剥離妄想 陽だまりの群青(ブルース) 伏久田喬行
かくてようやく凍結する
透明に光り放つ山岳地帯から
ふかぶかと削り沈む渓谷を通過して臨みあおぐ
燃える肉体の火玉は静止して
いったい風景をながめているのはだれか
凍結して浮きあがる谷に山岳
樹影の狭間に息ひそむスビンの停滞に
星たちの青い光線がみだれてはねる
★
おお 剥離してゆくフラストレーション
太陽はスライドして急収縮を開始した
(マッハどころではない)
この禁圧の猛力学に精錬された数だけが
巧妙に落下をつかさどるゼロ次元
薈塔の円形宇宙から
流星を遠く望んでいるのもいいが
光りの気配から記憶をたどり
たまには熱き思い出の次元を
はじき出してみるのも良いだろう
★
さて陽だまりの魚眼から
まっとうに自然は手のうちで
そうだみごとに地は軽くめぐっていた
ステップする地の幸福
ステップする地の暖炉
やわらかな亜時間の追悼には
ところが神秘がのぞましい
(やれいったい剥離に関して何を語ろうというのであったか)
古来より
天空の無限への承認はさても
かの肉体の雲散霧消とともに感応されてきたのだった
★
ハレーションから魚眼をふさぎ
波をけたてて水面にのる
滑走のスリルから
世界は音もなく崩壊して
雲影なき大空にむかって存在は陥没した
星!
もんどりうって逆まく光線の彼方へ
砂浜に取り残された意識がとけてゆき
逆光にのる
逆光から
あたたかな声が降ってくる
うむシュメールの
これは恋愛歓声だ
★
フラストレーションから存在はやがて
剥離した
星!
星から星座へと
みごとになつかしい夢の黒板
ではあったが
視線は大気にこそ定着されるので
星座からはただやはり
+α線が降るだけだ
劇(ドラマ)から夢(ロマン)へ!
ドラマーからローストマンへ
紛失した
消えさった
残影以外に存在はない
印象! と
風の叫ぶ
★
樹間から大気をけたてて
肉身の剥離して飛ぶ
一丸となって消えゆく焔よ
(あれは未来か因縁か)
空想の燃える頭脳から赤熱して
肉体は急戟に軽くなり
軽くなり
ワースト!と
(やれやれ)
コンピューターの叫ぶ
天地逆倒の大自然へ
天地沸騰の大怨然へ
重力けたてて到達する
近火!
やれ近火に騒ぐ
浮世床
★
妄想のひとしきり止まず走る
空想のひとしきり止まずまた疾駆する
この山岳から
この渓谷から
たしかにせりあがる地の幸福
これは緊張する恋情かくて
飛びかう樹間に
やあ
狂恋の火粉まいあがる
(1974/3/6)
この詩篇は、1974年4月1日に発行された小冊子9号から転載したものです。