『はぁ、はぁ…ごめん…お待たせ。』
タクシーで約束より早めに出たのに、道が混んでて遅れてしまった。
「良いんだよ?別に僕はさ、それより大丈夫?…走ったの?」
『ちょっとだけな…』
今日はいつもより脈が多いって優紀から心配されてたのに結構走っちゃって、息がかなり上がってちょっとしんどくなってしまった。
『はぁっはぁっ…』
「ここに座って?彩さん…」
『ごめんっ、、げほっ、げほっ…』
息が苦しすぎて咳まで出だしてしまった、今日は大事な話があるのに…なにやってんねん自分。
「大丈夫やから、僕のことは気にしないで?やから無理して喋らなくてええから。」
しばらくの間、咳が止まらない私の背中をさすってくれてやっと私は落ち着いてきたけど…
やっぱり優紀の言うことを聞けば良かったかも。
なんだか気持ち悪くてやっぱりしんどい…
でも、今は我慢しないと。
『もう、大丈夫や…ありがとう。』
「本当?」
『うん…今日は大事な話もあるし。』
夢莉が座って、私はちゃんと目を見て話そうって目を見た。
すると…
「僕とはもう付き合えないんだよね。」
『夢莉…』
「知ってたんだ、彩さんが僕より全然優紀さんが好きで忘れられないって…でもね彩さんは優しいから僕の気持ちに応えようとしてくれたんだよね。」
いつもみたいに優しい声やけど、夢莉は切なそうに笑ってた。
でも、そんな夢莉が思ってるような私は良い人間やない。
『そんな…応えようとしてたんやない…夢莉のことも好きやったのに間違いないねん。ただ振り回して最低なやつや…』
「彩さん、泣かないでよ…僕まで悲しくなっちゃうやん。楽しかったよ?お試しで終わっちゃったけど好きな人と少しだけでも恋人になれたこと良い思い出になった。」
泣かないでって言われても、こんな優しくて純粋な気持ちを伝えられると…溢れるものが止まらない。
「ありがとう、彩さん…優紀さんと幸せになってね。」
『夢莉…ありがとう、、ほんまにごめんなさい…』
「あははっ、良いんだってほら…涙拭いてさ笑顔で別れたいんだ彩さんと。」
『うんっ、、、』
本当に悪い事したって、優しくて温かい夢莉を見て余計に思った。
なんか辛くなってしまった…
それから2人でちょっと食事して私は夢莉が呼んでくれたタクシーで帰ることになった。
「大丈夫?優紀さんに電話しておいた方がええんやない?」
『ううん…タクシー乗ったからもう大丈夫やと思う、ありがとうね夢莉。』
食事をする前からやっぱり具合は悪くて、夢莉と最後の時間と思うと少しの罪滅ぼしと思って食べると見事に悪化してしまったんや。
目眩と胸の痛み、吐き気…絶対やばいって思ったけど夢莉を心配させないためにタクシーまでなんとか歩いたけど、途中に目眩で転びそうになり…夢莉にバレた。
「そっか、じゃあ運転手さんお願いします。」
(はい、ではいきますね〜。)
『夢莉、また仕事でね。』
「うん、同僚としてまた仲良くしてくださいね?彩さん。」
『はい、ふふっ…仕事に復帰できるように頑張ります。ばいばい、ありがとう。』
「うん、ばいばい。」
見えなくなるまで手を振ってくれてる夢莉に、また泣きそうになりながら私はタクシーで帰った。
ーーー
「遅いなぁ…」
彩ちゃんは朝から夢莉くんに会いに行って昼には帰ってくる予定やのに昼過ぎても帰ってこない。
体調的にあんまり長時間外出はあかんからちゃんとそこは初めから約束したのになぁ…
「あ、帰ってきた。」
病室の近くの廊下で待ってたら遠くから彩ちゃんが歩いてくるのが見えた。
「顔色悪いな…」
もしかして夢莉くんとの話し上手くいかなかったのかな…
脈がいつもより多かったけど、本人は元気やったしまぁなんとか大丈夫やろうと…思ったんだけど。
「おかえり彩ちゃん。」
『優紀…ただいま。』
やっぱり行く前より元気ないや…
笑えてない。
「遅かったね?何か一緒に食べてきたの?」
『うん、せっかく出てきてくれたんやしご飯でも食べよって言ってん。』
でも、普通に接してた。
「そっかそっか、久しぶりに外に出たから疲れたでしょ?ちょっと寝たら?」
『うん…そうしようかな…』
全くと言って良いほど活気が無くて、なんか心配や。
「彩ちゃん、大丈夫?夢莉くんとちゃんと話せた?」
『…………』
「彩ちゃん…?」
病室に入って、彩ちゃんはとりあえず鞄を下ろしたけど僕に背中を向けたままベットの方を向いてて返事をしない。
やっぱり夢莉くんとなんかあった?
