父に山と海がどちらが好き? と聞いたら山が好きと言っていた。

そうだよね、本棚をみればわかる。新田次郎や山の本がたくさん。

 

毎年恒例の上高地に行ってきた。

父と母が好きで、毎年行っていた。

母が嬉しそうに、レストランのスタッフに話す。

女学生のころ、友達を散歩をして、梓川をみて、女の子が生まれたらあずさと名付けると話していたのよって。

三回もチャンスがあったのにね。

 

父の誕生日を毎年お祝いしていた。

 

いつも父と母のことを思い出すと、涙が出てきたのに、上高地にいる間はこころが荒れなかった。

一緒に来ているよね。

お母さん石のところで夫と喧嘩しそうになると、すてきな観光客に話しかけられて、穏やかになる。お母さんが私たちがケンカしないようにしたんだね。

行きのバスターミナルでカメムシがたくさん来る。お父さんはなぜかカメムシ。ホテルに戻ったら、私の背中にもいた。

上からダウン来たり、リュックを背負ったりしていたのに、つぶれておらず、匂いもせず。お父さん、一緒にいたんだね。行きのバスでははっきりとお父さんのブラーバスの匂いがしたよ。

去年ここに来たときは、まさか翌年父がいないとは思いもしなかったよ。

見上げる山。この山はたくさんの人が生まれて亡くなって、それを見送ってきたのだろう。

新月が重なり、ベランダから満天の星空が見えた。こんなに何度もきているのに、ここまでの星空は初めて。天の川もうっすらと。

父母を辿っている私につきあってくれる夫。

ありがたいとお礼を言ったら、夫もお父さんお母さんの思い出を拾っているらしい。

 

思うこと。

父は戦争も潜り抜け、死が身近であったのではないか。だから、母が旅立ったあと「生きるものは必ず死ぬんだ」という境地にたどり着いていたのではないか。

 

父と母と別れて。何がこんなにつらいのか、寂しさなのか、後悔なのか、申し訳なさなのか。

不安。母は私がこんな不安や寂しさを支えてくれるために、兄弟を残してくれたのだと思った。

いろんな不安がある。父母のことを忘れてしまう不安、日記を残さなかったことへの大きな後悔。

何か心和らぐことがあっても、ああ父母がいないのだと、ふと気づく。

 

お母さん、話したいことがたくさんあるの。連れて行ってあげたいところがたくさんあるの。どうしたらいいんだろう。 これも父の口癖だね。