ドガースにズバット。覚えていろよ。今回はお前たちに負けたけど、次出くわしたときは絶対にソラの大切な宝物………奪い返してやるからな!
「ポケモン発見!!ポケモン発見!!」
「!?」
ポケモンたちが一流の探検隊になるための修業をしてるという“プクリンのギルド”。網が敷かれた穴が、その建物の入り口のの前に設置されている。…………で、たった今びくびくしながらソラがその網の上に乗ったと言う段階だった。
「キャッ!!こ………怖い!怖いよ!!」
ブルブル震えている彼女の姿を見て、ぼくはなるほどなぁっと思った。恐らくこの網の中はギルドへの入門希望者を監視する…………いわば一般家庭の玄関で言うところの“覗き穴”のような役割をしてるのだ。そりゃそうか。この恐らく人間なんか存在しないポケモンたちだけの世界で有名な施設なわけだから、入門希望者に紛れて侵入者がいる可能性もあるからね。
どうやらソラはその仕組みをそこまで理解してないんだろうな。何度も何度も突然下から叫び声が聞こえて挫折したらしいし。そりゃあビックリするだろうけど。………とにかく、からくりはわかったぞ。
「誰の足型?誰の足型?」
(………?他にも誰かいるみたいだな)
この“覗き穴”には複数のポケモンがいるようだ。先ほどの声とはトーンも口調も明らかに違う。
「足型は………ピカチュウ!足型はピカチュウ!」
「わわっ!!」
下から聞こえる声に驚きっぱなしなソラ。途端に不安を感じたのかブルブルと震え出している。それでも彼女は「い、いや、ここはガマンしなくちゃ………」と、その場で我慢し続ける。何度も何度も自分に言い聞かせながら…………。
(がんばれ………がんばって、私。今日は大丈夫………大丈夫だよ?ススムがいてくれてるから………)
ボクは眉間にシワを寄せ、腕組みをしながらそんな彼女の様子を背後でじっと見守る。すると覗き穴の方からこんな声がした。
「……………よし。そばにもう1匹いるな。オマエも乗れ」
「え?」
(ふぁぁ!?あれで終わり!?)
その言葉に思わずツッコミを入れてしまったぼく。あのシビアな緊迫感は一体何だったのか。ソラが乗っていたのは10秒にも満たない。あまりにもあっけない始末に、そのソラもキョトーンとしていた。今までの苦労は一体何だったのか………と、急に恥ずかしくなって赤面したまま、ぼくと対面しないように………そっと覗き穴から降りてくる。そして背を向けた状態でぼくにこのように伝えてきた。
「多分、ススムのこと言ってるんだと思うよ。ここに乗れって」
ぼくは何故だか納得できない気持ちを抱え続けていた………が、それが自分の度忘れなんだと気づく。
(…………あ、そうか。ソラと探検隊やるんだから、ぼくもチェック受けなきゃいけないのか…………)
彼女の説明だと、ポケモンたちが一流の探検隊を目指すためにこのギルドにやってくるのだと言う。ならば今の自分も同じ状態だ。
(………………)
ぼくは遠くから覗き穴を観察する。
(…………穴の上に細かい格子が張ってあって…………誰かが上に乗っても落ちないようになっているんだけど………、でも何か妙なんだよね………。あそこの上に立ったら足の裏がこそばゆそうというか………)
何だか知らないけど、いつの間にか腕組みをしながらそんなどうでも良いようなことを難しく考えていた。すると、穴の下から怒鳴り声が聞こえてきた。「おい!そこのもう1匹!早く乗らんか!」と。ビックリしたぼくは急いでその穴の上に乗ってみる。ソラはというと、そんな自分のことを心配そうに目で追いかけた。すると、
「ポケモン発見!!ポケモン発見!!」
「誰の足型?誰の足型?」
ソラの時と同じように穴の下から声がしてくる。しかし何か違和感を感じた。なぜかというと、
「足型は………足型は…………エート………」
「どうした!?見張り番!ん?見張り番!?」
明らかに下の方でパニックが起きてる感じが伝わってきたためだった。何だろう、この関わってしまったらまずそうな微妙な空気は。
「見張り番の“ディグダ”!どうしたんだ!?応答せよ!」
「んーと………エート…………」
遂に痺れを切らしてしまったのか、誰かが見張り番の正体をうっかり口に出してしまった。どうやらソラやたくさんの入門者をチェックしていたのは、もぐらポケモンと呼ばれる種族のディグダのようである。急かされたことでますますパニくってるのが伝わってきた。だ………大丈夫なのか?なんだかこっちが心配になってくる。
「エート………足型はぁ………多分“ヒトカゲ”!多分“ヒトカゲ”!」
『だああああ!!』
ボクとソラは思わずズッコケてしまった。良いのか、そんな曖昧な返事で。いや、合ってるけどさ!?