ふらっ…
「彩ちゃん!?…」
するといきなり彩ちゃんが倒れそうになって僕は慌てて支えた。
「大丈夫?…気分悪い?それかしんどい?」
『はぁっ…はぁっ…優紀…』
「ん?…」
『私らも、やっぱり…別れた方が…ええかも…ね…』
そう涙ぐみながら、苦しそうに言う彩ちゃんは一時的に意識を失った…
「彩ちゃん!!しっかり!!」
すぐに僕は抱きかかえて、彩ちゃんをベットの上に寝かせた。
看護師に点滴とかを持ってきてもらいながら処置をした…
やっぱり心臓の関係でかなり身体にも負担をかけていた。
軽い心臓発作を起こしてたんだ…
でも、緊張状態やったからか本人があまり身体に感じてなかったのか。
帰ってきてそれが全て解けて倒れたんやと思う。
やっぱり朝の脈は発作の前触れやったんや…
熱もあって、しばらくは外出どころか病室から出れないほどの絶対安静やな。
『優紀…』
「あ、目覚めた?熱もあるから寝てしっかり休むんだよ。」
『うん…』
でも、とりあえずはちゃんと目を覚ましてくれたから安心した。
「夢莉くんと何かあった?…」
そっちもかなり気になってて、聞かずにはいられなかった。
話しによっては僕が直接会いに行こうと思ってる…
『知っててん…』
「ん?」
『私が別れ話しをしようとしてるのも…優紀のことを愛してることも…』
「そうやったんや。」
僕はあんまりビックリしなかった。
勘の鋭そうな彼なら有り得そうやったから…
『やからね、全く怒るどころか…ありがとうって、、、言われてん、、』
彩ちゃんは思い出して余計に辛かったのか突発的に泣き出した。
「そっか…」
『そしたら、なんか…自分が本当に醜い人間に思えてきてさ、、、どうせなら倒れたまま死にたかったな…』
「それは夢莉くんに対して余計に失礼だよ、彩ちゃん。」
『優紀、、、』
「なにも文句言わず、彩ちゃんの幸せを考えてくれたんやから…僕たちは責任持って幸せにならないといけないんだ。」
『でも…』
「でもやないよ、大丈夫。僕が必ず幸せにするから…まずはちゃんと身体を治そう?ね。ほら熱が下がらないから寝よう。」
目が覚めたからってこんなに喋ると身体に応えるから、布団を首の辺りまでかけてあげたら…彩ちゃんは軽くうなづいて目を瞑った。
夢莉くんの優しさが返って彩ちゃんを苦しめてしまったんや。
でも、本当に優しい男の中の男なんやな夢莉くんって…
僕も負けないように、夢莉くんが僕たちを受け入れてくれたのを無駄にしないように…彩ちゃんを幸せにする。
それが僕の役目や…
もう絶対に1人にしない、悲しい思いなんてさせないんや。
責任をもって彩ちゃんを幸せにするからね…