小林side










7月10日、今日は彼女である森田ひかるの誕生日。





家に帰ってからお祝いするプランだけど
日中なにもしないのも落ち着かない。





という訳でプレゼントだけは渡すという結論に至った。










小林「みいちゃん、ちょっとこっち」



小池「どしたん?」



小林「ここ、この辺立ってて」



小池「ええけど…」










近くにいたみいちゃんを呼び寄せて
ひかるからの視線を遮る。





見えないように持ってきた包みを
ひかるの鞄のなかに入れる。





よし、これで完璧。










小池「あら」



小林「しーっ、内緒ね」



小池「隠したかったんやな」



小林「うん」



小池「案外すぐ気付くんじゃない?」



小林「そうじゃないと困る」



小池「なんで?」



小林「まぁ、いろいろ」










そう、すぐに気付いてくれないと困る。





気付いて開けてすぐに使ってくれないと
私が困っちゃうからね。





よくわかっていないみいちゃんにお礼を伝えてから、
ひかるの鞄を離れて様子を窺う。





しばらくすると鞄の方に向かうひかる。





あ、気付いたな。





元々目が大きいんだから、
そんなに開いたら落ちちゃうよ。





包みを開けて目をキラキラさせてる。





うん、かわいい、すごくかわいい。





中に入っていたプレゼントを身に付けて
夏鈴ちゃんのところへ戻っていく。










藤吉「あれ?さっきまでのと違うやん」



森田「うん、変えたの」



藤吉「なんで?まだそんなに汗拭いとらんかったやん」



森田「これがいいの」



藤吉「ふーん、嬉しそうやからいいけど」










私があげたものでひかるが笑顔で、
れが彼女の特権だわ、なんて優越感に浸る。





休憩時間もあっという間に終わり、
レッスン再開の声がかかる。





かわいいひかるも見られたし、もう少し頑張るかー。





伸びをして体を動かす準備をしていると
また夏鈴ちゃんの声が聞こえてきた。










藤吉「え、タオルかけたまま踊るん?」



森田「うん、今日はそんな気分」



藤吉「邪魔じゃない?」



森田「ぜーんぜん!」



藤吉「ふーん…」



小池「あれ、ゆいちゃんがあげたやつ?」



小林「ん?そう」



小池「ひかるちゃんずっとつけるんかな?
めっちゃかわいいやん」



小林「でしょ、渡さないからね」



小池「そんなつもりないって(笑)」










ひかるは私の彼女だぞって見せびらかしたくて
わざわざレッスン中に気付くように渡したんだ。





それをひかるは知らないだろうけど、
あれだけ気に入って身に付けてくれてると
ニヤニヤしちゃう。





その後レッスン中のひかるは目が合う度に
いつも以上にかわいい笑顔を見せてくれた。





お陰で私も絶好調なレッスンになった。










森田「由依さん!帰りましょ!」



小林「うん、今日は私の家でいい?」



森田「いいんですか!お邪魔します」










レッスンが終わるや否や、
すごいスピードで私のところに来た。





なんか今日は小型犬みたい(笑)





見えない尻尾が左右に揺れてる。





久し振りに手を繋ぎながら、
ゆっくりと私の家に向かった。




















森田「わぁー!」



小林「…どう?」



森田「すごいです!
これ全部由依さんがやってくれたんですか?」



小林「うん」



森田「えぇ~嬉しいです~」










今日の朝、リビングをお花とか風船で飾り付けして
整えた甲斐がある。





一個一個をキラキラした目で見ながら
すごいすごいと歩き回るひかるがかわいい。










森田「そうだ!由依さん」



小林「ん?」



森田「素敵なプレゼントもありがとうございました!」



小林「いえいえ、気に入ってくれた?」



森田「それはもう!毎日これを使いたいくらいです!」










そう言いながら鞄から私のあげたタオルを取り出して
大事そうに抱き締めてくれる。





そんな風に言ってもらえるだけで、
私もあげた甲斐があるし嬉しくなる。





ひかるの頭を軽く撫でた後、
ソファーに二人で座ってまた手を繋ぐ。










森田「由依さん」



小林「ん?」



森田「ちょっと由依さんに
聞いてほしいことがありまして…」



 





