4匹のビリリダマたちの体が、一斉に眩しく光り始めた。“だいばくはつ”寸前のサインである。こうなるとどうにもならない。せめて“えんまく”だけでも放ちたい。放てばまだどうにかなるかもしれない………頭の中でわかってるだけに、痺れと痛みで体を動かせないのがもどかしい。
(せっかくここまで来たのに………!今日は一緒にチカと喜べる………そう思ったのに!)
自然と悔し涙が溢れてくる。そういえばボクは昨日も悔し涙を流していた。「正式な救助隊ではない」という理由で、“おくびょう”ながらも、何もわからないボクを支えてくれたチカの頑張りを消された理不尽さへの悔しさ。内に大きな想いを秘めながら、なかなか一歩先に踏み出せなかったチカの…………そんな彼女の頑張りに何も出来なかった自分への悔しさだった。
だけどその「悔し涙」も、こうして正式な救助隊“メモリーズ”を結成すれば報われるはずだった。この初仕事を達成すれば報われるはずだった。何より救助隊に憧れていたチカと一緒に達成して、彼女と一緒に喜びたかった。彼女の喜ぶ姿が見たかった。ただそれだけで良かった。
確かにまだ“メモリーズ”は駆け出しの救助隊だと言えばそれまでだろう。とはいえパートナーのチカ、そしてコイルたちまでも守りきれず、ボロボロになってしまった。自分の力不足が本当に腹立たしく感じる。
(本当にこのまま終わっちゃうのか!?何とかならないのか!?)
目の前の視界はどんどん眩しくなるばかり。さすがにもうどうにもならないと思い、ボクは頭を伏せた。せめてチカやコイルたちだけは脱出させたかった…………そんな後悔を抱きながら。
「ククク、ようやく諦めがついたようだな?あばよ………!」
ボクのその姿を“降伏”と捉えたのか、リーダー格と思われるビリリダマが薄ら笑いしながらこう言った。
「ダメ!!まだ諦めないでーーー!」
(この声は!…………チカ!?)
そこに突然耳に飛び込んできた女の子の声。それは間違いなくボクのパートナー、チカの声である。でも、ずっと気を失っていた彼女がなぜこのタイミングで目を覚ましたのだろうか?
(…………そうか!!バッジの効果だ!そういえばダンジョンの中でも、体力を少しずつ回復させてくれる効果があるんだった!すっかり忘れていたよ!)
ボクは洞窟の最深部でマルマインとの激突で自分が気絶していたとき、チカが相手からの攻撃に耐えながら、自分の体力回復の時間稼ぎをしていたことを思い出した。
最もボクと違って、彼女の場合は始めからこのバッジの効果を知っていただろうから、恐らく計算通りに実行出来た作戦だったと思う。
この場から脱出する道中で起きた爆発という妨害から、ただただ必死に逃れていた時間が結果として、チカの体力回復の時間稼ぎに繋がったというたまたま起きた“偶然”とは余裕も意味合いも全然違う。なんというか…………ここでも自分の知識不足が露呈していて、素直に彼女の復活を喜べる気分では無くなっていた。
しかし、そんな気分に浸っている余裕もそんなに存在してない。チカが復活しても危機に直面している状況に変化が起きた訳ではないのである。
「チッ!!しつこいヤツめ!だが、もう遅い!俺らの“だいばくはつ”はもはや止めさせることは出来ないからな!くたばれ!!」
「危ない!!チカ、下がれーーーー!」
目を開けるのも困難なほどの光。チカがどの位置にいるのか確認できないが、思い切りボクは叫んだ。彼らの言うように“だいばくはつ”を食い止めることは不可能。だからこそチカを早く退避させなければならなかった。………と、その直後だった!!
ドガァァァァァン!ドガァァァァァン!!ドガァァァァァン!!!ドガァァァァァン!!!!
「うわああああぁぁぁ!!!!」
遂に“だいばくはつ”が始まった!物凄い爆音と共に、爆風と衝撃が襲いかかってくる。その影響で砂ぼこりも起きているようで、地面にうつ伏せていたボクもコイルたちも何度か蒸せてしまう。このままじゃ本当に終わってしまう………と、その時だった!!
