Sayseiの子育て日記(再掲) 第77回  予備校選び | Sayseiの子育て日記(再掲)

Sayseiの子育て日記(再掲) 第77回  予備校選び

第77回  予備校選び

 長男は、自分が行きたかった、サッカーの国際審判員の資格を持つ人のいる高校には合格しませんでした。地域の伝統のある公立高校の特進コースにはいって、親の私たちはそれで全然いいじゃない、と思っていたのですが、本人はあまり表現はしなかったけれど、やっぱり希望が叶えられなかったので落胆していたのでしょう。

 大学のときは、自分の希望のところへ行きたい、とこのとき思ったのかどうか。高校に通い出してからしばらくたってからだと思いますが、自分で、予備校に通いたい、と言いました。公立高校の勉強は、特進コースでも進度が遅く、現役で希望の大学へ合格するのは難しいという現実を知ったからかもしれません。

 私たちが高校のころは、高校生で予備校に通うなんて子はいなかったと思いますが、いまではごく普通なので、私たちも本人がそうしたければそうすればいい というので、OKしました。私たちは予備校のことは何も知らないので、もちろんすべて彼が探し、彼が選んで通い始めました。

 はじめにS予備校というところへ申し込んで、少しのあいだ、通っていました。ところが、なぜか、そこが肌に合わない、と言って、予備校を変わると言います。そして、K学院というところへ、学校の成績なのか模擬試験の成績なのか、なにかを持っていくと授業料が無料になる、とかで、自分でさっさとその手続きをして、授業料免除の特待生扱いでK学院に通いはじめました。

 そこは彼の気に入ったようで、高3まで、ずっと自転車で通い続けていました。学校での友人たちの何人かもそこに通っているので、予備校で友達に会って言葉をかわすのを楽しんでいるようにも見えました。

 K学院には本当にお世話になったと思います。もともと東京系大手のS予備校がなんだか官僚機構のような、エリート志向の冷たいスパルタ式の雰囲気のようなのに対して、関西が根城のK学院は、先生も事務もほんわかして、温かみがあったようです。私が会った担任のS先生も、とても物腰の柔らかな温かい人柄で、親身になって指導してくれていることが感じられました。

 たぶん世間でいう一流大学の合格率などはS予備校のほうが実績があったと思いますが、長男はあえてK学院のほうを選びました。機能的なものよりも、人間関係や場の雰囲気を重視して、自分に雰囲気が合わない、と思うと、わりと躊躇なく切り捨てて、合うほうを選択します。一度はじめたのだから、と我慢してというか、グズグズと、というか、惰性で雰囲気の合わないところに通いつづける、ということはなさそうです。

 そういうところは、なかなかいいじゃないか、と私は思っていたので、彼がなにかをやめる、と言っても、「一度やり始めたのだから、やめるな」とは、私たちは一度も言わなかったと思います。

 近所のピアノの先生のところをやめたときも、知り合いの塾を中学でやめたときも、S予備校のことも、また次回に触れる学校のサッカークラブのときも、彼は的確に自分に合わないものを拒み、自分に合うものを見つけてきて、そちらを選んでいます。

 子供のお稽古事などを、一度始めたかぎりは続けないと・・・と、あまり良くない指導者や、その子に合わないものを無理に強いたり、なにか子供が好奇心をもってやってみたい、というのを「どうせ続かないのだからやめなさい」と牽制する親御さんがあるけれど、私はあまりそういうことはしないほうがいいと思っています。

 子供はおとなよりも直観的によく自分に合うかどうかを見抜くものです。厭なものを無理につづけると、本当にその習い事自体がいやになってしまうことがあると思います。いやなら辞めさせればいいと思います。本人も口ではうまく説明できない、複合的な理由が隠れていることもある。それを、ただ意志が弱くて続 けられないとみなして、やみくもに続けさせることが本人のためになるとは思えません。

 好きなことを、その子に合った指導者、その子に合った雰囲気で習うなら、どんなにハードなことでも、継続するものです。好きだから続くのです。それがいやだというのは、どこかに問題があるので、たいていは子供の側にではなく、指導者や環境のほうに問題があると思います。

 私のところへよく来てくれる学生さんの一人が、息子たちの話をしたときに、私は親の育て方が悪かったんやわ、と笑いながら言うのです。どうして?と訊くと、私も小さいとき、いろいろやりたいことがあったけど、親がどうせ続かへんやろ?ってやらせてもらえなかった。先生の息子さんのように色々なことをやらせてもらえるのは羨ましい、と。

 ただ、念のために書いておきますが、彼女のご両親は私の推測では、本当にステキなご両親に違いない。仲の良いご夫婦で、明るい家庭を築かれて、愛情たっぷりにお嬢さんを育ててこられたに違いないのです。それは彼女を見ればもう一目瞭然で、明るく、礼儀正しく、情緒豊かで、よく気がついて、芯が強くて、申し分なくチャーミングな女性なのです。こういう女性ができあがる「育て方」が悪かったなんてことはありえません。

 ただ、彼女の言うことは一般論としては分かります。日本のような精神主義的な風土のもとでは、なにかいやでも歯をくいしばって我慢して継続することが、 本人を鍛える、成長する、とみなす傾向があるような気がします。そういう風土のもとでは、続けられないなら、やめておきなさい、と子供のすなおな好奇心を 摘んでしまうことも起こりやすいのではないかと思います。

 親が子供に接するときは、つい大丈夫かなと不安になって、オトナの判断で子供の行動にバイアスを与えてしまうのですが、もっと子供の自然を、子供の直観を信じなくてはいけないのかもしれません。オトナの当為(こうすべきだ、という観念)は、たいてい既成の価値観や倫理観による判断基準をなぞっているだけで、本当に個々の子供の置かれた状況や子供の気持ちを考えぬいて判断しているわけではないので、むしろ子供の直観のほうが正しいことが多いのではないでしょうか。
 


[2015年8月の追記]

 

 この記事に登場する、私の教え子だった素敵なお嬢さんは、卒業後にある企業に就職して営業で抜群の実績を残しながら職を辞し、心機一転、東京で7年にわたるプロデューサー修行ののち、いまは学生さんたちがみんな知っているほどの人気番組をプロデュースする大手テレビ局のプロデューサーとして活躍しています。

 

 ♪♪♪♪ ♪♪♪♪ ♪♪♪♪ ♪♪♪♪ ♪♪♪♪ ♪♪♪♪ ♪♪♪♪