私は昨日の朝、ちゃんと決着をつけようと思って自分から彼女の病室へと向かった。




コンコン…




「彩ちゃん…入ってもええかな?」





『朱里ちゃん?いいよ?』






ガラガラ。





彩ちゃんは優紀が海外に行ったことで足を引っ張りたくないって言って別れを決意した…




でも2人が変わらず愛し合ってるのを知ってたのに私は、その隙に…すれ違い利用して勝てるはずもないのに優紀を自分のものにしたかった。









『朱里ちゃん、あの…ごめんね…』





謝ろうと思ってたのに、勝ち目ないし自分が醜いだけで嫌になってきたから…もう良い歳やし真っ直ぐ生きようって思ってたのに。






「なんで…彩ちゃん謝んねん、、、」



『やって…私、酷いことしたから…』




「それは私の方や!彩ちゃん…ごめんね。」





熱で今は特に弱ってる彩ちゃんやのに、先に謝らせてしまって余計に悲しくなってしまい…思わず手を握って私もすぐに謝った。






こうやってちゃんと謝れるようになったのは、私が年取った証拠なんや…






『もうそれはええんやって、謝らんでええの。それよりあのなぁ…朱里ちゃん…』






「ありがとう、彩ちゃん。…ん?」






『優紀…元気なかってん…』





「あぁ、優紀…ちょっと忙しくて疲れてるんやない?」






彩ちゃんは私が優紀に無理矢理キスしたのをもう気にしてないみたいで、普通に話してくれるから…



これでええかなって、思うことにした。




それか熱であまりそのことを今は考えられへんのかなとも思ったけど、まぁいっか。





『でもっ、、げほっ!!げほっ!!』




「彩ちゃん!?ちょっと大丈夫!?」





急に彩ちゃんが咳き込み始めて、なんだか普通の咳やない…



深いし止むことなく、ずっと咳き込み続けるから慌ててナースコールして人を呼んだ。





『げほっ!!げほっ!!げほっ!!…』





「すぐに優紀に来てもらうからな、彩ちゃん!!しっかりするんや。」






















それから、こういう時は担当医を呼ぶのが普通なんやけど優紀がどこにいるのか分からへん状況やって…






(吉田先輩!!渡辺先生が見当たらなくて…)




「えっ?!もう、なにしてんの…」



(すみません…)





「私が探してくるから、とりあえず他の先生を呼んでもらうようにして。」






(はい!!)






この後輩の子に私は怒ったんやなくて、こんないつ何が起きるか分からへん状況で優紀は何をしてるんやって怒りやった…




















そんな感じで探しに行こうとしてると…





(本当に渡辺は一体なにやってんだか。)





(最近、気が緩みっぱなしなんですよ。)





(会議遅れるとかありえへんやろ。)






すれ違った病院のお偉いの人がそうやって、優紀の名前を出して言ってるのをたまたま聞いてしまった…




でも、まさか違う渡辺先生やろ?って思ってたのに。






研究室でめちゃくちゃ落ち込んでる優紀を見て、こいつやったんかいって…






でも、しっかりしてもらわなあかんねん!






ってことで優紀に喝を入れた。









そして、研究室でうじうじしてる優紀を見つけたんや…









だいたい、最近の優紀は私が好きやった優紀やない。








いつでもどんな時でも何事にも一生懸命なのに、誰に対しても平等に優しくていつも笑顔で接してくれる…





本当に太陽みたいってこの人の事を言うんやろうなって思ってたのに。





















彩ちゃんの処置をしようとする優紀の手はものすごく震えてて、、、



見てるこっちが怖くなった。








何が優紀の中で変わったんやろうって…何をそんなに思い詰めて悩んでるんやろうって。




















「優紀?」





「あ、朱里…どうしたの?」





「なんかあった?」




「えっ…?」








「なんもないよ。」






そう言って、資料をずっと見てる優紀にやっぱりいつもの感じやない。







「なんもないようには見えへんねん…そんなんや、彩ちゃん心配するよ。」




「……朱里には、言うけどさ」





「ん?」





「僕、彩ちゃんの手術出来ひんかもしれんねん…」




「え、どういうこと?」





「なんでか手が震えてさ…他の患者さんやったら大丈夫なんやけど、彩ちゃんだけだめなんや。」






「それはたぶん、彩ちゃんが優紀の中で家族みたいに大切やからやろうな?」





「上の人も…僕には手術させられないって…」





「なら、安心して任せたらええやんか?そんな深く考えんでも…ちゃんと手術までの準備は一緒にしてさ。」





「そんなん…あかんやろ…」





「優紀…」






「僕は彩ちゃんのことをこの世で1番愛してる…やからこそ僕の手で救ってあげなあかんのに。彩ちゃんやってそれを望んでるのに…」







優紀は見たことがないくらい落ち込んでる…



こう見えて責任感は人一倍強いから、こんな優秀な医者になってるわけで。






「じゃあ優紀はどうしたいん?彩ちゃんの病気を治してあげたいんやろ?」






「うん…それに僕やないと出来ない手術なんだ…他の人には任せたくないんだ。」






「んー…でも、それはちゃんと優紀が出来る人に引き継ぎしてもらうしかないやろ?彩ちゃんの命が最優先なんやから。しっかりしなさい、優紀。」






「…………」








私はちゃんと優紀に対して、適切な言葉をかけたと思ったんやけど…あんまり応えてない感じやった。


わざと優しくはしなかったけどな。



これは優紀が自分で納得いくまで考えるのが最適なんやろうけど…でも、そんなに彩ちゃんは待てれへんねんな。









だいぶ心臓に負担かかってて、今もすごく辛そうにしてる…



熱が下がってもしんどいやろうに。









でも、私は医者やないからそこまで口出し出来ひんし…見守るしかないんや。






どうか2人にとって良い方向に進んで行きますように…






いつもの逞しい優紀の背中はそこにはなくて、
弱々しい背中に祈った。