31年目のHappy Birthday ~第3章 愛の別れ道 (6) | I am say'S'

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       6.ヒースとロッテ優勝


カズエからの返信はなかった。
1日が3日に
3日が1週間に
そして気がつけばあの日の幹事会からすでに2週間以上が経過していた。

僕は以前より馴染みのバーに寄る機会が増えた。
その場所は銀座6丁目、この近辺では珍しい小学校の近く、帝国ホテルからも
すぐの場所、通りから向かい側の小さな路地に入り地下2階にある、
Bar HEATH(ヒース) というお店。

「シゲルさん、その後カズエさんとはどうなの?」
マスターが焦点の定まらない僕の視線に気づいたのか声をかけてきた。
ヒースには一度だけカズエを連れてきたことがある。

・・・
「私、色のついているお酒、ダメなんです。
 ウィスキーとかバーボン、赤ワインも。」
なんでもカズエは学生時代これらのお酒でえらい目にあったみたいだ。
でもカズエに限らず僕たちの学生時代なんてアルコール混合たっぷりの
安いお酒しか飲めなかったから同じような思いをしていた人もたくさんいただろう。
「じゃあマスターにカクテルでも作ってもらおうか。」
「かしこまりました。」
マスターは生のグレープフルーツをゴードンのジンに加えてカズエに差し出した。
「美味しいね。これなら大丈夫よ。」
「おそれいります。」
あの日カズエは5杯もおかわりしていたっけ。
・・・

「うん、実はね、今気持ちをどう伝えようかどうか迷っているんだ。
 お互いの立場もあるし。」
僕はカズエとしばらく音信が途絶えていることはマスターには言えなかった。
「うまくいくいかないは別にしてちゃんと話したほうがいいんじゃないかなあ。
 でないといつまでも先に進めないよ。」
それから会話は進まない。
僕は2杯目のスコッチを注文した。
今日の2杯目はスプリングバンクの12年にした。
このお酒の名前の由来は泉のほうであって、春を意味しているわけではないけれど、
カズエとのはじまりの5月を連想するのはなぜだろう。 

ちょうどそのとき客が入ってきた。
「ロッテが優勝したんですよ。」
二人づれの人たちはとってもうれしそうだ。
「よかったですね」 マスターが答える。
「それはそうだよ。なんてったって31年ぶりなんだから。」
そうだった。あの年はロッテが優勝したんだっけ。
その言葉に僕は震えがきた。
今日はその日なんだと。
「マスターごめん、
 ちょっとメールしてくる」


 Date 2005/ 9/25 22:12
 To KAZUE
 subject:ロッテ優勝

 こんばんは。
 ロッテ、優勝しましたね。
 31年ぶり、僕がカズエさんにHappy Birthdayを告げられなかったあの年以来。
 ちょうど僕たちが眠りから覚めたかのように。
 運命の扉は開いたのでしょうか?
                    Shigeru



 Date 2005/ 9/25 22:37
 To Sさん
 subject:RE:ロッテ優勝

 私はこれまでSさんを高校の一先輩として接してきたつもりですし、
 これからもそうしていくつもりです。
 あれこれ運命に関連付けて
 私を困らせるようなメールはしないでいただけませんか?
 おやすみなさい。
                    カズエ



カズエはその日から僕を名前で呼ぶのをやめた。

                     (第3章 完)

            ※この小説はフィクションです。


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