「ユウキ、逃げて!!コイルたちも!!こっちに早く!!」
再びチカの懸命な呼び掛ける声がボクたちの耳に飛び込んできた。なんとかその声に応えないと…………!もう、その一心だった。変わらず体は思うように動かせない状態ではあったが、爆風や衝撃の嵐の中で最後にもう一度懸命にもがいてみるボク。……………すると!
「コレハ?…………ビビビ!!」
「イッタイドウイウコトダ?…………ビビビ!!」
(体が………軽い!?)
そのときボクたちは自分の体が軽くなった感覚を覚えた。体への痛みはそれほど癒えてはなかったが、あれほどビクともしなかった体が容易に動かせて起き上がることもできる。さらに少し歩くだけでかなり移動ができた。それに加えて今までより瞬発力が上がり、フットワークも良くなっていることにも気がついた。
自分の身に起きた数々の変化に困惑するばかりのボクたち。そこにもう一度チカの懸命な呼び掛けが洞窟内に響いた。
「ユウキもコイルたちも逃げて!!早く!早くってば!!」
「う、うん…………そうだね!行こう、コイルたちも!」
ボクの言葉にコイルたちも険しい表情で頷いて後を付いてきた。意識が戻ったとはいえ、まだ“だいばくはつ”が収まったわけではない。事実、起き上がってから何度か爆発で飛び散った岩の破片も襲ってきた。だが、その度にチカが少し離れて、かつ周りを見渡せるほど高い場所から電撃で遠方射撃、撃墜してボクらの身を守ってくれてる、そんな現状が続いていた。
(とにかく、洞窟が崩れてしまう前に早く脱出しなきゃ!)
チカだってまだ体力が完全に回復してる訳では無いはず。時折ふらついたり、汗を拭ったり、呼吸を整えてる姿からも容易にそれは想像できる。
だが、チカはそんな中でもボクの力量不足を自分なりにカバーしてくれている。そんなサポートもあって、ボクたちは本当に少しずつではあるが、“だいばくはつ”の中をかい潜り、彼女の元へ近づいていった。そしてチカもまた、少しずつボクたちと合流することを目指して歩き始めた。
ボクはチカは本当に頼りがいのある“パートナー”だなと感じていた。昨日からそうだが、本当にチカに出逢えて良かったと思う。人間から記憶を無くし、“ヒトカゲ”になった理由が全くわからないこの不安感が消える事はないが、その事さえ一瞬忘れられるくらい、彼女の度重なる温かいサポートを受けられる事には幸せを感じるばかりだ。
だからこそ今はただ、チカと一緒にみんなでこのダンジョンから脱出したい。チカが救助隊としての自信が持てるように、この初仕事を成功させたい。チカが喜んで笑顔になる姿が見たい。間違いなくあの笑顔は、まだ不安でいっぱいなボクの癒しになってるし、力になってるから。その為にもこんなところで絶対に諦めちゃいけない…………と、自分を励ましながらボクは“だいばくはつ”の中を必死にかい潜り続けた。
その後も“だいばくはつ”は続いた。爆発の度に地鳴りや衝撃、爆風などが襲ってくる。ここで救助活動を始めた頃に比べると、付近は見るも無惨なほど荒れ果ててしまっていた。天井や壁は至る所で崩れた事で転がってきた大きな岩をよじ登らないといけないくらい、行動範囲を狭くしている。おまけに床も崩れている場所が多く、足場を確保することすら難しくなってきてる。今まで薄暗い洞窟の中にいた影響もあってか、外からの光がかえって眩しく感じた。
階段も埋まってしまい、もはやこれより下の階層には進めない。最も地上に近いこの階層がこんな状態なのだから、これまでも爆発が続いた下の階層はもっと大変な状況だろう。ましてやそこで暮らしていたポケモンたちは……………。
そんな過酷な状況のなか、ボクとコイルたち、それからチカは互いに名前を呼び掛け合いながら合流を目指して歩き続ける。爆発で生じた黒煙やら砂ぼこりなどがごっちゃになり、視界はハッキリとしない。だからといってぐずぐずしてる余裕があるわけでも無い。こうしてる間にもビリリダマたちの“だいばくはつ”によって更に天井や壁、床の崩壊は続き、ますます脱出が困難になっているのだから。
(早く…………チカと合流しないと!みんなここで生き埋めだ…………!?)
