お兄ちゃんの結婚 | 子供を亡くして~生まれてきてくれてありがとう。

子供を亡くして~生まれてきてくれてありがとう。

2013年5月、難病で13年間闘病してきた娘が天に旅立ち、残された私には毎日が生き地獄。でも娘が私に残してくれた20年間の思い出は私の大切な宝物です。娘が描いた絵がhttp://www.pixiv.net/member.php?id=4025133にアップされています。

息子が去年の9月、結婚した。結婚に先立ち、8月に、ホテルで両家の顔合わせがあった。

相手のお嬢さんには、それまで何度か会っていたが、ご家族に会うのはこれが初めて。


嬉しそうな彼女に、穏やかなお父さんと、優しそうなお母さん、モデルみたいに背が高くて綺麗な妹との、幸せオーラいっぱいの4人家族が、部屋に入ってきた途端、私は帰りたくなった。

うちだって、ホントは4人家族だったのに。息子もお兄ちゃんで、妹が1人いたのに。でもうちの側の椅子は3つしかない。

喜びよりも、娘の不在の方が強く感じられて、辛くなった。


でもそんな思いを封じ込めて、笑顔を貼り付け、にこやかに会話をした。息子の晴れの席で、暗い顔なんて絶対できない。

やっと2時間が経って、お開きとなった。最後にホテルの人が、全員の写真を撮ってくれた。すると向こうのお母さんが「今度はぜひ、さあやさんもご一緒に」と言ってくれた。思いやりには感謝したけど、複雑な気持ちになって、曖昧に笑って誤魔化した。


たった2時間だったのに、物凄く疲れた。帰ってから、夕飯も食べず、お風呂に入って寝てしまった。そしてそれから1週間、私は寝込んだ。家族には夏バテと言ったけど、間違いなく精神的ダメージのせいだ。仕事がお盆休みで助かった。

息子が結婚する時は、手放しで喜べると思っていた。ところがあにはからんや。せっかくの祝いの席に、たった1人の妹である娘が居ない悲しみの方が、私の中では大きかった。


顔合わせでこんなんだったら、本番の結婚式はどうなるだろう。不安だった。入籍と引越しは9月にしたけど、コロナのせいで、結婚式は春に延期したから、それまでにしっかり、心の準備をしなければならない。

そんな折、息子から電話があった。

式では娘の席も用意するつもりだが、食事の方はどうしようか、と。


少し迷ったが正直に言った。

妹の席も用意したいという、お兄ちゃんの気持ちはとても嬉しい。だけどお母さんは正直、あの子の存在をあまりアピールしたくない。向こうの親戚の中には、知らない人もいるだろう。好奇の目で見られたり、あれこれ言われたりしたくない。できれば触れられたくない。

だけど、あなたの結婚式だから、最後に決めるのはあなた。お兄ちゃんのしたいようにしてくれれば良い。お母さんはそれに従うよ、と。


息子はそれを聞いて、わかった、と言った。

そして後日、娘の席は用意しない事にした、と言ってきた。せっかくのお兄ちゃんの思いを踏みにじってしまったかも、と申し訳なく思ったが、正直ホッとした。空っぽの座席も減らないお料理も、できれば見たくない。

でも、せっかくのお兄ちゃんの結婚式、当然娘の写真は持って行こうと思った。あまり大きな物ではなく、2L版サイズの写真立てを、私と夫との間に置こう。私たち夫婦の方に向けて置けば、客からは見えないから、そんなに目立たないだろう、と思った。


さてどの写真を持って行こうか、と思っても、遺影にも使った、成人式の写真くらいしかない。当然8年も前の写真。ただでさえ童顔な上に、成長障害もあったから、振袖と袴を着た娘は、成人式と言うより、小学生の卒業式のようにも見える。

もし生きていたら、そんなに成長してなかったとしても、8年経てば多少は変わっているだろうし、何より成人式と同じ着物のはずはない。新しい服を買うか、違う振袖を借りたに違いない。


そんなこんなを考えて、良いことを思いついた。ブロ友さん達が描いてもらっている、いろは癒し塾さんに、28歳の娘の晴れ姿を描いてもらおう。

前から描いてもらいたい、と思いつつ、機会が無かったが、こんな良い機会はない。


すぐにいろはさんに連絡を取った。案の定成長した姿は無理、と言われたが、それを承知の上で、できるだけ大人っぽくして欲しい、とお願いした。娘は八頭身の美人に憧れていた。だから首から下はネットに出てるモデルさんを、参考にして描いていただき、顔立ちやメイクを大人っぽくして下さい、と言った。


それから、娘の写真をできるだけ多く送った。着物と帯、髪型は、ネットで検索したのだが、沢山見すぎて、最後は訳がわからなくなり、どれが良いのか選ぶのに苦労した。

ほっぺたがふっくらしてるのも、本人は幼く見えるから嫌がっていたのだが、いろはさんから、あまり顔のラインを変えると、娘本来の顔から離れて行くから、と言われ、最終的には、いろはさんに全面的にお任せした。今までの、ブロ友さんのお子さんの絵を見てたから、きっと素敵な娘を描いて下さるはずだ、と信じた。


それでもやっと絵が届いた時には、開けるのにドキドキした。そして1目見た瞬間、思わず「お帰り、さあや」と言って、後はただ泣いた。久しぶりに号泣した。約8年ぶりに、娘に会えた気持ちになった。

微笑みながら今にも「お母さん、どう?」と言ってくれそうな、本当に優しい絵。

こんな素晴らしい絵を描いて下さったいろはさんには、感謝してもしきれない。



28歳にふさわしく、綺麗なお姉さんになった娘を連れて、お兄ちゃんの結婚式に出ようと思う。

(注:コロナのせいでどうなるかわからないけど)