さっきまでのキラキラした顔から一転、
フォーマンスするときみたいな真剣な顔になる。





少しだけ手を握る力が強められる。










小林「あ、あんまり聞きたくない…って言ったら?」



森田「んー」










少し上を向いて考えてるひかる。





なんか急にそんな顔されると
悪い話な気がしちゃって…
最近ひかるとの時間をあまり作れていなかったから、
残念なことに心当たりがある。





どうしよう、もしひかるがそれが嫌で
我慢してたんだとしたら…





なんとか取り返そうとした結果が
今日でもあるんだけど。










森田「由依さん?」



小林「…ごめんね」



森田「え?なんで謝るんですか?」



小林「でも私ひかるのこと好きだから」



森田「あ、ありがとうございます…
どうしました?由依さん変ですよ?」



小林「だから別れるなんて言わないで…」



森田「わ、別れる?」



小林「これからは気を付けるから…」



森田「ちょ、ちょっと待ってください!」










あー、泣きそう。





私の方が年上なのに、ひかるの誕生日なのに、
なんで私が泣くんだよ。





別れるって口にした瞬間、勝手に余計に悲しくなった。





こんなにひかるが好きなんだから、
日頃からもっと時間を作る努力をすればよかったのに。





なにも行動しなかった自分が嫌になる。





自己嫌悪で暗くなる私を落ち着かせるように
ひかるは手を握り直してくれて、
優しい声で私の名前を読んでくれる。







森田「由依さん、私別れたいなんて
思ったことないです」



小林「…本当に?」



森田「本当です。悪い話じゃないので
聞いてくれませんか?」



小林「…わかった」










悪い話じゃないっていうなら、きっと別れ話ではない。





距離を置きたいって言われるかも、とか
考え出したらきりがないけど、
ひかるが聞いてほしいと言うなら聞くしかない。










森田「まず、お誕生日お祝いしてくれて
ありがとうございます、本当に嬉しいです」



小林「喜んでくれてよかった」



森田「はい、あとですね…」



小林「ん?」



森田「い、一回しか言いませんからね?」










急にもじもじし始めたひかる。





一瞬よくないことかと焦ったけど、
なんか顔赤くない?










森田「だ、大好きな、か、彼女の…由依さんに、
こうやってお祝いしてもらえるの、すごく幸せです」










か、かわいい…



私のこと大好きとか彼女って言って
そんなに照れてるの?





顔を真っ赤にしてもじもじして、
やっぱり私が歳上なんだなって実感する。










小林「私も大好きな彼女のひかるが喜んでくれて
すごく嬉しいよ」



森田「…へへ」



小林「かわいい」



森田「うぉっ」



小林「好きだよ、ひかる」



森田「…私は由依さんのこと愛してます」










いつものひかるからは想像できない
ストレートな愛の言葉に驚く。





でも言われると嬉しくて、
ひかるを思いっきり抱き締める。





そして私も普段そこまで口にしない言葉を
ちゃんと伝える。





改めて向き合ってひかるを見つめると、
いつもの優しい笑顔を見せてくれる。










小林「でも急にどうしたの?」



森田「…由依さんが小池さんに、
私のこと相談してるらしいって
保乃ちゃんに聞いたので」



小林「あぁ…」










最近、みいちゃんに相談していた。





ひかるが恥ずかしがり屋で
好きって言ってくれないってこと。





連絡はこまめに取るし、
ひかるから好きアピールしてくれるけど
言葉にはしてくれなくて。





それに重ねて二人の時間を作れなくて
不安になってた部分があって。





みいちゃんにその不安をぶつけていたんだけど、
最近大丈夫だよって言われた。





何が大丈夫なのかわからなかったけど
間接的にひかるも知ってるよってことだったのかな。










森田「誕生日だし、二十歳になるし、
大人ならしっかり言葉にしなくちゃなと思いまして」



小林「そっか、すごく嬉しい」



森田「…やっぱり恥ずかしいです」










両手で顔を覆ってしまったひかるを
今度は優しく抱き締める。





不安になっていた私が馬鹿みたい。





ひかるはちゃんと私のことを好きだと思ってくれてる。





ひかるにはまだまだそのまま、子供でいてほしいけど。










小林「お誕生日おめでと、ひかる」




























Fin