そうしてるうちに、ボクらは行く手は阻まれてしまった。技をぶつけても壊せそうもないほど巨大な岩が目の前に出現したのである。
「イキドマリカ?…………ビビビ!」
「(チカは…………この先にいるのかな?)チカー!!ボクの声が聴こえるかーーい!?」
今まで以上にボクは大声で呼び掛けてみる。この岩がどれほどの厚さなのかはわからない。しかし、なぜかボクはこの先にチカがいるような予感がしたのだ。
そして、その予感は見事に的中することになる。
「………キ?ユウキ………!?そこにいるの!?私はここにいるよ!聞こえる!?」
「!?」
微かに聞こえたチカの声。よく見ると岩にわずかに隙間があり、そこから明るい光が溢れて射し込んでいるのが確認できた。………となれば、この巨大な岩も攻撃を加えたら壊すことが出来るかも知れない。
(どうする?一か八か技をぶつけてみようか?もうほとんど体力は残ってないから、チカのいる場所までたどり着けるかわからないけれど…………!?)
ドガアアアアアン!!ガラガラガラガラ!ドガアアアアアン!!ガラガラガラガラ!
『ウワッッ!!ビビビ!!』
「くっ!!」
再び轟音が響いた。恐らく“だいばくはつ”によるものだろう。一瞬後ろを振り向いたときには爆風と衝撃で、もと来た道も天井が崩落したり、床が抜け落ちたりして次々に無くなっていく光景が目に飛び込んで来た。自分たちに悩んでる余裕が無い事など、もはや火を見るより明らかである。
(ちくしょう!このまま生き埋めになるくらいなら、一か八か…………やるしかない!!)
ボクは最後の力を振り絞って、立ちはだかる巨大な岩に猛火を放ち始めた。
「ユウキー!!そこにいるの!?私はここにいるよ!聞こえる!?」
…………その頃、恐らく目の前の巨大な岩を隔て、自分の反対側にいると思われるユウキたちに向かって、私は懸命に呼び掛けを続けていました。始めはユウキから返事があったものの、途中からそれも無くなり、段々不安を感じました。
………あの瞬間。ユウキの呼び掛けのおかげで間一髪、“だいばくはつ”の直撃に巻き込まれずに済んだ私は、崩れた岩が乱雑に積み重なった高い場所から周りの様子を確認しつつ、避難をするユウキたちを掩護射撃しながら合流を目指しました。ですが岩が崩れて道が塞がれていたり、逆に床が抜け落ちている場所も多く、進むのに四苦八苦。そのうち彼らの姿さえも見失ってしまったのです。どうしようかと困りながら道なりに進んでいくと、正面から眩しい光が射し込んで来るのが見えてきました。
(…………もしかして出口?行ってみよう!)
今までに無いくらい全速力で駆ける私。段々と光が強くなるのを感じながら、とにかく走り続けました。
…………そして!遂に!!
「やっぱり!ようやく外に出られた!!良かった!」
私は“でんじはのどうくつ”から脱出することが出来たのです。赤いほっぺたを優しく撫でるように吹く心地よい風、それに乗ってくる花の香りや土の匂い、青い空や白い雲、少しまぶしく感じるけれど、柔らかい温かな陽射し。物凄い解放感に溢れていました。
普通に暮らしていればどれも“当たり前”のような景色ですが、今の私にはとても懐かしく感じました。するとどこからか私を呼ぶ声が聞こえてきたのです。
「“メモリーズ”カ!?ビビビ!!」
「ナカマハ!?ナカマハブジナノカ!?ビビビ!!」
「コイルたち?ごめんなさい。実は私、ユウキたちを見失ってしまって………。まだダンジョンの中にいるはずなんです」
「ソウナノカ……………ビビビ」
私の説明にガッカリと下を向いてしまったコイルたち。だからと言って自分に何か出来るわけでもなく、私は不安を感じながらじっと洞窟の入口を見つめることしか出来ませんでした。その時です。コイルの仲間の1匹が何かに気づいたようで、私にこのように聞いてきたのです。
「チカサン?ナニカ、ナニカキコエナイカ?ビビビ!」
「え?」
私は長い耳をピンと立て、研ぎ澄ますように周りの音を聞いてみました。すると、
(………!?何か聞こえる!?)
