わたしが中学生1年の頃、新聞やニュースに「不況」の文字は躍っていませんでしたが、今ほどモノが豊かな時代ではありませんでした。
さらに我が家は裕福ではなく、お小遣いも多くはなかったので本は図書館で借りて読んでいました。
コピーも今ほど一般庶民が手軽に使える環境になかったので、借りてきた本で記録したいものはすべて書き写すという作業になります。
その頃、マザーグースや、高村光太郎、中原中也の詩をノートに書くことを好んでやっていました。
中学3年の後半になると、詩のノートには萩原朔太郎や宮澤賢治のほか、ゲーテやリルケやヘッセといったヨーロッパの詩人が増えていくのですが。
そんなわけで、トパーズを見るといつも、高村光太郎の『レモン哀歌(千恵子抄)』の一文が頭に浮かびます。
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう
(すでに著作権が切れているので全文掲載します)
日本産のトパーズは無色かとても薄い色なので、光太郎がニューヨーク、パリ、ロンドンに短期間でも留学していたことを考えると、このトパーズのイメージはドイツなどに産出するレモン色のものだと思われます(詩人はそんな色よりもトパアズという言葉の響きを優先したのかもしれませんが)。
店頭分の鉱物を鉱物棚に並べなおしていたところ、トパーズがちょうど11月の誕生石でもあることを思い出したので、店頭分をきらら舎にアップしようと思います。
まずは単結晶。
現在市場に出回っているトパーズは紫水晶を高温処理して作った「シトリントパーズ」や放射線処理で作った「ブルートパーズ」がとても多いようです。
もちろん、紫水晶から作られたものもきれいなので、それを承知してコレクションに加えるのも楽しいかと思います(その際には、加工の詳細も明記してある鉱物標本店でご購入されることとおすすめします)。