女は、一貫して空港を降り立った瞬間に、夫から抱きしめるシチュエーションを望んでいました。

当初は、夫からの提案でしたが、この話になると毎回空港で抱きしめてねと呪文のように約束をしていました。

秘密の関係の2人がそんな大胆な事をする意味が分からないと思いましたが、秘密の関係だからこそ、そのシチュエーションを望んだのだと今は思います。

女も夫も非日常で、愛を語り合い、非日常で恋をしている錯覚に酔いしれていたのだと思うのです。

だからこそ女の日常は謎で、夫の日常が垣間見れると女は不機嫌になり、また非現実的な世界へ引き戻そうとしていたのではないかと思うのです。

お花畑メールもその活動の一貫で、どれだけドラマチックな事を妄想できるかで、この関係を成り立たせていたのだと思います。

土台のない2人の関係は、夢から覚めた時には、バカらしく思うほどあっさりと終わってしまうのだと、女は本当は知っていたのではないかと思いました。

だからこそ、夢から覚めないようにあの手この手でドラマ仕立てのシチュエーションを用意して、非日常を楽しんでいるのではないかと思うのです。

夫もまた上手く表現出来ない孤独と寂しさを、表現しなくても構ってくれる女に癒やしてもらい、自分が独りぼっちではないことをはっきり認識するために女がなくてはならない存在になっていったのだと思います。

でもそんな危うい関係は、お互いを掛け違いながら、長い時を経て、もつれた関係に変化していきます。

どの段階で、綺麗に編み込まれていないと気づくか気づかないかは、人それぞれでしょう。

気づいた人が、幸せになっていく事も非日常を楽しんでいる間は気づく事はできないしょう。
これが、本当の幸せと錯覚して。