コイルの仲間の言ったように、確かに声がしました。本当に小さかったけれど、聴力に自信のある私には、ハッキリと誰かの声が聞こえました。
一体どこから聞こえるんだろうと思い、私はその声がする方向へ向かって一歩ずつ寄ってみました。そうすると、すぐにその場所を特定することが出来たのです。
「…………カー!!ボクの声が聴こえるかーーーい!?」
「ドコダ!?ダレノコエナンダ!?…………ビビビ!!」
「………ユウキだ!この岩の奥から聞こえる!あなたたちの仲間の声もするよ!」
「ホントウカ!?ビビビ!」
「ソレハヨカッタ!ビビビ!」
コイルたちは私の話で安心したのでしょう。急に表情が明るくなって喜んでいました。その様子に私も嬉しくなりました。
………そうです。私たちが耳にしたのはユウキたちの声。“でんじはのどうくつ”の壁を作る岩の奥から聞こえていたのです。つまり、この壁を隔てて反対側に彼らはいる。“ユウキに早く会いたい”……………そればっかり頭で思い続けてる私は、じっとしてなんかいられるはずがありませんでした。とにかくそこから声を出し続けたのです。
…………ですが、ここからは進展は見られずに時間だけが過ぎていきました。始めに言ったように段々とユウキたちの声も聞こえなくなり、不安ばかりが募るばかりでした。この先にユウキがいるのはもうわかってる。それなのに巨大な岩がそれを阻んでるのが、もどかしく感じるばかりでした。
(でも私は………私はユウキに会いたい。ユウキに会って初めての仕事が出来たこと、一緒に喜びたい。ユウキにちゃんとありがとうって言いたい。………だから悩んじゃダメだよね。なんとかこの岩を壊してあげなくちゃ!)
私は決心しました。じっと自分の何倍の高さも大きさもある岩を見つめ、赤いほっぺたに電気エネルギーをチャージし始めました。私がユウキのパートナーなんだから、もっと彼を支えられる存在にならなくちゃと言い聞かせながら。
(今日は昨日みたく悔し涙なんかで終わりたくない。夢だった救助隊の仕事してくれたユウキと笑って帰らせて!ありがとうって言わせて!)
私は電撃をぶつけました。色んな想いを乗せて。ですが、体力が万全な状態じゃなかったためなのか、思った以上にパワー不足で岩はびくともしませんでした。
(ううん!まだ一度ぶつけただけじゃない。諦めちゃダメだよね!)
私はもう一度エネルギーをチャージして電撃を岩へぶつけました。しかし岩に変化は何もありません。諦めずに何度が電撃をぶつけてみますが、状況が進展する様子はありませんでした。次第に技を繰り出し続けたことで疲労がたまり、一度私はその場で息を整えることにしました。
(フゥ………フゥ………フゥ………。やっぱり私の力じゃダメなのかな?)
目の前にある自分の何倍もの高さがある岩が恨めしく感じました。この岩さえ………この洞窟の壁さえ崩せればまたユウキに会えるのに、ユウキと一緒にいられるのに………そう思えば思うほど、この岩が憎らしくて仕方ありません。もしかしたら今まで生きてきた中で一番って思えるほど、この岩と何も出来ないでいる自分に憎しみの感情が生まれてる気がしました。そのとき、頭の中にまたあの声が聞こえてきたのです。
《役立たずだな~本当に。足手まといになるんだから引っ込んでろ!》
《本当にお荷物を拾ってしまったわね。これなら溶岩の海から助ける必要も無かったわね》
《誰のお陰で生きていられるか考えるんだな》
(イヤ…………。やめて!私は役立たずなんかじゃないの!足手まといなんかじゃないの!)
