。

メリザンド
ええ。でも、なぜ、許してくれなどとおっしゃるのですか?

ゴロー
私は、お前を苦しめてしまった。今になって、、、、
はじめてあの森で出逢った時からのことが、全ての間違いだったんだ。

お前を、こんな目に遭わせることになってしまって、、、、

私はおまえを深く愛しすぎたんだ。

今、ここにひとりの人が死んでゆく・・・私・・・私のことだ。
どうか、最期に、教えてくれないか。  
どうしても、知っておきたいことがあるんだ。
本当の事を言ってはくれないか・・・
お前から最期の言葉を聞くまでは・・・

死にきれんのだ・・

おまえは、ペレアスのことを愛していたのか?

メリザンド
ええ・・・・   愛しておりましたわ
あの方は、今、どこに?どこにいらっしゃるのですか?

ゴロー
おまえ、私の言う意味がわかっていないようだな。
もういっぺん尋ねるが、お前は、あいつとの間で
禁じられた愛があったのかをだな、、、、

したことがあったかどうかを、尋ねているんだ・・・
どうなんだ?   さあ、答えてみろ・・・

メリザンド
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゴロー
やっぱり、あったんだな。そうなんだな! どうなんだ!

メリザンド
いいえ、違います、違います、
私たちは、そんなことなど、、、しておりません。
できるはずがございません。

ゴロー
おい、メリザンド、嘘をつくな。
神に誓って、本当のことを言うんだ!
まだ、これ以上、嘘を重ねるというのか!

おまえは、もうすぐ、死ぬんだぞ、この期に及んで
まだ、嘘を申すというのか! なんてひどい奴だ・・・

メリザンド
・・・・・・・・・・・
今、なんと、おっしゃいましたか?
誰が、死ぬと・・・?