大阪に到着してからも

姫の状態は油断を許さないものでした。


免疫抑制剤が点滴から入るようになった事で

血中濃度が不安定になり、一気に腎機能が悪化。


そこに、腫瘍崩壊(腫瘍が勝手に壊れ出す事)が起き、それによって腎臓に蓄積される有害物質を

輸液量を増やし、利尿剤を使って排出を試みていても出てくるオシッコは、身体に入っている水分の半分以下。


そのせいで胸水や腹水まで溜まり始め

酸素化も悪くなって人工呼吸器が外せない状態になりました。


見せられた血液のデータの数値が

あまりにも酷過ぎて、唖然とするほど

LDHの値は、既に1300を超え

肝機能や腎機能の悪化、腫瘍崩壊によるデータ異常を示唆するのみではなく

カルシウムの上昇や原因不明の急激な血小板減少も起きていました。


また再度撮影した造影CTでは

想像を絶するほど肝臓に転移した無数の腫瘍が鮮明に映し出され

腹腔内にゴロゴロと巨大に腫れ上がったリンパ節と

いつ破れてもおかしくないほどに浮腫を起こし脆弱になった小腸でした。

そして、骨転移もあり、悪性度が極めて高いと…。


ステージIV期(進行期)


姫は、もうすでに末期に相当する状況なんだと理解しました。



別室に案内され、そこで受ける医師からの説明が

1人で受け止めるには辛過ぎる内容だったからか

突きつけられた現実を逃避するかのように

感情も麻痺し、涙さえ出てきませんでした。


そして医師からは

『一刻も早く確定診断をつけて、治療を開始する必要がある』

とのお話があり、大阪に到着した次の日に、PICCカテーテルが挿入され、その翌日、オペ室が空いたタイミングで、急遽リンパ節生検と骨髄穿刺をするという、かなりスピーディにスケジュールが組まれました。


《通常、生検は頚部リンパ節から採取するようですが、姫の場合、頚部リンパ節の腫れがないため、お臍から切開して、目視でリンパ節を採取する事になりました。そして、念のために、術後はICUで管理して頂くことになりました。》


また、生検したその日から、ステロイドの先行投与が始まり、引き続き、腎臓のダメージを最小限に食い止める処置がなされていました。



ちなみに

補助人工心臓を装着されていた事があり

長期に渡って、タクロリムス等の免疫抑制剤を内服し続けてきた子供達は

腎臓に常に負担をかけて過ごしてきているため

尿細管が既にダメージを受けてしまっており

化学療法に耐えうる腎機能を有していない事もあるそうです。


医師達が腎機能を維持させる事に、注力されるのは

腎機能の良し悪しで、治療継続ができるかどうかが決まるからだという事になります。



さて、姫がICUでお世話になる事が決まったその日

関西にたまたま用事で来ていた親友が

私を心配して、大阪まで足を延ばして来てくれて

姫が手術室に入っている間も

面会時間の制限を無視して

家族のように、ずっと一緒に傍についていてくれました。


ICUに子供が入室している間は

付き添いしていた病室に泊まる事が許されないため

ホテル待機となるのですが

連日続く寝不足と、栄養失調、そして極度の心配で疲労困憊して思考能力ゼロの私のために

彼女がホテルを手配し、一緒に泊まってくれました。


久々に口にするまともな食事

辛さを忘れるために飲んだアルコール

ホテルのお部屋でゆっくり浸かれるお風呂に

寝返りが自由にうてる快適なベッド

そして、彼女が一緒に居てくれるという安心感から

深い眠りに落ちるまであっという間でした。

死ぬほど寝るってこういう事なんだと思いました。



彼女は、姫の事を赤ちゃんの頃から知っていて

何度も家族ぐるみで一緒に旅行した仲

姫が初めて1人でお泊まりした先は、彼女の家でした。

長女のママ友としてスタートした関係でしたが

今では、唯一無二の親友です。


そんな心許せる親友だからこそ

彼女と一緒に過ごしているうちに

ずっと張り詰めていた緊張の糸が切れ

それと共に、涙が溢れ出てきました。


嗚咽をあげて泣きながら

彼女を相手に、自分の戸惑いや苦しさなど思いの丈を吐き出し

そして、姫と過ごした日々を振り返りながら、気持ちの整理をつける作業をさせてもらったように思います。


諦めたくないし、奇跡が起こると信じたい

でも、突きつけられた現実が、あまりにも酷過ぎて

これまでも、十分過ぎるほど頑張ってきた姫に

治療しても効果が得られない事が分かったのなら

これ以上、親のエゴで苦しませて生かす事ほど残酷な事はないのではないかとも考えるようにもなり

今回ばかりは、どんな結果になっても受け入れる覚悟を決めました。

そして、スマホに保存された姫の写真の中から

遺影として使う写真を選んでいる自分がいました。



彼女が一緒に過ごしてくれた時間は

とても静かで、穏やかで

そして、気持ちの整理をさせてくれる時間になりました。


今思えば

高熱を出したまま見送った補助人工心臓の装着手術の時だって

脳梗塞を起こした時だって

そして、心臓移植手術を受けた時だって

いつも一人ぼっちで孤独でした。


そう思うと

今回は、友の存在があったからこそ

乗り切れたんだと思います。


いつもは、美味しいお料理を堪能しつつ

お酒を潰れるほど飲んで

恋愛トークが止まらない私達でしたが

こんな状況になって、家族のように心配し

そして、傍にいてくれる彼女には

本当に感謝しかありません。