Sayseiの子育て日記(再掲) 第94回 新しい友人たち | Sayseiの子育て日記(再掲)

Sayseiの子育て日記(再掲) 第94回 新しい友人たち

第94回  新しい友人たち

 次男は映画コースに入り、企画、脚本、撮影、音響、照明、編集等々、スタッフワークを一通り学んでいきました。そのプロセスで、同じ志をもって一緒に映画製作に携わる仲間ができていきます。

 高校時代には、幼馴染の二人以外にはほとんど友人を連れてきたことのない彼も、大学の友人はときどき連れてくるようになります。彼らはふつうの大学の卒業論文や卒業研究に相当する卒業制作として、自らの作品を一本つくらなければなりません。必ずしも自分の監督作品でなくても、共同制作ということでいいのでしょうが、監督を目指すなら当然自分の監督作品を作りたい。映画はよほど特殊なものでない限り、大勢の協働ではじめて成立するので、彼らは互いに友人の監督作品のスタッフワークを担いあって、それぞれの作品を仕上げていきます。自然、気心の知れた、そしてなるべく優秀な技能を持った友人と一緒に製作にあたりたいでしょう。

 次男が深くつきあうようになったのは、1時間程度の彼らにとっては「長編」の映画を撮ろうとしていたI君、人形アニメを製作していたN君、イラストふうの二次元短編アニメを作っていたA君といった友人たちだったようです。ほかに、カメラワークや照明やさまざまなスタッフワークに優れたF君やA’君やK・・・等々幾人もの気心の知れた仲間と一緒に仕事をしていることが、のちに分かってきました。

 その中で、次男がかなり頻繁にわが家へ連れてきたのが、I君とN君の二人。二人とも、いまどきの青年のひとつの典型を示すような、寡黙で、優しく繊細な印象のスリムな青年でした。彼らは映画製作の資金を捻出するために、アルバイトに精を出す一方、節約につとめているせいか、ふだんからあまりまともなものを口にしていないらしく、わが家へ来ると、なんでも美味い、美味いといって食べます。

 スリムなわりには、食べる量が違う。わが家はふだん、おかずの種類が多いこともあって、米飯はご飯茶碗に軽く一膳で、おかわりすることは珍しい。(鮎やあわびの炊き込み御飯などのときは別!)次男はとりわけ少食で、油っこいものや甘いものが好きでそういうおかずは食べますが、量は多くありません。それでも痩せてはいず、ふっくらしています。しかし次男の友人たちは、彼よりずっとスリムに見えるのに、用意したご飯が足りなくて、もう一度炊きなおすことさえありました。

 とりわけパートナーを喜ばせたのは、あれも食べるのは初めて、これも初めて、と彼らが食べたことのない料理がたくさんあって、それがけっこうパートナーのオリジナル作品だったりするので、それを美味しい、美味しいと残さず食べてくれることでした。私は美味しいも美味しくないも、出される食事への評は口にしないほうなので、パートナーにはふだんから欲求不満があるのでしょう。美味しいと口にしながら食べてくれる人が来ると、ほんとうに機嫌がよいのです。

 とりわけN君はパートナーのお気に入りで、ほんとうに寡黙なおとなしい青年でしたが、いつも変わらず、食事はきちんと全部食べる。そして、土佐の出身ゆえ、酒にはめっぽう強い。彼のために、パートナーはある時期、毎日のように違った種類の名酒を買ってきて、二人で酌み交わしながら5合くらい軽くあけてしまうのでした。

 長男はどういうわけかめっぽう酒に強いようだけれど、N君がわが家(私の両親が亡くなってから次男が住む同じ団地内の住居)へ映画製作のため一時期居候するようになったのは、長男が大学を出て他の都市へ行ってからなので、長男はパートナーの日常的なお相手はできません。残った私も次男も全然飲めないので、酒はもっぱらパートナーとN君のさしつさされつ。パートナーはN君を酒で負かしてやろうとけしかけて、一度ひどく飲ませたことがあり、N君は次男の家へ戻ってから悪酔いして吐いたこともあったようです。それを あとで聞いて、パートナーは勝った、勝った、と子供のようにはしゃいでいました。

 N君にはとても可愛らしくて、天衣無縫のMさんという彼女がいました。もともとは同じ大学にいたようだけれど、中退して女優をしている(めざす?)と言っている女性。 少し日本人離れしたマイペースなところがあって、N君に上手に甘えて、N君を振り回しています。N君はそれを受け止めて振り回されるのをハッピーに感じている、そういう関係でした。

 Mさんもときどきわが家へ遊びにきました。初めて私が会ったとき、彼女は階下のDKにいましたが、私が2階から降りていくと、顔を見るなり、こんにちは、と言っているこちらの顔をまじまじとしばらく見て、「似てるぅ~」と感極まったように言います。次男にそっくりだというのです。変わった子だなぁ、というのが初印象でした。