「なんだ!多分って!?」
「だ、だってぇー………。この辺じゃ見かけない足型なんだもん………」
「あーもう、情けないな!足の裏の形を見てどのポケモンか見分けるのが………ディグダ。お前の仕事だろう?」
「そんなこと言われてもぅ………。わからないものはわからないよー」
「…………………」
足元から聞こえてくる奇妙なやり取りに、ぼくとは何と反応して良いのかわからないくらいの微妙な空気に包まれた。そしてそれはソラだって同じだった。彼女は首を傾げて困惑したような表情でぼくに話しかけてくる。
「……………。なんか………なんか揉めているのかな…………」
そうやって一言だけ。………と、ここで再び足元から声が聞こえてきた。
「…………待たせたな。まあ………確かに“ヒトカゲ”はここらじゃ見かけないが………でも、怪しい者では無さそうだな…………。よし!良いだろう!入れ!」
(良いのか!?そんな簡単に!)
もはや威厳も怖さもなんも感じないその声に、ぼくは思わず突っ込んでしまう。
(…………というかソラもそうだったけど、“ヒトカゲ”ってこの近辺じゃそんなに珍しい存在なのか。だとしたら本来はどこに住んでいるんだろうか…………)
ぼくはこの辺りで珍しい存在とされる“ヒトカゲ”へと自分がなったのも、この世界には本来存在しない人間だったことを示す重要な意味合いがあるのではないか…………と、そのように勝手に思い込んでいた。
ガラガラガラガラガラガラ、ドーン!!
「ひゃー!」
「わわっ!!」
プクリン型建物のお腹部分にあった格子型の扉が開いた。それを見てソラが驚きの声をあげた。あまりにもそれが大きかったので、思わずぼくも驚きの声をあげてしまう。
「ごめんねススム。キンチョーしてるせいか、いちいちビックリだよ。でも入れるようになったみたいで良かったね。まだドキドキしてるけど…………。とにかく行ってみよう」
「うん、そうだね…………って!なんでボクの後ろに隠れてるのさ!?」
「だって怖いんだもん…………」
「しょうがないなぁ…………」
ぼくは苦笑いを浮かべて建物の中に入って行く。その後ろからソラもついてきた。
建物の中に入ると、また奇妙な景色が広がっていた。まず天井から壁に均等な間隔にかけられた3枚の布。植物が自生してるのか、それとも人工的に誰かが植えたのか壁なり床なりから生えていた。そしてぼくの左手に立つソラの更に左側には大きな木製の看板が、ぼくの右手には、これまた大きな木製の矢印の看板が左斜め…………つまりぼくらの真っ正面の床側を向いていた。そこには……………
「こ、こんなところに地下の入り口が!!」
そう、梯子によって更に地下深くにつながる入り口があった。お互いに顔を見合わせて「うん」と小さく頷き、その梯子を怖々しながら降りていった。
「わぁ~!ここがプクリンのギルドかぁ!」
チカが嬉しそうな表情をした。目を輝かせてフロアの中を歩きだす。無理も無い。先程のフロアは大分薄暗い感じがしたけど、このフロアはむしろ明るかったのだから。いかにも地下を掘って造り上げたという雰囲気が、壁や天井からに張りついて育っている草やツタなどから想像できた。だが、足元に視線を移すとそこには可愛らしい小さな花が咲くほど緑が映えていた。誰かが草を植えたのだろうか?いずれにせよ綺麗な景色が広がっていた。
「ポケモンたちがたくさんいるけど、みんな探検隊なのかなあ」
彼女の言うように、たくさんのポケモンがにぎやかに談笑している。パッと見渡しただけでビッパ、キマワリ、レディバ、ケムッソ、オオスバメ、ポッポ、タネボー。そういった種族のポケモンである。彼らもここに所属して探検家を夢見て修業するポケモンたちなのだろう。ぼくらもこの中に混ざってこれから活動することになるのだろうか。………なんてことを考えていたそのときだった。
「おい!」
突然遠くから強い口調の声が聞こえた。ちょうどぼくたちが降りてきた入り口から。その方向へ視線を移す。するとそこからトコトコと1匹のポケモンが歩いてくる。
(あのポケモンは………。そうだ、ぺラップだ。おんぷポケモンの。いきなり声をかけてきたけど一体何者なんだ?)
