31年目のHappy Birthday ~第3章 愛の別れ道 (4) | I am say'S'

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      4.同窓会の夜


会議とそのあとの飲み会では視線を合わせることができなかった。
カズエは先輩たちと歓談している。
僕はひとりでビールを飲んでいた。

「おい、シゲルちゃん、なんだか元気ないねえ。」
先輩のTさんがが僕に話しかけてきた。
「ちょっと、仕事が中途半端で気になって・・・。」

 ・・・
 中途半端、確かにそれは事実。 でも仕事ではない。
 こんなことではいけないと思いつつも、時々手がつかなくなって
 ため息とともに手が止まってしまう。
 そしてまた携帯に目が行く・・・。
 「こんなことじゃあメールしなければいけなかったなあ・・・」

・・・
「仕事しすぎだよ、まあ飲め、飲め」
カズエに気遣って暗い表情の僕にはうれしい一言だった。
そして、お開き。

僕たちの同窓会幹事会はある会議室を借りて会議を行い、そのあとで
持ち込んだお酒とおつまみで軽い親睦会をする。
その片付けは僕たち、若手の仕事だ。

僕がもくもくとビールビンやおつまみの袋を片付けていると、となりにカズエがいた。
『このあと若手だけで二次会近くの焼鳥屋さんでやることになったけどどう?』
僕はカズエに視線を向けた。
いつもと変わらないカズエだった。
『もちろん大丈夫だよ。』
そのとき初めて気がついた。
カズエは僕の誕生日プレゼントの時計を手にしていたのだ。

二次会は4人がけが2つとカウンターだけの小さな小料理屋。
10人が詰めかけたので貸切に近い。
カズエは4人がけのテーブルで僕の左側に座った。
そのときの会話は何一つ覚えていない。
でもある瞬間、カズエは僕の左膝の上に右手をおいた。
僕は彼女の手に僕の左手を重ねた。
カズエは手のひらを返して僕の左手にからめてきた。
まわりには同窓会の先輩がいてカズエはその会話に夢中に応えている。
視線と会話は違う方向。でも僕たちの手と手は触れ合ったまま。
テーブルの下だから誰一人気がつかない。

『シゲルちゃん、今日は口数少なくない?』
先輩の一言で我に帰った。
『まあいいや、飲め飲め。ほら注ぐよ。』
僕の指先からカズエの指が離れた。

11時を回っていた。
『私、シゲルさんにタクシーで送ってもらうわ。じゃあね。』
カズエは代々木駅前で僕の腕をとってそのまま大通りへ。
他の先輩たちはポカンとしていた。
でもタクシー乗り込むなり、カズエは方面告げたら寝てしまった。
暗がりからはかすかな寝息が聞こえるだけ。
僕はその後、運転手に細かな道順を指示し、そして約30分、カズエの家の前に着いた。
『着いたよ。』
カズエは飛び起きるように目を覚まし、すぐにタクシーを降りた。
『気をつけて帰ってね。じゃあ。』
カズエは僕が送りに降りようとするしぐさをする間もなく足早に家のドアをあけ部屋に入っていってしまった。
「本当に寝ていたの?」
僕は狐につままれたような気がした。

『お客さん、次はどちらへ?』
ここで降りる、ともいえずに僕は行先を告げていた。
自分の意思に反して。
何があったのか、どんな変化が起きたのか・・・。
わからない。 
わからない・・・。





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