映画批評「銀魂」 93点 | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

「今年No.1?すべてが適材適所なコミック実写化」

 

「人気コミック、ついに実写映画化」

もうこの言葉を何度見たことかわからないわけだが、

今の日本実写映画界を支えているのはコミックの実写化だろう。

とは言え、そのハードルは高く、原作のファンであればあるほど辛口になるわけだが・・・

 

宇宙から襲来した天人との戦いにより、侍が衰退した江戸末期。

攘夷戦争で白夜叉と恐れられながら体たらくな生活を送る坂田銀時(小栗旬)は、

いろいろあって剣術道場の息子・志村新八(菅田将暉)と

戦闘部族である夜兎の神楽(橋本環奈)と万屋を営んでいた。

そんなある日、街では謎の妖刀による辻斬りが横行しはじめる ―

 

「銀魂」

 

 

 

空知英秋の大ヒットコミックを「勇者ヨシヒコ」シリーズの福田雄一監督で実写映画化。

小栗旬、菅田将暉、橋本環奈をはじめ、

堂本剛、中村勘九郎、長澤まさみなど、隅まで豪華キャストが名を連ねる。

 

原作、アニメの大ファンである自分は(中でも高杉晋助様信者)

福田雄一が監督をすることを知って多大なる期待を寄せずにはいられなかったわけだが、

原作でも人気が高く、アクションシーンの多い「紅桜編」が福田さんに出来るのか?

という不安も抱きながら初日に鑑賞してきました。

 

結果から言えば、「最高の形で実写化された銀魂の映画だろう」。

そして、ファンの辛口批評が不可避である「コミック実写映画化」だが、

本作に関しては「ファンであればあるほど最高」とも言ってしまう演出が多く、

それはオープニングから炸裂する。

 

正直「このシーンからこういう演出ではじめるのか・・・」と開始こそは不安を覗かせるが、

その後、ファンにはお馴染みの人気番組をパロったバカ展開に雪崩れこむと、

「もうこの実写映画は心配ないな」の一言。

 

キャラクターでなく、小栗旬や菅田将暉、橋本環奈という人物の経歴までをも

ネタにし笑いを誘う「メタギャグ」は、ご法度お構いなしな銀魂だからこそのものであり、

初見の人はすぐにこの作品の方向性が見せるだろうし、

また、ファンであっても実写でそれを観ると新鮮且つどの懐の広さに歓喜するだろう。

 

もうオープニングを観ればスタッフ、キャストに

嘘偽りのない「銀魂愛」を持って取り組んでいることがわかるわけだが、

その後もその愛は常に継続、いや、右肩登りで膨らんでいっているような印象だ。

 

正直ここまで適材適所なキャスティングははじめてと思うほどで、

それぞれはキャラクターにはまっており、

また、外見を寄せながら「別人じゃん」となる実写映画も多いわけだが、

キャストの演技はキャラクターの個性を見事に体現しており、

特に「アニメ」を研究していることが手に取るようにわかる。

 

また、それを「いやいややっている」のではなく

「楽しんでいる」かのようなはじけっぷりは「銀魂愛」でしかなく、

醸される陽気な喰う期間は日本映画では珍しい「スベリ知らずな笑い」を連発させていく。

 

橋本環奈のセリフ回しは素晴らしく、「また子の股はシミだらけ~♪」には脱帽であり、

「全身はちみつ」姿はもちろんのこと、あのシーンを本当に一紙も纏わない中村勘九郎、

また、監督も言っているように主演を張れる長澤まさみや「あの人物」が

「そんな脇役で?」で登場していることなど、

キャスト陣の「銀魂愛」は名ばかりではない、豪華キャストによる豪華な作品となっていた。

 

そして、なにより素晴らしいのは、

もはやギャグで他の追随を許さな振り切った演出を見せる福田雄一の演出。

原作を忠実になぞりながら、組み込まれる彼のオリジナリティは

ただコミックを実写化しただけでなく、新たな面白味を見せていく。

 

万屋をはじめ、かぶき町などのセットは限りなく忠実に創り込みながら、

ふざけると事は思いっきりふざける彼の手法は銀魂という舞台で炸裂している。

 