 その日は次男の友人たちが集まって宴会をする日で、パートナーが料理を作っていました。彼女は「おばちゃん、なにか手伝いましょうか?」とやってきたのですが、パートナーがもう大体終わったからいいわ、と言うと、テーブルに並べたこれから次男の家に運んでいく数々の料理を眺めて、「おいしそぉ~っ!ひとつ貰っていいですかぁ~?」・・パートナーが返事をするかしないうちに、もう白い指先にちょいと肉団子などつまんで口にほうりこんでいます。やることなすこと天真爛漫、子供みたいなお嬢さんで憎めません。

 でも、次男のグループで、私が最初に名前を顔をおぼえたのは、もうひとりの女友達A”でした。出勤のときにバスの車内で出会って話したのが、二人で話をした最初。ふだんそんなに目立たないおとなしい印象でしたが、自然体で話せて、しっかりした子だな、と思いました。芸大の子に共通するカジュアルな服装をしていて、スッピン。いつでも大勢の男の子たちにまじって仕事をし、一緒に寝泊りして、互いにあまり男だ女だと意識せずにいられる感じでした。もちろん、そのときには、彼女が将来、次男のパートナーになるとは夢にも思いませんでした。

 I君は一見優しい現代ふうのやわな青年にみえるし、たしかに寡黙ではあるけれど、つきあっていくうちに、なかなかしっかりした青年で、彼らの仲間内では論理的な思考ができるほうであることがわかってきました。たぶん幾分親分肌なところがあり、映画製作も自分で完全にコントロールしたいタイプでしょう。完璧主義者なのかもしれません。野心と言っていい志の高さもある。落ち着いていて、寡黙なようでいて、人前での喋りも巧みにできる。クールなようで、半分はポーズ。けっこうお喋りな体質ではないかという気がします。とくに女性を口説くときには(笑)。また、自分の世界を守るためには気難しい完璧主義者にみえるけれど、異性 については惚れっぽくて・・いや惚れられっぽくて?少し緩いのではないか(笑)。

 彼の卒業制作は、なかなか良かった。自主制作の学生映画らしい生硬さと、キャストの問題、部分的に演出の難点、それに新人作品としては、全体に冒険的とはいえず、やや小さくまとまってしまった感はありましたが、確実に一人の志ある映画作家の誕生を予感させる作品でした。この作品で彼になびいた女性が多かったという噂です(笑)。

 N君は少し習っただけの人形づくりに抜群の才能を発揮しました。自分で知らなかった資質を人形づくりを習ううちに見出したのです。こつこつと時間のかかる人形作りにいそしみ、なおかつ時間のかかるアニメーション撮影をして、短編をつくる。まだごく短い短編で、モチーフが明瞭にならないので、評価しにくいけれども、彼の持続的な意志の強さは、仕事の上でも、生活上でも、比類のないものがあります。それに、ふだんは寡黙すぎてなかなか何を考えているのか分かりにくいけれど、ここ、というところは実によく見 ていて、ときにビシッと正鵠を得た言葉を吐くことがあります。彼の直観的な判断力はI君の論理よりも鋭くて深い。そして、彼には本当の強さと優しさがある。いわば愛のある人間とでも言いましょうか。

 N君は客観的に見て非常に整った顔つきをしており、彼女と一緒にいると、典型的な美男美女のカップルです。はじめ、次男がN君とあんまり親密なので、あいつら 大丈夫か?(笑)と冗談でパートナーに言ったことがあります。パートナーも、大学4年間、彼女なしで過していたように(われわれの目には)見えた次男のことを、母親流に心配して、「ある日突然、これがぼくの嫁さんです」って連れてきたら男の子だったりしてね、と冗談言っていたものでした。

 まぁ、いまどきだから、何があっても驚きはしないし、私もドゥルーズのいう「n個の性」っていうのもまんざら分からないわけじゃない。そうなりゃ、そうなっ たで仕方ないよな、と思っていました。しかし、幸い(?)、次男の場合はそうではなかったようです。N君もI君も普通の親友、彼女はA”、というふうに、ちゃんと男女の棲み分けができていたようです。(笑)

 もう一人の親しい仲間 A* は、あとの3人がみな「A* さん」とさん付けで呼ぶ、実際の年齢が少し上の友人でした。オトナといえばこの青年が一番オトナでした。彼はわが家には顔は出すけれど、ゆっくり一緒に食事をしていくようなことがなかったので、よくは知りません。ただ、彼の描くイラストふうのアニメは、非常に個性的で、形象のユニークさと、色彩感覚に優れ、原画だけでも美術展を開けるだけの力量があるように思われました。実際、その後彼のアニメはある公募コンペに入賞したり、ブラジルの映画祭に招かれたりもしたようです。
 
 また、I君の作品も、次男の作品も、ある国際学生映画祭で、400余の国内外からの応募作品の中で上位十数位の入賞圏内には残って、今後に期待を持たせました。N君の作品も以前にアニメで入賞しているようです。そして、彼らは卒業後に映画製作集団を4人で立ち上げ、それぞれに新作に取り組んでいます。

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 長男も大学であらたな友人ができたようです。高校のときはよくわが家へ連れてきたのですが、大学へ入ると、次男とは逆に、あまり連れてはこなくなりました。けれども、学校の仲間、サークルの仲間、それに高校時代の友人との親しいつきあいも含めて、友人の環は確実に広がっていることが感じられます。

 

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