ぼくは半歩下がって身構える。万が一に備えて。それで無くても今日はソラを守りきれず、悔しい敗戦を喫した後なのだ。
そんなことに気づく様子も無くそのポケモン…………ぺラップは再び声をかけてきた。
「さっき入ってきたのはオマエたちだな?」
「は、はい!」
ソラが背筋をピンと伸ばして緊張した様子で返事をする。もしかして彼がさっき見張り番のディグダに厳しく注意をしていたポケモンなのだろうか。なんとなく険しい表情に感じる。
「ワタシはぺラップ♪ここらでは一番の情報通であり………プクリン親方のイチの子分だ♪勧誘やアンケートならお断りだよ。さあ帰った帰った」
(はあああああああああああああ!?)
思わずぼくはズッコケそうになった。どうやら完全なる人違いみたいだ。そんなことよりなんだかこの人ぼくたちのことを勘違いしてるぞ。思い切り突っ込んでしまったじゃないか!!
「ち、違うよ!そんなことで来たんじゃないよ。私たち探検隊になりたくて………ここで探検隊の修業をするために来たんだよ」
慌てた様子でソラが事情を説明する。…………というか、ここに見張り番に厳しく注意していた人が承認して入れた事すら伝わってないってどうよ……………。
「えっ!た、探検隊!?」
「!?」
(いや、そこまで驚く問題かいっっ!!)
またしても突っ込んでしまったじゃないか。何なんだよこの人。この人が探検家志望のポケモンを育てるギルド設立者の子分って大丈夫なのか?……………って…………あれ?
「今どき珍しいコだよ。このギルドに弟子入りしたいとは…………。あんな厳しい修業はもうとても耐えられないって………脱走するポケモンも後も絶たないと言うのに………」
なんかよくわからないうちに、ぺラップは後ろを向いて何やらボソボソ呟いていた。そこへ長い耳を折らして疑問の表情を浮かべるソラが一言。
「ねえ。探検隊の修業ってそんなに厳しいの…………?ギルドのみんなは怖い人がいるの?女の子じゃ難しいの………?」
「はっ!?」
「キャッ!?」
「!!!!!」
「いやいやいやいやいやいや!!そ、そんなことないよ!探検隊の修業はとーっても楽チン!女の子でも全然問題から安心して!!」
「良かったぁ♪」
(嘘つけ)
三度ぼくは突っ込みを入れる。ぼくより聴力が鋭いソラの純粋なウル目に動揺して、大慌てで羽をバタバタさせたことくらいわかるぞ。彼女はすっかり安心して満面の笑顔になってるけど。
「そっかー♪探検隊になりたいなら早く言ってくれなきゃー♪フッフッフッフ♪」
『…………………』
「どうしたの?じゃあ早速チームを登録するからついてきてね♪」
ぼくらは開いた口が塞がらないくらい反応に困ってしまった。数分前の「さぁ帰った帰った」という冷たい発言をした同一人物とは思えない。
「…………なんか急に態度が変わったね………」
「う、うん………」
「何してんの?こっちだよ♪さあ早く♪」
ぼくとソラはお互いに向かい合う。先行きが不安だ。とはいえ…………まぁこれで探検隊としてギルドに入門出来るなら、それで良いか。
……………ぼくとソラは恐る恐るぺラップの後に付いていった。
ぺラップに連れられて、ぼくたちは更に梯子を降りた。たどり着いたその場所は先ほどのフロアに似たような感じ。異なっていたのは周りを右手にピンク色に塗られた板と、白い板が交互にアーチ型に装飾された不思議な扉が梯子から見てボクが立つ右側にあること。
