小林side
理佐「体調悪いので保健室行きまーす」
土田「おい、渡邉!」
もう見慣れた光景。
授業が始まると同時に席を立ち、一言残していなくなる。
渡邉理佐、このクラスの問題児。
人当たり自体は悪くないから、友達もそれなりにいるみたいだし、『ちょっと悪い感じが素敵』だなんて声を聞いたこともある。
土田「小林、悪いけど渡邉呼んできてくれないか?」
小林「えっ?」
土田「頼むよ、学級委員のお前くらい見本になるやつだったら、あいつも言うこと聞くかもしれないし」
小林「先生が言ってダメなら無駄かと…」
土田「大人より同い年の方が話しやすいだろ?そういうことだから、よろしく!」
小林「でも授業…」
土田「ちゃんと出席にするし、わからないところあったらとことん教えてやる。だから、な?」
小林「…はぁ」
土田「あいつ、いつも保健室行くって言ってるけど、屋上だから。よろしくな」
小林「…はい、行ってきます」
面倒なことを押し付けられたな。
授業があるとはいえ、これは教師の仕事なんじゃないのかな…
土田先生に言いくるめられた感じする…
彼女の行き先が、保健室ではなく屋上だっていうのは知っている。
授業後に戻ってきたとき、いつもスカートの裾が少し白くなっているから。
重たいドアを開けると、フェンス近くで外を眺めてる人がいる。
私が連れ帰らなくちゃいけない人。
小林「渡邉さん」
理佐「…学級委員の登場か」
小林「私だって来たくて来てるわけじゃない。授業抜けなきゃいけないし…」
理佐「じゃあ来なきゃいいじゃん。私は授業出るのダルいから抜けてきただけ」
小林「あのね……はぁ、面倒だから早く教室戻って?」
理佐「面倒?会いたかったんじゃないの?」
小林「…そんなわけない」
理佐「ふーん」
ニヤニヤしながらフェンスに寄っ掛かった姿を見て、また溜め息が出てくる。
なんとか連れ戻そうと、離れた距離を縮めて目の前に立つ。
それでも動揺すら見せず、むしろ嬉しそうにニコニコしている。
理佐「面倒だったら、嫌だって断ればよかったんじゃん?」
小林「断ろうとしたけど押しきられた」
理佐「ふーん」
小林「…何が言いたいの?」
理佐「本当に来なくたって、授業出たいなら『話しかけたら逃げられました』とでも言えばよかったのに」
小林「それは…」
理佐「んー?」
またニヤニヤしてる。
まるで、自分が負けることないってわかってるかのような自信の持ち方。
小林「…先生に嘘つきたくないから」
理佐「はぁーあ、結局大人に気に入られる方選ぶってことか」
『つまんないな』
Continue to next time.