俺は彩に正直に言えへんかった。



お前が好きな人やって…




やっぱり言えへん、付き合ってて恋人同士やったんやって。











言ったら、彩もそれを受け入れてくれる気がすんねんけど…俺が言わない理由は。



記憶がなくなっても、また自分を選んでくれるんやないかっていう期待もあるし…いつか必ず思い出してくれるって思ってるから。




彩の中での俺は、そこまでやったんやなってならないことを期待してるからなんやと思う…





思い出して欲しい。



俺たちの思い出は誰にも負けないくらい濃いいものやし…彩自身に思い出して欲しいんや。 










やから、胸は痛むけど…言わないでいる。







『…なんか、百花ってさ。』




「ん?」




『見た目と違うねんな?』




「なにがや?」




パンを持って一緒に帰ってると言われた。





『めっちゃ優しいねんな…』




「はっ///…な、なに言ってんねん。」



『なんで赤くなるんよ…そこで。』




「う、うっさいわ。はよ行くで……」




『あっ、待ってよ…』





つい照れると、彩に不思議がられて余計に恥ずかしくなった。




だから小走りになったら、急いでついてくる彩がなんか無性に可愛かった…





「ん、はよ来い。」




『置いて行かんでよ…』





ちょっと、ムスッとして拗ねるところ…


記憶がなくても変わってへんな。





「あははっ、ごめんな?そんな怒んなって。」



『………』



「彩?」



いきなり彩が黙ったから、かなり怒らせたかなって思ったら。






『なんかこんな事、前にもあった気がする…』




「えっ…」




『百花と…私は…』





彩は記憶が戻り始めたのか、少しずつ思い出していた。






その時だった、タイミングよく…





「彩!…」




『あっ、由依…』




「遅いから心配したんや。あ、百花…」




『ごめんな、ちょっと迷ってしもうてそこで百花にあったんや。』







由依が彩を心配して迎えにきた。




「そっか、ごめんな?購買の場所そりゃあ分からへんよな…ほら教室帰ろうや。百花…ありがとうな。」





『うん、行こうか…ごめんお腹すいたよな。』





そう言って、彩は由依に手を引かれて戻ろうとした…





なんか俺は止めないといけない気がした。
いま止めないと彩はずっともう俺の事も思い出さないかもって…





「あっ、待って…」





『ももか?』




「あの…彩、」



『ん?』




「放課後さ、…」



なにを言おうか決めてなくて、ただ引き止める何かを考えてた。





「彩、早く…」




『あっ、ごめん百花また後で…!』




由依は彩を急かして、連れて行った。


彩は俺の顔を見ながら申し訳なさそうにして行った…



言いたかったことは、たまには一緒に放課後帰らへんかってこと。

理由なんて何にもないのに、ただ彩といたいだけとは言えへんから…考えてると行ってしまった。







なんでいつこうなんやろ。
後悔しかしてへん…







ーーー








私は嫌だった。




彩と百花が仲良さそうに話してるのが…














なんでなんかな。
彩とは親友なのに、二人を見ると引き離したくなってただただ彩と二人きりで居たいって…強く思ってからの私はかなりおかしくなった。





歯車が狂い始めた…





『由依?…』




「あっ、なに?」




『怒ってるん?』




「えっ、なんで怒るんよ…」





『百花と話してて、お腹空いてるの待たせたし…』





彩は心配そうに私を見る。
そんな目で見つめたら、それ以上何にも言えなくなって目逸らしてしまう…


「…ふふっ、そんなに彩にとって私は食いしん坊に見える?」




『いや、そういうわけちゃうねんけどさ…』




「なぁ、彩…」


『ん?』




私が名前を呼ぶと、ニコッと微笑んでくれる…


あぁ、好きやなぁ。可愛いなって思いながら心も温まる。






「私な、彩のことほんまに好きやで。」




『え?』




「大好きやっ。」




すると、彩はまた不思議そうな顔をした…




『どしたん、由依。』



「彩は?嫌い?…」




『なんで、そうなるんよ。好きに決まってるやんか?』




「ふふっ、そっか…ありがとう。」




『ん?よく分からへんけど…どういたしまして。』















きっと、彩の好きと私の好きは違う…









ーーー






ガラガラガラ…






「ん、あー。珍しくお客さんやな。」




「わりぃな。ちょっとな…相談。」







俺が訪ねてきたのは、彩の従姉妹で担当医の…
山田のところ。





「彩のこと?」




「うん…」




「やっぱ、思い出せへんか。」




「………」



「そんな暗い顔したらあかんよ。いつもの百花でおらな…彩も記憶が戻ったとしても、分からへんやん。」





本当にこういう時は良いことを言ってくれる。

山田は、小さい頃から彩と一緒にいた俺のことも彩の家に来たらいつも遊び相手になってくれてた。


やからかいつのまにかこんなに親しい仲になった。



「なんで山田ってさ、俺の事も気にかけてくれるん?」




「そりゃあ、彩もやけどあんたらとは兄弟みたいなもんやもん。弟と妹みたいな?」



「ふーん、そうか。」





「彩、百花のこと全く思い出さへん?」




「え、どういう意味?」





山田に聞かれた質問がよく分からなかった。




「彩な、少しずついろんな事を思い出せるようになってるねん。ここでリハビリをしに来てるのもあるし、学校に行ってるのも良い刺激になってるんやと思う…
私の事もだいぶ思い出したみたいでな、

私たちがなんか少しヒントを出してあげるのも彩にとってはそこから考えて思い出せるみたいやで。」





「あー、なるほど…」




「なんかそんな感じやなって、思い当たることあった?彩に変化あった?」




「うん、そういえばな…あったかな。」




「おお!、なになに?聞かせて!!」




山田は嬉しそうに聞く。




「俺さ、今日…彩がまた学校に来始めてから初めて会話したというか少しだけやけど一緒におったんや。

その時に、ちょっと色々あって彩を怒らせて謝ったら彩が前にもこんなことあった気がするって…」




「え、あんた彩と学校で一緒におってあげてへんの?」




山田は俺が話した出来事より、一緒に居ないことを驚いていた。




「あ、うん…だって由依がずっと一緒にいるし。」





「あー、由依かぁ…はぁ。でも、まあ彩は百花の事も思い出せる可能性は十分あるねんからさ。

しっかり関わって行ったらええよ?由依の事は
色々前にもあったから気になるかもしれへんけどな…」



「まぁ、ええねん。それは…彩も唯一覚えてる人学校では一緒の方が安心するやろうし。」




「そうやな。」




「でも、おかしいねんな。あんまり怪我する前に一緒におらんかったはずやのに…なんで由依だけ覚えてるんやろうな?






それだけ、印象に残ることをされたからかもな。」













山田の言葉なんか意味深で、よく分からへんかった…




怪我する直後も俺は彩といたし。











「どういう意味なん?」




「まぁ!それはええねん。それでさ、彩には言ってたんやけどな。私の家の別荘に彩ともちろん
百花と由依でもええし、あと誰か誘って遊びに行かへん?山登りとか自然は彩に良い影響与えてくれかもしれへん!」





「俺、気まずいねんけど…」




「やから!誰か誘えばええよ〜」





そう言って、山田に別荘に誘われて行くことのになった。



で、結局のところ行くメンバーは…






山田と彩と俺と由依…そして、朱里になった。




なんでかというと、学校で彩とその話を少しだけしてると行きたいと図々しく言ってきた。





今週の土日で行くことになった。















どうなるか分からへんけど、少しでも彩との思い出を作りたい。







もし思い出してもらえなくても、俺にとって彩は大切な人だったということを伝えたいからな…