メモリー32:「早すぎる提案!?揺れ動く心!」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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 今のボクや…………私の考え方が本当に正解なのかどうかはわからない。けれどこれで少しでも自分の中にある苦しみやもどかしさが軽くなるのであれば………………相手にすがるくらい依存するのも悪くないかもしれない。いや、そんなことないか。この考え方が通じ合うのはボクと…………私だけだ。


 結局自分のせいで彼女はしばらく身動きが出来なくなっていた。すべてはボクが弱いせいで。ボクの気持ちが落ち着くそのときまで彼女は………チカはそばにいてくれたのだ。何も言わず、ぎゅっと抱き付き、頭を撫でてくれた。あの優しい笑顔でずっと。まるで本当に母親が子供をあやすかのように。


 「ありがとう、チカ。本当にごめん………」
 「ううん、私は大丈夫」
 「でも道具の買い出しがしたいって…………」
 「そんなの最悪明日も救助活動を休止にして行動すれば良いだけの話だよ。どうせメモリーズはまだまだ無名な救助隊だから、依頼の手紙も絶対私たちがこなさないといけないなんて理由、どこにもないと思うし…………」


 しばらくしてようやくボクの気持ちが落ち着いてきた。不思議なことにチカがぎゅっと抱きついてくれた間、周りから守られてるような………そんな物凄く優しい温もりと安心感を覚えていた。よく考えたらボクは今、孤独な身。不安を覚えない方が不思議なことなのかもしれない。


 そして彼女のこの言葉でボクにあった変な意識は無くなることとなる。


 「それに…………私はユウキに必要とされてるってだけで凄く安心できるんだ。知ってるでしょう?私が“役立たず”って思われて過ごしたこと。だから誰かに必要とされてるなら、それだけで私には自分を助けることにもつながるの。自分にはまだ必要としてくれてる人がいるんだって。そしてその可能性があることを教えてくれたのはユウキ…………あなたなんだよ………」


 彼女は自分の耳元ですすり泣きしながらこのようなことを言う。そうだとしたらボクのこの弱い一面も決して悪いことばかりじゃないのかもしれない。彼女も彼女で苦しんで悩んでることがあるんだ。なんだろう。上手く言葉に出来ないのがもどかしい。彼女にとってボクが抱え込んでる方が、自分の無力さとか歯がゆさを感じていたのかもしれない。だとしたら……………、


 (ボクはもっとチカと協力して生きていく必要があるのかもしれない。だってチカはボクにとって人間時代のすべてを失い、右も左も………それから元の世界へ帰る方法すらわからない………この世界でのボクのたった一人の仲間。いや、“パートナー”………いや………)
 「!!?…………ユウキ!?」


 …………たったひとりの“友達”だから。


 ……………彼女は驚きを隠せずにいた。仕方ないかもしれない。なんたって突然自分が抱きしめていた相手に、逆にぎゅっと抱きしめられたのだから。だけどすぐになんとなくその状況を受け入れることが出来たのか、またすぐにボクの腕の中でニッコリと微笑んだ。


 「チカ。ボクはキミを守ってみせる。強くなってみせるよ。努力して。約束だもんね。キミと一緒に“メモリーズ”を………誰にも負けない世界一の救助隊にするって。ゴメンね。心配かけて………」
 「ユウキ…………いいの。私が“おくびょう”なせいで、何も関係のなかったあなたに負担をかけてしまうことになったんだから。でも忘れないでね。“リーダー”って言ってもみんな同じポケモンとして生きている。だからタイプの相性で苦手なこととか、きっと一人じゃ出来ないこととか出てきてると思うんだ。そんなときは抱え込んだり、背負いすぎないで一緒にがんばろ?そのために“いっしょにいこう”って作戦を決めたんだから。私、ユウキのためだったら頑張るよ。自分の夢を叶えさせてくれた存在だから………」
 「うん、そうだったね。もう失敗しない。これからもっと頑張らないとね」


 聞き飽きるほど聞いたチカの気持ち。でも自分がちゃんとその言葉を汲み取らなかったから、お互いの歯車が噛み合わずに救助活動失敗という事態に陥ってしまった。二度とそんなことがあってはいけない。だからこそボクはもっとチカに対して素直な気持ちで接しようと考えるようになった。ワガママになって図々しくなるかも知れないリスクはあったけど。






 「…………チカ、ボクの方からもお願い良いかな?」
 「え?」


 自分の意見を聞いてくれたあと、彼から逆にお願いをされました。ユウキは今まで自分の意見を我慢しがちだったと思うので、一体どんなことを言われるんだろう…………と変にドキドキしてしまいました。でも、受け入れてあげたい………。彼に尽くしたい。


