森田side










森田「まりな…肩貸して」



松田「いいけど、珍しいね」



森田「うん」



松田「私でいいの?小林さんのところ行かないの?」



森田「…由依さんには迷惑かけたくない」



松田「そっか、わかった」










朝から体が思うように動かないことは
さすがに自覚していた。





頑張って来たもののやっぱりしんどくて、
休憩中だけでも体を休めたくてまりなに声をかけた。










松田「あ、ひかる、ちょっと熱いね。
もしかしたら熱あるかな?」



森田「あるかもしれんけど、今は抜けられん…」



松田「でもさ、今無理しても
結局しんどいのはひかるじゃない?」



森田「お願い、まりな…言わんとって」



松田「んー、わかった。
ひかるがそれでいいなら言わない」



森田「ん、ありがと」










まりなのこういうところが好き。





心配させて申し訳ないけど、
強制しないで受け入れてくれるまりなに甘えておく。





少しでも油断すれば呼吸が苦しくなるから
ゆっくりと深呼吸を続ける。










小林「ひかる」



森田「…」



松田「あ、えっと、ひかる寝てるみたいですね」










まりなの肩に体を預けて数分、
今は私のことに気付いてほしくなかった人の声がした。





まりなはさっきの私の気持ちを聞いとるけん、
なんとか説得しようとしてくれてるみたい。










小林「ひかる、寝たふりなのバレてるからね」



森田「…すみません」



小林「ちょっと確認したいことがあるんだけどいい?」



森田「…はい」



松田「あの、小林さん。
それ、今じゃなきゃダメですか?」



小林「できれば。なんで?」



松田「ひかる、昨日ゲームのしすぎで
ちょっと寝不足気味らしくて。
少しでも寝かせてあげられたらなーって」



森田「まりな、大丈夫、行ってくる」



松田「…本当に?」



森田「ん、ごめんね、ありがとう」










まりなに嘘をつかせてしまった。





こうなると申し訳なさすぎる…
あとでもう一回謝ろう。





とりあえず向かう先の決まっていそうな足取りの
由依さんを必死で追いかける。





あー、歩くのもしんどい、
今すぐにでもしゃがみこみたい。











小林「ひかる」



森田「はい…おおっ」



小林「やっぱり」










突然立ち止まったと思えば、
次の瞬間私は包むように抱き締められていた。





相変わらず細いなぁ、なんてことを
考えられるくらいには頭は働いていた。










森田「やっぱり、とは?」



小林「熱あるんじゃない?」



森田「ないと思いたいですね」



小林「無理しないでよ、今日は帰ろう?」



森田「…嫌です」



小林「ちゃんと送ってくから」



森田「みんなに遅れをとりたくないので」



小林「1日休んだくらいで置いていかれるほど
踊れなくないでしょ」



森田「私は由依さんみたいに
すぐ覚えられないんですよ、知ってますよね」



小林「じゃあ、私が教えてあげるよ」










教えてあげるって言うけど、
私が帰るなら送ってくれるんでしょ?





だったら由依さんもスタートラインは私と同じじゃん。





それなのにできるんだとしたら、
嫌でも私は自分の実力のなさを実感することになる。





だからレッスンで覚えなくちゃいけない。





不服を込めた目で帰りたくないと伝えても
由依さんの中には私を帰らせる以外の
選択肢は無さそうだった。










森田「…はい、私の負けです、帰ります」



小林「勝ち負けじゃないけどね、
私に勝とうとするなんて無謀だね」










そんなにどや顔することですか。





本当に負けたみたいやん、なんか悔しい。





そうと決まれば由依さんの動きは早かった。





レッスン室に戻るとてきぱきと
二人分の荷物をまとめて、
菅井さんに声をかけていた。










小林「タクシー呼んだから」



森田「歩けますって」



小林「ダメ、熱ある人を歩かせられない」










相変わらずだなぁ。





由依さんは私のことになるとものすごく過保護になる。





その優しさが自分に向けられていることが嬉しくて、
熱も相まってふわふわと浮かれる。





タクシーを待つ間、自分の家に帰ると言ったけど、
頑なに認めてくれない。





結局由依さんが運転手さんに伝えたのは
私の家の住所ではなく、
由依さんの家に連れていかれた。










小林「適当にスウェットでいい?」



森田「はい…」



小林「ちょっと待ってね…
んー、いつものこれでいいか、はい」










由依さんの少し大きめの服を着る。





着替えるのも手伝ってもらって…
自分の体の怠さを実感する。





誘導されるがままに、
のそのそと由依さんのベッドに潜り込んだ。










小林「ちゃんと寝るんだよ?」



森田「はい…」



小林「飲み物はここに置いておくし、
冷蔵庫のものは食べていいから」



森田「ありがとうございます…」



小林「私レッスン戻るからさ」










え、戻っちゃうの…?





由依さんの家にいるのに由依さんがいないなんて、
そんな寂しい状況に今の私は耐えられない。





わかってる、さっきの言葉にきっと嘘はなくて、
本当に私にダンスを教えようとしてくれてる。





だから由依さんは戻ろうとしてる。





でも、今はそばにいてほしい。










森田「……行かないで」



小林「ふふ、最初からそう言いなよ」










優しく目を細めて微笑む由依さんを
求めるように手を伸ばす。





片手で私の手を掴まえ、もう一方は頭を撫でてくれる。










森田「ゆいさん」



小林「ん?」



森田「好きです」



小林「うん、私も好き」



森田「…めんどくさいって嫌いにならないですか?」



小林「ならないよ、ひかるだから。
もちろん辛いときは言ってくれると助かるけど」



森田「すみません…」



小林「もう謝らないの、
結果的にはちゃんとレッスン休んだでしょ?」



森田「でも…」



小林「あのまま続けなかっただけ、
前より成長したってことで」



森田「…ありがとうございます」



小林「それでよし、ほら、辛いでしょ?
ここにいるから寝ちゃいな?」



森田「うん…」



小林「おやすみ、ひかる」










おやすみなさい由依さん、
と返す前に私は眠りについた。


























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