反対にソラが立つ左側には、何かのポケモンをモチーフにした石造りの物体が設置されていることか。よくみると胴体部分が空洞になっていて、ポケモンが一匹いた。
(確かあのポケモンは…………)
「ここはギルドの地下2階。主に弟子たちが働く場所だ。チームの登録はこっちだよ。さあ」
ぼくがそのポケモンの種族のことを考えていると、ぺラップの案内が始まり、不思議な扉がある方へと連れられたた。………………と、ここで急にソラが何かに気づいたのか、部屋の中を四つ足の格好で走り出した。
「わあ!見てみてススム!ここ、地下2階なのに外が見えるよ!」
「いちいちはしゃぐんじゃないよ!」
「ひっ!!」
目を輝かしてぼくを誘うソラ。そんな彼女なに向かって、ぺラップが鬼の形相のごとく怒鳴った。それにしても凄い変幻っぷり。
「このギルドはガケの上に立っている。だから外も見えるんだよ!」
「へえ~っ」
ソラはそんな彼のことなどまるで気にもせず興味津々な様子で外の様子を眺めていた。
「さあ、ここがプクリン親方のお部屋だ」
「えっ!!?いきなりプクリンに会えるの!?私、ずっと憧れていたんだ!!」
「オマエ、失礼な!!親方さまを呼び捨てにするな!!」
「ひゃっ、ごめんなさい!」
「これだから世間知らずは…………!くれぐれも………くれぐれも粗相が無いようにな」
ぺラップから執拗に注意を受けるソラ。やっぱりそれだけ有名ってことなんだとぼくは思った。そしてそのプクリン親方はこの扉の先にいる…………。なんだか緊張してきたな。
「親方さま。ぺラップです♪入ります………」
扉を叩いてから入室するぺラップのあとに、ぼくとソラも続く。
「親方さま。こちらが今度新しく弟子入りを希望している者たちです」
部屋に入ってずぐにピンク色のカーペットの上に乗っているピンク色の球体が目に入った。ぼくらの右側に立つぺラップが「親方さま」と呼んでるところを見ると、どうやら彼がこのギルドの設立者、プクリンのようである。それにしても…………
(凄い部屋だな。両サイドに見たことのないボールがたくさん入った宝箱とか、箒火って言うの?建物の入り口のところにもあった灯りを燃やしたような後があるけど…………)
この親方の部屋の中も特徴的。他には真っ正面には彼の姿が描かれた大きな布が天井からかけられてる。それと似たような布が両サイドにかけられていた。足元に視線を移すと、ここにも花が多数咲いている。本当に独特な雰囲気だった。
「親方さま………。…………親方さま?………」
ぺラップは何度か声をかけていた。しかし、全く返答がない。ピクリとも動かない。どこか調子が悪いのだろうか。だんだんとぼくとソラは心配になり、お互いに顔を見合わせる。
……………と、そのときだった。
「やあっ!!」
『わあ!!』
「ボク、プクリン!ここのギルドの親方だよ?探検隊になりたいんだって?じゃ、一緒にがんばろうね!………………あれ、どうしたの?」
『急に大声出さないでよ~……………』
「あははは、ごめん…………」
ギルドの親方、プクリン。彼もまたかなりツッコミどころが満載だなぁと、仰向けで大の字になりながら目を回すぼくとソラだった。