その場で屈み込む私。頭の中で何度も響くこの声を振り払おうと必死になりましたが、なかなか消えてはくれませんでした。さすがにコイルたちも何かがおかしいと感じたようで、「ダイジョウブカ!?」と、声をかけてきました。コイルたちを“助ける立場”のはずの私が、むしろ彼らに“助けられる立場”になってしまったのです。いくら駆け出しの救助隊とはいえ、これはあってはいけない事態。私もさすがにショックを受けました。
(やっぱり………やっぱり“役立たず”なのかなぁ?私って)
ふと、首に巻いた赤いスカーフに付いているバッジを私は見つけました。思えばこのバッジさえちゃんと作動していれば、ユウキたちもこんな苦しまずに済んだはず。まだ駆け出しの私たちがなぜこんな目に合わないといけないのか、もう不満ばっかりが込み上げてきました。このバッジが不良品だとしたら、このあとの救助活動にも影響してしまうのに。
(何なの!これじゃあまるで連盟からも救助隊やらないでって言われてるみたい!)
もう悔しくてたまらなかった。すんなりと物事が進まない現状に。やっぱりエーフィさんに言われたように、私たちには救助隊をやれるだけの実力が無いのかもしれない。そうですよね。普通の救助隊であれば依頼者をこんなに苦しめることは無いでしょうから。それを考えると体が震えて涙が零れるくらい、ますます悔しさが込み上げてきました。
(もっと私も力が欲しい!ユウキを支えるだけの力、依頼者をきちんと守れる力が!みんなに“役立たず”なんて言われない力が欲しいよー!!)
バリバリバリバリバリバリ!!
『!!』
心の叫びがエネルギーになったのでしょうか。赤い頬っぺたから電撃が放出されたのです。今までで一番辺りが眩しくなるほど強力なものでした。私も思わず立ち上がり、その行方を追いました。しかし、それでもまだ洞窟の壁を作る岩には何にも変化は起きませんでした。
(…………やっぱりダメかな。私の力じゃユウキたちを助けることが出来ない。私は何にも役に立てないパートナーかもしれない………)
この結果にガッカリした私は再びその場に座り込んでしまい、また俯いてため息をついてしまいました。………と、そのときです。
ズウゥゥゥン!!ズウゥゥゥン!!
岩の内側から定期的に地響きが聴こえてきたのです。ハッとした私はまじまじとその様子を見つめるばかりでした。
(ユウキ………?もしかしてこの内側でまだ頑張ってるの?諦めてないの?)
だとしたらまだ私も諦めるわけにはいきません。ユウキの支えになるのが私の役目。ユウキだって頑張ってる。何としても脱出の手助けにをしないといけないと。
(みんなには“役立たず”って言われてるけれど、私は負けない!だってユウキが認めてくれてるから。ユウキの力にならなくちゃ!)
私は再び赤い頬っぺたに電気エネルギーをチャージし始めました。
(くそ!!早くこの岩壊れてくれ!!じゃないとみんな死んでしまう!)
ボクは焦りを隠すことが出来なくなっていた。無理もない。後ろは“だいばくはつ”によってどんどん天井も床も崩れて足場がだいぶなくなってきてるし、爆風で飛んできた岩の欠片かなんかで体は傷つきまくってる。おまけにそばでは熱気に弱いコイルたちが苦しそうにしてるし、酸素も足りなくなってるのかボクまで息苦しく、しっぽの火の力も弱くなっているようだ。いずれにせよ、このままだと最悪な結果は免れない。何とかしないと………!
(ハァ………ハァ………ハァ………。ちくしょう………ボクの力だけじゃ全然………びくともしないや………。もっと強いパワーが無いと壊せないや………。ハァ………ハァ………ハァ………チカがいてくれればなぁ………)
ボクは落胆のため息をついた。多分ここにチカがいれば、一緒にこの岩を壊してくれるんだろうなぁと思えば思うほど、歯がゆさが増してくる。今まで周りがどのように彼女と接してきたかはわからないけれど、少なくとも今の自分にはいないと困る存在だと改めて感じさせられた。
(だからといってここで終わりたくない。今日もいろんなことあったけれど、今までなんとか出来たんだ。ボクは…………コイルたちを助けてあげたい!チカと一緒に喜びたい!!)
ボクは再び“ひのこ”を壁に放った。ここまで来ればやけくそである。どうせ後ろに引くことも出来ない。このまま黙っていれば、どのみち生き埋めなんだ。それなら無理だとわかっていてもぶつかっていく方が当然だろう。
ビュンビュンビュンビュン!!!
