弁護士さんの所への2度目の訪問は、すごく天気の悪い日でした。

インターホンを鳴らすと廊下を足早に駆け寄ってくる音が聞こえ、

受付の女性が、とりあえず中へと急いで中に招き入れてくれました。

傘についた雨粒を落とす時間もなく中へ入ると、玄関には傘から落ちた雨粒がポタポタと流れ落ちました。

 

すごい雨ですね。折角桜がいい具合に咲いてきたのに、これじゃ散ってしまいますよね。

 

受付の女性は、にこやかに話したのを心半分に聞いていました。

この雨で、散ってしまえばいいのに・・。私の黒い気持ちがまたチラリと顔を覗かせていました。

 

前回と同じ個室に通され、雨に濡れた腕をハンカチでふき取っていると、弁護士さんがやってきました。

 

お待たせしました。何か進展でも??

 

弁護士さんは少し微笑むと机からノートとペンを取り出し付箋のついたファイルを重そうに出すと、何か探すようにページを開きました。

 

そういうわけではないんですが、もう一度離婚した場合の所を詳しくお聞きしたいのと、この先どういう判断をしてどう進めばいいのかアドバイスいただけるならお聞きしたいなと思いまして。

 

離婚されたい意思があると理解していいんですか?

 

いや・・。まだ実は、離婚はしたくないと思っているんですが…。

 

私は、少し遠慮気味に今の現状と今の気持ちを説明しました。そして、女への慰謝料請求は、現段階では考えていないと言う事も。

 

なるほど・・・。そうですね。離婚は、双方が同意している場合と、どちらかが拒否している場合で

流れは変わってきます。

 

その後は、養育費の件、親権の件、財産分与の件など事細かく説明してくれました。

結婚する時は、お互いの同意だけで進んだものも、離婚となるとすべてが完結するまでには膨大なエネルギーが必要なんだと、分かっているつもりでしたが改めて思い知らされました。

 

それとね。調停から入る場合ですが、調停っていうのも色々あるんですよ。調停は、夫婦間で話し合えない事項を第3者の調停員を入れて話合う事でね。

みなさん離婚調停をまず思い浮かべると思うんですけど、さやさんのように本当は、離婚したくないけどという場合だと「夫婦円満調停」をするっていう方法もあるんだけどね・・。

 

ふうふえんまんちょうていですか??

無知な私は、初めて聞いた言葉でした。

 

そうそう。離婚調停は、離婚にむけて話し合われて、夫婦円満調停は、これから崩れた関係を調停を通して立て直しするといいますか。もう一度やり直すための調停でね。

全く最終的な目的が違うんだよね。

 

一瞬表情を変えた私を弁護士さんは見逃しませんでした。

 

でもなーーー。

 

弁護士さんは、ペンを机に置くと、手を頭の後ろに組んで、椅子をすこしまわしながら天井をみました。

 

夫婦円満調停はね。実際、そうあんまりメリットが見えないんだよね。私の事務所でも年に数件あるかないかの案件でね。調停自体肝心の旦那さんが来なかったら、進まないしねーー。

うーん。どうかなー。

まぁ。いずれにしても、調停に進むなら、別居をお勧めします。

 

別居ですか・・。

 

そうですね。やはり同居していると、調停員を介して話しあわれた事も顔を合わせてしまうと家でその話を延長させてしまって、せっかくいい方向で進んだことも壊してしまう事が多々あるんですよ。

別居期間の婚姻費用請求もできると思いますので、その辺は私に任せてください。

 

はい・・・。わかりました。

 

別居・・・。考えた事もありませんでしたが、今の私たちにはそういう選択肢をもって考える時間も必要なのかもしれません。

 

その夜、錦戸君から1通のメールが来ました。

 

夜分遅くにすみません。夫さんがどういう考えを示したとしても、最終的にはさやさんの気持ちを優先させればいいと思います。Xデーの時に、話をすると思いますけど、その場でさやさんの考えを話す必要はないかと思います。さやさんは、夫さんの考えを聞いたうえで、その場で判断せずもう一度よく考えてから、答えを出しましょう。向うは、不意打ちでしょうから、なかばパニックのようなものです。その言葉をその場で真に受ける必要はないかと。