■詩・福島県民健康調査



それは誰が作った壁?
毎日毎日高くなる
透明な美しい壁
しかし、すけた蛇模様

 


壁の中の道は迷路
首からプレートをつけた人々が歩く
彼等は何とか外へ出ようと
叩いたりぶつかったりするけれど
体が傷つくだけ
壁は尊大に彼等の皮膚に
生き物のようにからみつく

 


「あなたには自由がない。」
と壁が言う
「あなたの運命は、ぼくなのだ。」
と、また壁が言う
「ぼくが、あなたの人生を決める。」
「生かすも殺すも、ぼくなのさ。」

 


壁に囲われた迷路の中で
青いナンバープレートは
子供の首に食い込む
「助けて!」
人々の声を壁が消す
透明な壁が声を吸い込む

 


壁は怒気をこめて膨らんで
「そんな声を出してもだめですよ。」
と子供をにらむ
壁は金色の目を見開き
「私達は、ボランティアでやっているんですから。
疫学№1365番さん。」

 


「ぼくは強制なんかしていない。
 だから、逃れることもできるんですよ。」
壁は居丈高に膨らんで
意地悪げに人々を威嚇して笑った

 


「ここから逃れられたら、どうなるんだ?」
青いナンバープレートを首からぶら下げ
もがく人々は聞いた
「ここを出たら、荒野が待っているだけだよ。」
壁は馬鹿にしたようにせせら笑って言った
「吹雪の中で、あなたは一人ぼっち。
ぼくは、あなたの守り神ですよ。いわばね。」

 


「ここは、どこなんだ?」
青いナンバープレートをつけられた被験者は聞いた
「ここは 光が丘……希望あふれる病院ですよ。」
壁が言った。
「光あふれているのさ。α線 β線 γ線とかね。」
被験者の叫び声は壁に吸い取られた

 


透き通った壁の内側には
さらに
たくさんの迷路が作られていて
そこには蛇の気配が
とぐろを巻いていた

 


そこは光ヶ丘
光の上に建っている
透き通った建物は病院
光っているものは何ですか?
あなた それはアメリシウム
セシウムだったか…余り多くて忘れてしまった

 


光ヶ丘に光るもの
毎日毎日光をつくる
人工科学の光が降りる
光は希望でなかったの?

「光は希望に決まってる」


口から赤い舌を覗かせて
姿をあらわし蛇が言った
人工光は ぼくの味方
おいで! プルトニウム
闇の我が魔王よ

光ヶ丘に住んでいる
蛇が姿を現した


プルトニウムが呼ばれてる
透明な壁の中に
青いプレートをつけられた
被験者たちが閉じ込められて叫んでる


けれど 誰にも聞こえない
透明な壁が吸い込んでしまうから…

光ヶ丘に住む者
ここに
世界残酷物語の幕が開く




この詩も2013年火水呼(ひみこ)
ブログに掲載したものです。福島県民調査について詠っています。

 

もはや、完全に「疫学調査」として、正々堂々と位置づけされているかのような県民調査。 4年という歳月が、すべてを風化させようとしていますので、ここにあえて掲載しておこうと思います。


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(あとがき)

☆ブログアップします。我が家の庭の白梅は満開を過ぎ、ピンクの八重の梅が咲き始めました。普通より小さめの子供らしきメジロがせっせと蜜を吸いにきます。

☆光は春…そろそろ桜の落ち着かない季節になりますが、政局の方は、動いているのだか、そうでないのか肝心要のマスコミは触れませんので、全く分かりませんね。