『3分朗読』、声のブログの3分という特徴を活かして、

「青空文庫」の名作から抜粋部分を読ませていただきました。

 

 

そのとき第二撃がきた。男が絶叫した。
 彼は、動くことができなかった。頬っぺたを畑の土に押しつけ、目をつぶって、けんめいに呼吸をころしていた。頭が痺れているみたいで、でも、無意識のうちに身体を覆うとするみたいに、手で必死に芋の葉を引っぱりつづけていた。あたりが急にしーんとして、旋回する小型機の爆音だけが不気味につづいていた。
 

 突然、視野に大きく白いものが入ってきて、やわらかい重いものが彼をおさえつけた。
「さ、早く逃げるの。いっしょに、さ、早く。だいじょうぶ?」
 目を吊つりあげ、別人のような真青なヒロ子さんが、熱い呼吸でいった。彼は、口がきけなかった。全身が硬直して、目にはヒロ子さんの服の白さだけがあざやかに映っていた。
「いまのうちに、逃げるの、……なにしてるの? さ、早く!」
 ヒロ子さんは、怒ったようなこわい顔をしていた。ああ、ぼくはヒロ子さんといっしょに殺されちゃう。ぼくは死んじゃうんだ、と彼は思った。声の出たのは、その途端だった。ふいに、彼は狂ったような声で叫んだ。


「よせ! 向うへ行け! 目立っちゃうじゃないかよ!」
「たすけにきたのよ!」ヒロ子さんもどなった。「早く、道の防空壕に……」
「いやだったら! ヒロ子さんとなんて、いっしょに行くのいやだよ!」夢中で、彼は全身の力でヒロ子さんを突きとばした。「……むこうへ行け!」
 

 悲鳴を、彼は聞かなかった。そのとき強烈な衝撃と轟音ごうおんが地べたをたたきつけて、芋の葉が空に舞いあがった。あたりに砂埃りのような幕が立って、彼は彼の手で仰向けに突きとばされたヒロ子さんがまるでゴムマリのようにはずんで空中に浮くのを見た。