 「うん、良いよ。教えて?」
 「あのさ、その………大したことじゃないけれど…………なんだろ。その………」
 「?」


 急にもじもじするユウキ。ますますよくわからなくなって私は首を傾げてしまうことに。それと共にドキドキ感も高まっていきました。


 「あの、その…………本当に出来ればで良いんだけどさ…………出来ればここで一緒に暮らさない?」
 「え!?一緒に………暮らす!?」
 「うん。その方がボクも寂しくないから………。ずっと一瞬でも離れてしまうと………寂しいんだ。もっともっとチカにそばにいてほしい………」


 私はその瞬間、時間が止まったような感覚になりました。まさかそんなことをお願いされるなんて…………。そんな………まだ心の準備、出来てないよ…………。確かに私も帰る場所が無いし、ちょっとずつそんな気持ちになっていたけど…………でも、今はまだ。


 「チカ…………?」
 「ユウキ。…………ゴメン…………」
 「え?」
 「私にはまだ早すぎるよ。気持ちはわかるけど、まだ心の準備が………」
 「いやいや、そんなつもりで話した訳じゃないよ!一緒にいれば何か起きたときにすぐに動けるし………、キミがさっき素直に気持ちを伝えてほしいってそんな風に言ったから…………だったらどうかなって………」
 「……………」


 チカはボクの弁明をきちんと聞いているのだろうか。ずっと恥ずかしそうに顔を赤くさせてうつむいた状態を続けたままだ。先ほどまでのちょっとした良い雰囲気が台無しなくらい、気まずい重い空気に変化してしまった。


 (なんてバカなんだ、ボクは…………)


 こうなってしまったら寂しいとか、チカがそばにいると嬉しいとかそんなこと言ってられなくなってしまった。そんなことよりもどうしたらチカの機嫌が良くなってくれるだろうかに必死になった。とにかくやるべきことはひとつ。


 「チカ、ゴメンなさーーーーい!!」


 今までもヘンテコなことを言ってはチカの機嫌を損ねたりするところを見ると、どうも自分は女心というものに物凄い疎いんだな………と、このとき感じた。そんな感じで動揺して右往左往してるものだから、だんだんとチカも呆れたような表情へと変わっていく。ため息をついてジトーとした不愉快そうに振る舞う姿が飛び込んできた。


 (ま、まずいな。嫌われたぞ、これは絶対に)


 別にボクはチカに対して恋心みたいなものは感じておらず、本当に普通の友達でいられるならそれで良かった。だからこそチカの大胆なスキンシップには毎回ビックリ仰天になるのだが。けれどもさっきも言ったように、この世界で唯一頼れる存在でもあるため「嫌われてしまう」ことだけは避けたかった。それなのにこのザマである。必然と焦りは募るばかりだった。


 「ユウキのバカ。分からず屋」
 「ゴメン…………」


 ボクは彼女の言葉に何も言い返さなかった。正直イラッとしたのも事実。だけど彼女の言ってることは正論だし、ここで変に言い返したりしたらまた揉めてしまうのは火を見るより明らかである。そうなってしまったら本当に嫌われ、自分の唯一の癒しを失うことを意味している。生きていく自信が無くなってしまうだろう。情けない話だなあ………なんてボクが思ったそのときだった。


 「クスッ。やっぱりユウキって変」
 「はぁ!?」


 突然口元を抑えてチカがクスクス笑い始めたのである。これにはまたボクもビックリするしかなかった。その姿を目にした彼女はまた笑顔になる。多分ボクのオーバなリアクションが滑稽に感じたのだろう。なんなんだ、全く。カッコ悪いな………ボクって。


 (でもまあ彼女に笑顔が戻ったなら、それはそれで結果オーライで良い………のかな)


 それでも安堵できる自分がいる。チカがこれから先もボクの“パートナー”…………そして友達でいてくれるなら、今はそれだけで良い。


 本当は片時も離れてほしくないんだけれど、それはこれからのボク次第なんだろうな。自分にとって彼女が必要な存在であるみたく………いやそれ以上に、もっと自分が彼女にとって必要な存在であり続けること。何度も繰り返すことになっちゃうけど、別に彼女に恋心がある訳じゃない。ただ、何となくその方向を目指すことがもしかしたら自分が「ヒトカゲになって生きている意味」なのかもしれないと解釈したのだ。


 そこを目指しながら、ひとつひとつ元の世界に戻るための答えを見つけていけば良いんだと思う。今までヒトカゲになったことやチームのことで頭がいっぱいでふらついていたけど、ようやくひとつ目標が出来て良かったと思う瞬間だった。









