2024年2月18日(日)

母は、愚痴、不平・不満を言わない。

旅行に行きたい。
美味しいものを食べたい。

なんて事も言わない。

生きたいとも言わない。

そんな母に、何か願いはあるのか?と
聞くと、意外なことに1つだけあると言う。

兄の事だ。

ワタシが18才(高校3年生)の時、
兄は3才上で、21才だった。

ある日突然、東京に行くと言い残し、
家を出た。

それ以来、
兄とは、音信不通でもう30年以上会ってない。

ワタシが就職した時も。
結婚した時も。
出産した時も。

父が亡くなった時でさえも。

探偵にでも頼めば良かったのだけれど、
兄に会うことは、ダンナから禁止されていた。

 もう何年も、
 連絡先が分からないような人には会うな。
 たとえ、兄妹でも。

そういった事もあり、探すのを躊躇していた。

そんな矢先に、東京都水道局という所から、母宛に手紙が届いた。

どうやら、兄が3年前の1ヶ月だけ水道代(基本料金のみだった)が未払いだった模様。

手紙には、こう書いてあった。
"相続人を探しています"



(ん?相続人?そういうのって、親宛に
請求が来るのでは?)

翌日、市役所で母の戸籍をとり、その内容を見て倒れそうになった。

 令和3年5月死亡 

届出人は、◯◯病院(医院長の名前)
検索すると、東京都の居住区とは別の区。

精神病院だった。         

◯◯(兄)が亡くなったら、どこか連絡くらいくるでしょ。

ワタシ達家族は、本気でそう思っていた。

その知らせが来ないという事は、
何とか頑張って生きてるものだと思っていた。

戸籍を取り、初めて兄の死を知る事となった。

30年以上も会っていなかったけれど、
なぜか、心のどこかで支えになっていた。

元々、兄妹仲は良かったと思う。
兄の食べている物を欲しがったりすると、
「僕はいいから、◯◯(ワタシ)にあげて」と我慢するような兄だった。

家族を失うって、父の時もそうだったけど、
何か絶対的な味方がいなくなるようで悲しい。

ダンナに相談すると、すぐに相続放棄するように言われた。
ワタシも、そして母も。

母には隠し通したかったけど、
財産放棄の手続き等の事もあり、伝えるしかなかった。

 (兄の将来を心配するより、亡くなった事を伝えた方が、心残りも無くなるんじゃないか)
とも考えた。

その頃は、ALSの確定診断を受ける1週間前。
不安な渦中に、更に追い討ちをかけるよう。

それでも母に伝えるしかなかった。
母から嗚咽が漏れた。


それ以降、兄の話はしなくなった。

忘れた方がいいんだ。
自分にもそう言い聞かせた。

それから、しばらくたって・・
ふと聞いてみた。

何か願いはあるのか?その答えが

"兄の遺骨を引き取りたい" 

そうだよね。
忘れる事なんて出来ないよね。

でも、大きな問題がたちはだかった。

                   つづく