今夜で息子は家を出る


11月の結婚式を前に、
彼女と暮らし始めるのだ。


もう籍は入れているし、
いつ一緒に住んでも
いいようなものだが、
今日の彼女のお誕生日を
実家でご家族と過ごして、
明日から新たな生活を始めることに
決めたと言っていた。


いろいろあった息子だった。


運動神経抜群だった息子は
何をやってもうまくこなした。
父親の血を受け継いだのだなと
こればかりはそう思う。


体操教室でも、
サッカー教室でも、
いつも親には
一番上手に思えた。




少し狂ってきたのは
中学受験を始めたころ。


好きなサッカーも辞めての
塾通い。


今ごろだけど、
必要なかったなと思う。
もっとやりたいことを
やらせてやればよかった。


何度も辞めてもいいよと
尋ねたけれど、
きっと私の気持ちを
推し量って、「頑張る」と
言い続けてくれた。


私学の中学に通うようになって
どんどんおかしくなった


息子が壊れていく。
そう感じた時には
遅かった。


大学を中退し
引きこもった。


息子に言われた一言が
今も忘れられない。


俺の今までの人生
やりたいことをひとつも
してこなかった


わかったよ。
もう何も言わないから
好きなようにしなさい。


そこから
私が自分と戦い始めた。


私とは一切しゃべらない息子。


ずっと私のために
いい息子でいようとしてくれた
息子のために
自分を変えよう。


そして。
何年経ったか、
息子も私も苦しみながら
少しずつ変わってきた。


息子が結婚すると決まった時
本当に嬉しかった。


早く出て行ってくれたら
肩の荷が下ろせる。


そう思ってきたのに、
明日からもういないのか。
そう思うと
涙が出てきた。




息子が旅立つ最後の夜。
無性におでんが食べたくなって、
仕事から帰るのが遅くなったけれど
おでんを煮た。


何人分作ってんねん。
帰ってきた息子がお鍋を見て
笑った。


5人家族みんなが
笑ってご飯を一緒に食べていた頃の
量のまんま。


きっと何日も
私も次女の二人で食べるのだろう。


お鍋を見ていたら
涙が出てきた。


息子よ
結婚おめでとう。


明日の朝は
見送らせてもらうよ。
いい家庭を築くことを
願っているからね。