彩ちゃんの熱はその後もなかなか下がらなくて、心臓には負担がかかるし僕は気がきやなかった…
『はぁっ…はぁっ…』
「彩ちゃん、また点滴新しいのに変えたからね。」
行き上がるくらいまだ辛いみたいで、なんとか楽にしてあげたいって…彩ちゃんの検査結果から合う治療法を必死に探してた。
「あかんな…心臓の数値が悪すぎる。」
彼女の身体をなるべく傷つけたくなくて、前にも手術したし薬で治せる方法はないか…手術やとリスクもかなり高いから。
でも、熱もそこからのものみたいで…下がる予兆すらない。
最初は疲れやと思ってたけど、朝からやったからやっぱりあの時から出てたんやって…行かせたのをかなり後悔してる。
「はぁ…だめや…頭が全く回らへん。」
かなり息ずまってて、他の仕事も疎かになってた。
(おい、渡辺!!会議はどうしたんや!)
「え、あっ!!すみません!!すぐにいきます…」
この日は会議を忘れてて、慌てて怒られて行った…
もちろんこの後、上の人にこっぴどく叱られた。
「はぁ…」
「どうしたん?めっちゃ怒られたって噂になってるで?」
「あー、なんや朱里か…」
「悪かったな私で。」
「いまちょっと忙しいから用があるんなら後にして。」
朱里が話しかけてきても、相手にも出来なかった。
「彩ちゃん、めっちゃ咳してんねんけどええん?」
「えっ!」
「今、違う看護師にちょっと頼んで優紀呼びに来たんやで?はよ来て。」
「あ、うん…ごめん。」
朱里に呼ばれてすぐに彩ちゃんの元へ急いだ。
ガラガラ!!
「彩ちゃん…!!」
『げほっ!!げほっ!!げほっ!!…』
朱里が言ってた通りに彩ちゃんは辛そうに咳き込んでた。
この咳き込み方は心臓にかなり負担を与えそうや…
「彩ちゃん、分かるかな?ちょっとずつで良いから深呼吸を意識してみてね。すぐ楽になるから待っててね。」
朱里たちと協力して、彩ちゃんの意識が飛ばないように声をかけながら処置をしてた。
「朱里、彩ちゃんなんでこうなったか分かる?」
「普通に話しをしててん、そしたらいきなり咳き込み出したんや。」
「そうか…やっぱり、熱の加減かな…」
処置をして点滴で新しい薬を入れた。
やっぱり薬療法は諦めて早く手術の方法を探さないといけなんや。
でも、彩ちゃんの今回の病状は手術の症例がない…
やからは僕が初めてすることになる手術。
やからここのところそう思うと、なんでか最近…手が震えて外科医には必要なイメージトレーニングが全く出来ない。
やから、余計に焦って何もかも上手くいかないんだ。
「渡辺、この数値やと肺炎を起こしてる確率が高いぞ?」
僕の様子を見て、心配してくれてたんか先輩が彩ちゃんの病室に来て、血液検査の結果も見てくれた…
「え、あ…そうですね…」
「どうした?お前らしくないぞ、ちゃんと患者の容態を細かく繊細に対応せな…」
「はい、すみません…」
肺炎を起こしてることに僕は気づいてなかった。
全て心臓から来てることかと思ってたのに、風邪をひいててウィルスが入りこんで熱が出てた…それからの肺炎。
今までこんなミスをしたことないのに。
でも、その理由は分かってた…
愛する人を、もしかしたら自分の手で失ってしまうかもしれないという恐怖に僕は襲われてるんや。
前に手術した時は彩ちゃんに対して、ここまでやなかったし…何回もした助手としても参加したものやったから出来たけど。
今回ばかりは精神的にかなりくるものだった…
『優紀…』
「彩ちゃん、大丈夫?」
『うん…ありがとうな。』
「え?」
『楽になった…』
「彩ちゃん。」
手術のことばかり考えてると、本当におかしくなってしまいそうで…自分を落ち着かせるために眠ってる彩ちゃんの手を握ってそばにいた。
でも、目が覚めるとお礼を言ってくれた彼女のやっとの笑顔に…愛おしさに…
もっと僕は怖くなった。
彼女を失うかもしれない…
もし、手術方法を間違えたら…
そんなことばかり頭によぎってしまうんや。
ガラガラ…
「彩ちゃん、氷枕変えような〜」
『朱里ちゃんや…』
「優紀?私と彩ちゃんはちゃーんと話ししてまた仲良くなったからは心配せんでええから。」
「朱里…」
「なにを切羽詰まってるんか知らんけど、私には分からんことなんやろうけど…優紀には彩ちゃんもおるし私もおるんやからな。」
「ありがとう…」
朱里の気持ちは分かってたけど、いつも結構フォローしてもらってたのに答えられることは一度もなかった。
それに、いつもこうやって…最終的には自分の幸せより僕の幸せを優先してくれるんや。
本当に朱里にも出会えて良かったと改めて思う。
でも、僕が抱えてるものは本当に大きすぎて…
人に頼れることやないんや。