5.1 音響試験および結果

1) それぞれの尺八について空気の当たりを最適に調整し、発生した音をマイク(SONY F-99s)で集音。これをデジタルテープレコーダ(TEAC RD-180T)に記録して、FFTアナライザ(B&K Type 2034)とテクニカルコンピュータ(TEAC PS-90222F)によりスペクトル分析を行った。

2) その結果、材質の異なる各尺八でのスペクトル分布(倍音構造)は一致しなかった。

3) 歌口部の微小な機械加工精度やノズルと歌口の位置関係、顎当たり量の微妙な位置関係などが音色のスペクトル分布に影響しているのではないかと考え、アルトリコーダ(ゼンオン Alto 1000B)の上部を各種材料のパイプにはめ込んで音を出し、スペクトル分析を行った。

4) その結果、どの材質でも同様なスペクトル分布が得られた。

5) 管の肉厚が違う場合もスペクトル分布に差異は見られなかった。


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尺八の音色に影響しそうなパラメータは非常に多い。今回はその中でも管の材料(素材)に的を絞り、その影響を解明するために実験的研究を行った。しかし、被供試尺八の製作段階において、管材以外のパラメータを一致させることが如何に難しいことか、


(中略)


ということは、逆に、歌口形状を含む音源の違いによる音色への影響が、管材のそれと比較して相当大きい事が証明されたと考えられる。


素人尺八愛好者は、素材の竹(しかも高価な竹に)に拘る前に、まず自分の吐息と歌口で構成される音源作りが鳴りを良くする大きな要素であるということを深く認識することが必要且つ重要である。安易に管材のせいにするのは考え物だと感じた。


一方、尺八の音色は音の立ち上がりや立ち下がり時に味があり、音響・振動学では表すことが難しいこれらの音に関する管材の影響や人間の感覚における物理量を試験するのは大変むずかしいことである。


【感想】

材料だけを変化させた丸棒にリコーダの歌口を取り付け、出音をスペクトル解析した研究。

文献1でもありましたが、出音のスペクトル分布をとると、演奏者の違い(文献1)や空気ジェットの吹き付け位置の違い(文献5)のほうが圧倒的に大きな差となって現されるようです。

吹き方の優劣が音色の優劣に大きく影響しているということは、「上手な人は、どんな楽器を吹いても同じ音がする」という、よく感じる経験を思い起こさせてくれます。

吹き方の違いで出音のスペクトル分布がこのように大きく異なるのであれば、楽器の微妙な加工精度の違い(寸法や形の違い)のほうが、楽器の材料による違いよりも遥かに大きいのではないかと考えさせられますね。

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