「そこに手を出したら・・・ソフト化できるの?」と心配になってしまうような

大胆な他作品パロディは太っ腹さすぎるほど太っ腹であり、

佐藤二郎をあえて自由に泳がせる演出や、新八の「ボタン」を現場でギャグにしてしまう

「勇者ヨシヒコ」シリーズでよく見たような、一種のご法度アイディアは

とにかく劇場を笑いの渦に巻き込んでいた。

 

あるキャストがそのギャグの面白さに耐えられず後ろを向いてしまったシーンを

あえて使っているなど、作りきられていない隙のある空気感の演出などが

本作のギャグを成立させていたようにも思える。

 

極めつけは、エリザベスを用いたメタ演出だ。

シルエットを自然に見せるためCG加工を施すというこだわりを見せながら、

あえて着ぐるみで作り上げられたエリザベス。

実写になることでその存在は大きな違和感とチープさを醸すわけだが、

それに対しキャラクターが「実写になるとインパクトすごいね」と一喝。

 

観客が抱くであろう実写への不満を、登場するキャラクターが代弁し、

それすらもギャグとして成立させてしまうこの演出は、

まさにデメリットをメリットに変えた瞬間で素晴らしいメタギャグだった。

加えて、そのエリザベスの声を彼が演じれば、もう・・・たまらん。

この配役もファンの声から動いてくれたみたいなので福田さんありがとうございます。

 

そんなギャグの応酬なわけだが、本筋にあるハードボイルドさを忘れない。

本作は過去の同志=高杉晋助との再会と決別を描く「紅桜編」が主軸となっている。

 

改めて「銀魂」を紐解いて観て思ったのは、

「この作品が非常に恥ずかしがり屋な作品」だという事。

要は、かっこいいことをしたいけど、恥かしいからギャグで隠しているようなのだ。

男気が溢れたかと思えば、すぐに笑いで落とす。

直前までギャグを口にしていたのに、気がつけば核心を突くようなセリフを口にしている。

 

しかし、そんなふり幅の広さがハードボイルドさを助長しており、

なんならキャラクターの言動をより粋にもしてしまうのが「銀魂」だと思う。

 

長澤まさみの怒涛なる朗読ネタで笑った後、彼女が「男の背中を押す女」となるシーンも、

ギャグがあるからこそ、ハードボイルドさは強まり、「古き良き侍」の姿を見せている。

実写化されようとこのシーンは名シーンであり、

そして、間違えなく「時代劇」でもあるのが恐ろしいところだ。

 

そして、本作ではアクションもふんだんに盛り込まれているわけだが、

個々に関しては、すこし好き嫌いは別れる部分でもあるのかもしれない。

 

チャウ・シンチーぽくも見えるCGエフェクトを前面に押し出すアクションが

あまり好きではない自分は、もっとしっかり殺陣で見せてくれたらと思ったが、

原作にはない「銀時VS高杉」でのアクションではしっかり殺陣で勝負し、

また、「決して殺す気のない剣筋」で2人の関係性を見せるこの戦いは

迫力だけでない、意味のあるクライマックスを演出している。

 

もうここに関しては空知さんへの再度なる賞賛ではあるが、

「ラーメンこぼして捨てた」の一言で幕を下ろすラストは見事な切れ味であり、

銀時、高杉、桂という3人のある過去と今を描く粋な一言であり、かっこいい。

そして、そんな「かっこよさ」を恥じらうかのように、

「ある歌」をエンディングで流すところがまた銀魂らしい。

 

まだまだ書きたいことは山ほどあるが、もう書ききれもしないので・・・。

キャスト・スタッフが愛を持ってして実写化された本作は、

原作に忠実であり、そして、よりファンを喜ばせようと考え抜かれた改変が施されている。

これが「笑ってはいけない実写版銀魂」だったら何度ケツバットを喰らった事か知れず、

そんなギャグによって助長されるキャラクターのハードボイルドにはやはり憧れる。

ファンであればあるほど、喜んでもしまいそうな異例の実写映画化だろう。

 

★★★★★