 ……………その夜のこと。私はユウキと別れた後でまだ営業を続けていたカクレオン商店で道具を買って補充して、今の住居である大きな穴の空いた木の幹の中で丸くなっていました。最初は落ち着かなかったけれど、日を追うごとにその環境にも慣れてきて…………さっきまでのことを考えていたのです。


 「ユウキに悪いことしちゃったかなぁ。でも、いきなりあんなこと言われちゃったらビックリしちゃうよ…………。まあ、謝っていたから笑ってごまかしたけど………。恥ずかしかった…………」


 今思い出しただけでもカーッと顔が赤くなりそうな感じがします。だって「一緒に暮らそう」なんて提案、それってカップルが言うような内容だから。私とユウキのように「リーダーとパートナー」の関係だとちょっと意味が違うような気がするから。でも…………、


 「ユウキがそうしたいって言うなら、いつか本当に一緒に暮らした方が良いかも知れない。今はまだ無理だとしても…………それがお互いに幸せになるための手段だって言うなら………」


 まだこのとき私もユウキへの恋心みたいなものはありませんでした。純粋に友達として、救助隊のパートナーとして出来ることをしたいって気持ちだけ。それくらい彼には感謝の気持ちを抱いていたのです。


 「いつか一緒に暮らせたら良いね………」


 私はそうやって呟くと、うっすらと瞳を閉じたのでした。



 (……………う~ん。やっぱり早すぎたのかな。思いきって自分の考えを伝えたけど。でも…………当たり前か)


 その頃ボクはチカが用意した“オレンのみ”を頬張っていた。行儀が悪いかもしれないけど寝転びながら。そうしてなんだかひとり自分の行動を振り返って、ひとり突っ込みを入れる。相当傷は深かったが、定期的に“オレンのみ”を食べて安静にしていたら、段々と元気を取り戻していることを実感する。なんとなく明日には全快しそうな感じがした。


 (間違って意味が伝わった感じもするしなぁ。しばらくまだバラバラに行動するしか無いのかな。毎日迎えに来てくれるのは嬉しいけど、きっとチカだって大変だろうに。でも家族でもきょうだいでもない男女が同じ場所に住むって、やっぱり変だよな。でも何とかしたいな~。チカの負担を減らしてあげたいな。どうしたら良いんだろう)


 ボクはう~んと考えをごちゃごちゃさせながら、最善策を模索してみる。当然ながら結論が出ることは無い。段々と睡魔が自分に襲いかかってくる。


 「いいや。とにかく今は怪我を治そう。そのうち良い考えだって出てくるさ。それよりも眠たい!おやすみ!!!」


 ボクはそのまま寝ることに決めた。目を閉じるとあっという間に夢の中へと落ちていく…………。



 (…………ここは?夢の中?)


 そうだ。一昨日も似たような景色が広がっていた。間違いなくここは夢の中だ。自分は夢を見ているのだ。まあそこまでは良いとして、問題はここからだった。


 (なんだ?………チカ?どうして?)


 なんと驚いたことに、そこにはハート型のしっぽのピカチュウが座っている。初めは別人かと思った。しかし首に救助隊の証であるバッジ付きの赤いスカーフを巻いてる所を観ると、間違いなくチカだった。でも何となく様子がおかしい。これは…………どこかで見たことがあるぞ?


 (そうだ。あのときの幻覚の中での様子だ。温もりも何も感じない、この冷徹な感じは…………。一体今回は何が目的なんだ!?)


 ボクは思わず身構える。すると気配を感じ取ったのか、彼女はこちらへと振り返ったのである。


 …………一方でその頃、“ハガネやま”9階。ここでは思いもよらず危機が迫っていた。


 「パパ……………怖いよ。どうしてボクたち置いてきぼりにされちゃったの?あの人たちって救助隊じゃなかったの?」
 「ディグダ…………。情けない話だが、私はアイツらに騙されてしまったようだな」
 「お黙りザマス!!さっきたちのポケモンたちが誰だか知らないザマスが、今まで散々私の安眠を妨げた罰ザマス!おとなしくしてないと無事では済まないザマスよ!」
 「ひいぃぃぃ…………」


 危機に晒されていたのは、ボクたち“メモリーズ”の依頼の失敗に憤ったダグトリオとディグダの父子であった。酷く疲労して、この山の主とも言えるエアームドに度々威嚇されている。
 

 (こうなれば、他の救助隊に向けてこのメールを出さねば………。頼むぞ…………)


 ダグトリオの必死な想いが込められた一通の“たすけてメール”は、スッとその場から消えた。



         …………メモリー33へ続く。