「いっけぇぇぇぇ!壊れろおぉぉぉぉ!!」
ピーク時よりパワーが幾分落ちてるとはいえ、平常時に比べたらまだまだ“ひのこ”の火力は強い。この状態が続く間に早く岩を壊しておきたいところ。だが、そうすんなりと事が進むことはなかった。
「これだけやっても何も変化が無いのか!?ちくしょう!まだまだぁぁ!“ひのこおぉぉぉ”!!」
ボクは躍起となって次々に岩に“ひのこ”を放ち続けた。それでも進展は無い。バトル経験値の浅いヒトカゲの“ひのこ”ではどうにもならないような気がしてきた。薄々感じてはいたが、いざ現実を突き付けられたときに何も跳ね返せないのは正直辛い。………………と、そのときだ。今までの爆発による揺れとは別の揺れをボクたちは突然感じた。
ドゥゥゥゥン………パラパラ。ドゥゥゥゥン………パラパラ。
「うわっ!うわわわ!?」
『ナ、ナンダコノジヒビキハ?………ビビビ!』
既に足場が狭くなり、ただでさえ安定して身動きが取りにくくなってるこの現状で、新たな揺れはボクらを翻弄する。コイルたちは“ふゆう”することで打開したが、ボクの場合はまともに体を揺さぶられて地面に這った形だ。こうなると岩に“ひのこ”をぶつける事も出来なくなる。このままではまずい。
(一体何が原因なんだ…………うっ!?)
ふっとボクが顔を上げたその時である。一瞬ではあったが、岩の隙間から目が眩むほどの光を感じた。その直後に何かが岩にぶつかったようで、同時にまた揺れが起きたのである。と、言うことは……?
(この洞窟の外側で何か動きがあったのかも知れない!もしかして………チカ!?)
ボクはこのように結論付けた。そしてその考えも見事に的中することになる。
「ユウキーー!!聞こえる!?今みんなを助けるからね!!もう少しだけ頑張ってね!」
(チカ………。やっぱりか………よし、ボクも負けずに頑張らなくちゃ!)
外から聞こえるチカの声にボクは励みをもらった。もう一度立ち上がり、岩に向かって“ひのこ”を放つ。先ほどより更に火力は弱くなった様子。だが、もうなりふり構ってる余裕はどこにも残ってない。力の限り“ひのこ”を放ち続ける…………今自分に出来ることと言えば、ただそれだけだ。
(なんとか…………壊れてくれ!!)
ボクは必死に願う。「岩よ壊れろ、岩よ壊れてくれ!これ以上とボクとチカの邪魔をしないでくれ!」と。必死に願い、小さい“ひのこ”を岩に向かって放ち続けた。
…………同じ頃、私も洞窟の出口側から必死な想いで、電撃を岩にぶつけ続けていました。
(お願い!壊れて!私の夢を途切れさせないで!ユウキと一緒に頑張らせて!一人ぼっちにしないで!………お願い!)
もしここでユウキが助からなかったら、もう私と一緒に救助隊やってくれるポケモンなんていないでしょう。そうなればせっかく叶った私の夢、救助隊も諦めなきゃいけません。それは昨日エーフィさんに追い出され、行く宛が無い今の自分には耐え難い苦しみでしかありませんでした。
(そんなのイヤ!絶対に!何を希望にすれば良いの?私にはもう生まれた故郷も無いし、ママもパパもいない!友達だっていない!何も希望も無いんだよ!だったらせめて救助隊だけは………救助隊の夢だけは続けさせてよ!!)
感情が高ぶってしまったのか、私は涙が出てきました。その分だけ少し電気エネルギーも強まったかもしれません。それでも、岩に特別な変化が起きるほどにはならなかったのです。
(一体どうしたら良いの?)
一瞬俯いたその時でした。追い打ちをかけるように、更なる絶望を私は感じたのは。
ドドドドドドドドドドド!!
「(………待って?イヤ!イヤーー!洞窟が崩れちゃう!)ユウキ!!ユウキーー!!」
私がいくら叫び続けても不思議のダンジョン、“でんじはのどうくつ”の崩壊が止まることはありませんでした。視界を奪うほどの土煙を巻き上げ、轟音とともに次々に崩壊は続いたのです。