最上階の廊下は、しんと静まり返り少しひんやりとした空気でした。

 

木目調のあのドアの向こうには、小さな部屋があり、またドアがあり、そのドアの向こうにおそらくボスがいるのでしょう。

 

入社時の記憶がうっすらと思い出されました。

 

最初のドアをトントンとノックすると何も返事はありませんでした。

そぉーと開けて、中をのぞくと誰もおらず次のドアの方へ進みノックをしました。

応答はなく、中ではボスが誰かと電話をしているような声が聞こえてきました。

 

コンコンともう一度ノックをすると、スーとドアが開き、

電話中のボスが、ジェスチャーでそこに座るよう促しました。

 

ボスは、忙しそうに電話を切ると

ちょっと待ってね。

と言ってまた違う誰かに電話をかけ、話始めました。

 

待っている間も、妙に姿勢がピンとしたままドキドキが止まりませんでした。

 

錦戸君に、心の準備をするよう言われていたのにもかかわらず、こんなにも

早くボスからの呼び出しがかかるとは思っておらず、緊張で体が硬くなっていました。

 

ボスが電話を切ると、すぐに誰かから電話がかかってきて

ボスの忙しさを間近で感じました。

 

ボス話はおそらく夫と女の事でしょう。

忙しいボスにまで話がいって、こうして時間を割いて話そうとしてくれていること

事態に申し訳ない気持ちになりました。

 

かなり長い時間待ったと思います。

 

ごめんごめん。今ちょっと取引先を重要な案件を抱えていてね。

 

と笑いながら、私の前にどっかりと座りました。