僕はこれまで6つの飲食店を立ち上げてきたが、バーは別として飲食店造りで通してきたルールの一つは「個室を作らない」ことだった。

そのニーズがあるのはわかっているが、個室をもつ飲食店はたくさんあるので、個室が必要な場合はそちらに行っていただければよい。

なぜ個室を作らなかったのかというと、それは、お客様の姿、声、音などが、店の魅力の大きな構成要素である雰囲気作りのために重要だと考えたからだ。

個室はそういうものを覆い隠してしまい、店をまるで個室が並ぶホテルのロビーのような空間にしてしまう。これではおもしろくない。

博多の屋台。どこに入ろうか迷うほどたくさんの屋台が建ち並ぶ。僕は同伴者に文句を言われながら時間をかけて数往復し、ここだ、と思った屋台に入る。

それがどんな屋台かというと、これは僕のカンなのであるが、そこにはいればおもしろい空間に参加できると感じるような屋台だ。どの舞台に上がってどんな共演者と芝居をしようか、という感じだ。

無理にお近づきになろうとしなくても、自然と会話の花が咲き、コの字型のカウンターは大変楽しい場になる。全員参加型極楽劇場という感じだ。

個室がない飲食店を好む原点がここにある。

決してお客様同士で仲良くしていただきたいと言うことではなく、舞台を共にしていただきたいだけ。そして、お客さま自身が気づかれない共有感覚と、舞台の雰囲気で、さらに楽しく過ごしていただく。そういうことを考えてのことだ。


広島市中区横川のガード下に、鉄板焼「しんご」という店がある。

8席程度の鉄板をL字型に囲むカウンターだけの小さなこの店はいつも混み合っている。狭いから隣のお客さんに少し気を遣いながら楽しむ。お客様が共有する夢舞台的なお店。この店は僕が考える飲食店の魅力の一つをはっきりと思い出させてくれる。

肉も魚も、ワインも楽しめる。

ハンバーグなんてこの通り。


飲食店を経営するMBA大将のよもやま話

家庭風なソースが僕にはちょっと甘めであるが、ちょっとだけつけて食べるとちょうどよい。

こんなことを言っては失礼だが、味はともかくとして、本当に楽しめる「場」なのだ。

おいしいものを食べるということは食の楽しみの一つでしかない。おいしいものも、「場」が変わると味まで変わる。だから、飲食店は、人が集う「場」としての要素が大変重要だと思う。

鉄板焼しんご
広島市西区横川3-2-13 (JRガード下)
(082)238-0830