大仁田厚は水面下でアントニオ猪木との電流爆破マッチを実現するために奔走したが、結局この対決は実現しなかった。
猪木は「大仁田嫌い」と言われているが、猪木は大仁田のことを認めていた。
実際に猪木と大仁田は交渉のテーブルについたことがあるから、全く嫌いで受け付けないという嫌い方ではない。
大仁田は勝ち負けよりも「どちらのインパクトが強かったか」というプロレス的勝負を挑むレスラーだ。
猪木でさえ、大仁田に全て持って行かれる危険性があると懸念するほど、大仁田の毒性は強い。
猪木との対戦が実現不可能になると、大仁田の次の標的は長州力だった。
狙うは長州の首。
大仁田には「もう長州は引退したから試合はできない」という断り方は通用しない。
大仁田は新日本プロレスの永島勝司企画部長と水面下で粘り強く交渉を重ね、ついにOKをもらった。
しかし、大仁田の前に立ちはだかったのは長州ではなく佐々木健介だった。
1999年1.4東京ドームに禁断の招かざる客・大仁田厚が登場。
佐々木健介VS大仁田厚のシングルマッチ・時間無制限1本勝負。
大仁田がパイプイスを持ちながら花道をゆっくり歩いて来る。山本小鉄レフェリーが「イスを置け」と命じるが大仁田は聞かない。
イスを置かないならリングに入れるわけにはいかなとばかり、小鉄がロープ際で大仁田と口論している。
健介が小鉄をどかしたが、大仁田が健介の頭部をイスで殴打し、リングイン。
大仁田が健介の脳天をイスで一撃! しかしイスのほうが壊れた。
健介は怖い顔で壊れたイスを放り投げると、大仁田にラリアット!
ここでゴングが鳴った。健介は大仁田を花道に引きずり込み、邪道革ジャンを脱がし、邪道Tシャツも脱がそうとする。
Tシャツが裂ける。健介が強烈な逆水平チョップ! 大仁田が革ジャンで殴るが、健介が張り手、張り手!
健介が大仁田をリングに投げ入れ、ボディにニー! 大仁田が場外にエスケープ。
リング上。健介がぶん殴る! ぶん殴る! ぶん殴る!
再び花道。健介が「来いこらあ!」と怒鳴る。大仁田がパンチを打つが健介は両手で大仁田を押して打って来いポーズ。
大仁田が張り手! 健介も張り手、張り手、逆水平! 大仁田のベルトをつかんでぶん回す!
健介が大仁田をリングに投げ入れ、逆水平チョップ! 一発で大仁田が場外に転落。
健介がリングを下りて場外乱闘。大仁田がイスで殴打!
本部席の上で大仁田が健介にパイルドライバー! 本部席が真っ二つに折れた。
大仁田が折れた本部席で健介を殴打したが、怒った健介がイスで殴打、殴打、殴打!
小鉄が健介を止める。リング上。
健介がロープに飛んでラリアット! 大仁田が一回転してダウンし、立てない。血を吐いている。
5分経過。
健介がロープに飛んでラリアット! 大仁田をコーナーに追い込み、健介が脳天に手刀!
コーナーで尻もちをつく大仁田を健介がぶん殴る、ぶん殴る! しかし大仁田が何かをつかんでいる。
健介が構わずぶん殴る! 次の瞬間、オレンジ色の光が見えた。火炎殺法だ!
健介が顔を押さえてダウン。小鉄がゴングを鳴らした。大仁田の反則負けだ。
どよめきとブーイング。大仁田がリングを下りて邪道革ジャンを着ると、口に水を含み、カメラマンに噴射!
大仁田がマイクを持った。
「おい、おい! おいおいおい、新日本プロレスファンよ、新日本プロレスさんよう、おい、よーく聞け! おまえらの器量を疑うぞこらあ!」
ブーイングを浴びるが、大仁田への声援もある。
「おい、おい、これが、俺の、生き方じゃ!」
花道を悠々と去っていく大仁田だが、健介が激走して追いかけ、殴る蹴るの暴行。
ガチギレだと危険なのでセコンド陣が慌てて止めた。
小鉄が大仁田にビンタ!
大仁田が花道を歩いて行くが、両側から物が投げ込まれる。
やはり大仁田のインパクトは絶大だった。
この試合を見ていた猪木が、大仁田のインパクトを超えないといけないと焦りを感じたと一部では伝えられている。
格闘技路線を行きたい猪木にとって、その方向性と真逆の存在が大仁田だった。
大仁田のインパクトを消す方法を模索した時、禁断のセメントという選択肢が浮かんだのだろうか。