剥離妄想  陽だまりの群青(ブルース) 伏久田喬行

 
 
 
かくてようやく凍結する
透明に光り放つ山岳地帯から
ふかぶかと削り沈む渓谷を通過して臨みあおぐ
燃える肉体の火玉は静止して
いったい風景をながめているのはだれか
凍結して浮きあがる谷に山岳
樹影の狭間に息ひそむスビンの停滞に
星たちの青い光線がみだれてはねる
 
 
おお 剥離してゆくフラストレーション
太陽はスライドして急収縮を開始した
(マッハどころではない)
この禁圧の猛力学に精錬された数だけが
巧妙に落下をつかさどるゼロ次元
薈塔の円形宇宙から
流星を遠く望んでいるのもいいが
光りの気配から記憶をたどり
たまには熱き思い出の次元を
はじき出してみるのも良いだろう
 
 
さて陽だまりの魚眼から
まっとうに自然は手のうちで
そうだみごとに地は軽くめぐっていた
ステップする地の幸福
ステップする地の暖炉
やわらかな亜時間の追悼には
ところが神秘がのぞましい
(やれいったい剥離に関して何を語ろうというのであったか)
古来より
天空の無限への承認はさても
かの肉体の雲散霧消とともに感応されてきたのだった
 
 
ハレーションから魚眼をふさぎ
波をけたてて水面にのる
滑走のスリルから
世界は音もなく崩壊して
雲影なき大空にむかって存在は陥没した
星!
もんどりうって逆まく光線の彼方へ
砂浜に取り残された意識がとけてゆき
逆光にのる
逆光から
あたたかな声が降ってくる
うむシュメールの
これは恋愛歓声だ
 
 
フラストレーションから存在はやがて
剥離した
星!
星から星座へと
みごとになつかしい夢の黒板
ではあったが
視線は大気にこそ定着されるので
星座からはただやはり
+α線が降るだけだ
劇(ドラマ)から夢(ロマン)へ!
ドラマーからローストマンへ
紛失した
消えさった
残影以外に存在はない
印象! と
風の叫ぶ
 
 
樹間から大気をけたてて
肉身の剥離して飛ぶ
一丸となって消えゆく焔よ
(あれは未来か因縁か)
空想の燃える頭脳から赤熱して
肉体は急戟に軽くなり
軽くなり
ワースト!と
(やれやれ)
コンピューターの叫ぶ
天地逆倒の大自然へ
天地沸騰の大怨然へ
重力けたてて到達する
近火!
やれ近火に騒ぐ
浮世床
 
 
妄想のひとしきり止まず走る
空想のひとしきり止まずまた疾駆する
この山岳から
この渓谷から
たしかにせりあがる地の幸福
これは緊張する恋情かくて
飛びかう樹間に
やあ
狂恋の火粉まいあがる
(1974/3/6)
 

 

 

この詩篇は、1974年4月1日に発行された小冊子9号から転載したものです。