ムカデに噛まれた!

 

                               ドローイング 音木 六花

 

 

ゴキブリが干からびて死んでいる。クモから体液を吸われてしまったようだ。その足高クモも椅子の片隅に妙な紐がからまったような個体となって落ちていて、何だろうと目をこらすとクモの死骸だった。蜘蛛まで死んでしまうというのは、この猛暑のせいなのだろうか。

 

 

今年は虫類が少ないように思っていた。なにせ、いつもなら格闘しているアリの侵入がない。ちょっとした食べ物のカスを床へ落としていただけで、いつもの夏ならば信じがたいアリが、どこからか侵入してきた。また蛾も少ないようで、我が家ではカトリーヌと呼ばれている窓辺に張り付くヤモリたちの姿も、余り見かけない。かつては2から3匹もいて、よくケンカをしていた。昆虫類の姿が少ないのだろう。

 

 

夏の暑さだけが際立っているせいで、昆虫たちは干上がって生きられないのかもしれない。ムカデも少なく、例年ひどい時は100匹以上出た時もあったが、今年はまだ20匹にも満たない程度。こちらも暑さのせいと、全体に昆虫が少ないからかもしれないなどと思っていた。

 

 

そんな油断のせいか、ムカデに噛まれた。噛まれたといっても、何か太ももがチクリとしただけだったが、畳に針でも落ちていた?と一瞬思ったが、針が落ちている訳がないから、「まさかムカデ?」とその辺にあるものをどけて大騒ぎすると、直径1ミリ幅10センチ位の細長い生き物が飛び出した。小さいけれど、ムカデに間違いなかった。

 

 

私はいつも側においている棒と炭バサミで何とか逃げるのを防ごうと思ったが、相手の動きが速く取り逃がした。そのままだとまた噛まれるので必死で追いかけたが、どこか部屋の隅に隠れてしまった。その間10分位。傷の手当は後回しになった。

 

 

それでも焦らなかったのは、噛まれたことに気づかない程痛くもなかったし、目にしたムカデは小さかったし、その後腫れてもこなかったので心配ないと思ったのだ。

それに、我が家にはムカデにも効くというムヒという薬があったからだった。

 

 

それを塗っておけば大丈夫と思って、いざ塗ろうとしたら普通のムヒはたくさんあったが、ムカデにも効果がある方は、残量が少なくなっている。それでもそれを塗った。しばらくして腫れは出てきて、五十円玉くらいの面積のピンクの隆起ができた。それでも痛みはなかった。そのため、私はムカデに噛まれたことを軽視していた。

 

 

それというのも、過去笠岡市という所でトイレのスリッパに隠れていたムカデに足を入れた途端噛まれたことがあった。夫が仇うちをしてくれたが、そのムカデは体長20㎝くらいあり、幅も2㎝もある大ムカデで、その痛さといったら叫ばないといられないほどだった。足の指先を噛まれただけだったが、みるみる足全体が腫れてきたためタクシーを飛ばして病院へ行った。夫も付き添ってくれた。

 


そんな体験があったため、刺されて痛くもなかった傷とさして腫れもしなかった小さなムカデの毒を軽視していた。実際翌日には腫れも痛みもなく、もう直ったかに思えた。つらつら考えるに、ムカデもやみくもには噛まない。ムカデは私の七分丈のズボンの中に侵入し、私が膝を曲げて座っていたので彼もいく手を塞がれたと思い噛んだのではなかろうか…などと推測していた。

 

 

しかし、傷は痛くなかったが痒い。寝ているうちに掻いたのか、書いた部分が赤くなり20㎝くらいの幅がピンク色になり広がっていた。もはや傷口すら見えないのに毒が周辺に拡散しているのか分からなかったが、痛痒かった。それに、少し腫れている

 

 

改めてムカデの対処法を確認したら、「流水のお湯で毒を流せ」と書いてあった。初期対応でやらないと効果なさそうだ。すでに遅かった。ムカデの毒が浸透しているのか、あるいはただ掻いたための炎症か分からなかったが、改めてムカデの毒の侮れなさを感じた。

 

 

病院にとも思ったが、今更遅いし、第一場所が場所だけに躊躇われた。また、あんな小さなムカでに噛まれた位で何なのという反抗心もあって「もう一度嚙んでみろ」とムカデを挑発したりした。いずれにしても、危険なのは噛まれた直後なのであって、その時痛ささえ感じなかったのだから、腫れてもたいしたことないと自分を納得させた。

 

 

ただ対処法は毒を溶かしてしまうために45~46度位のお湯で流すことが解毒になるらしかった。今度は、きっとそうしようと思った。

 

 

刺されて3日目…まだ若干腫れている。ただ、熱っぽさは引いたような気がする。それにしてもあんな小さなムカデなのに、ここまで私を煩わせ悩ましたのだから、大した昆虫だ。私も、こんな高性能の武器がほしいと思ったりした。

 

 

 

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