1994年5月1日、福岡ドームで行われたイノキ・ファイナルカウントダウン①

 

アントニオ猪木VSグレート・ムタ。

 

猪木が花道を歩いて入場して来るが、大事な入場シーンを邪魔しようというのか、ムタが目の前に立ちはだかる。

 

黒と赤のペイント。睨むわけではなく、ただ猪木を至近距離から見ながら一歩ずつ後ろへ下がる。

 

猪木は眼光鋭く睨みながら、拳を握り、一歩ずつ進む。

 

ムタは何をするかわからない。猪木が花道でガウンを脱ぎ、臨戦態勢になった。

 

ムタがトップロープとセカンドロープを開けて待つ。猪木は警戒しながら素早くリングイン。

 

田中リングアナが「昭和の鬼か、平成の悪魔か」と叫ぶ。

 

マサ斎藤が「プロレスになるか、ストリートファイトになるか」とギリギリの発言。

 

ゴングが鳴り、ムタが赤い毒霧を噴くと、まだ何もしないまま場外へエスケープ。

 

ムタは天井から下がっているハシゴを確認したり、リング下を覗いて凶器を探したりする。

 

猪木をいらつかせる。

 

リング上。グラウンドの攻防を挑むムタがバックを取り、アームロック、腕十字固め、リストロック、アンクルホールド、片逆エビ固め。

 

ムタは再びリングを下りてハシゴに乗りブランコ。何をしているのか?

 

「上がれ!」猪木が怒った。「上げろよこのヤロー!」

 

猪木を攪乱するムタを斎藤は「天才」と感嘆する。「相手はアントニオ猪木ですよ」

 

アメリカで多くのヒールを見てきた斎藤も、猪木がキレたらこれほど危険なヒールはいないと語る。

 

猪木がアリキック! その直後にムタが毒霧! 言ってるそばから怖いもの知らず。猪木の顔面がグリーンに染まった。

 

これは目潰しにもなっている。

 

ムタが花道でブレーンバスター! 花道を激走して後頭部にラリアット! 猪木が花道でダウン。

 

ムタが猪木をリングに投げ入れ、バックドロップ! すぐに猪木を場外に放り投げ、本部席でパイルドライバー!

 

猪木をキレさせようとしているのか? 猪木の頭部を鉄柱に叩きつけ、額にバイク! また鉄柱!

 

リング上。猪木の顔面が真っ赤だ。これは毒霧ではなく流血だ。ムタが割れた額にキック連打!

 

ムタがスリーパーホールド。顔を緑と赤で染めた猪木が苦悶の表情。猪木コールが起こる。

 

ムタがローリングソバット! 猪木が場外にエスケープするとムタもリングを下りる。

 

場外乱闘。ムタが猪木を鉄柱やフェンスに叩きつけ、放送席のコードで首を絞めようとしたところを猪木が延髄斬り!

 

しかしムタが缶コーヒーを拾い、猪木の額に一撃!

 

リング上。ムタが缶コーヒーで襲いかかるが猪木があびせ蹴り! 

 

猪木が缶コーヒーを奪ってムタに一撃!

 

猪木が怒りの鉄拳! 鉄拳! 鉄拳! 猪木がムタを場外に放り投げる。

 

またもや場外乱闘。ムタが猪木を観客席に叩きつけ、ハシゴのロープで首絞め!

 

リング上。ムタがローキック、エルボーからブレーンバスターを狙ったが、背後に回った猪木が魔性のスリーパー!

 

ムタ落ちたか。ダウンしている。猪木が襲いかかろうとした時、ムタが寝ながらグリーンの毒霧!

 

顔面を緑色に染めて尻餅をつく猪木に、ムタが至近距離からもう一度顔面に毒霧!

 

ムタが勝負に出たか。シュミット式バックブリーカー! コーナーポスト最上段からムーンサルトプレス!

 

決まってしまった。しかし猪木がカウントツウで返す。

 

ムタがすぐにシュミット式バックブリーカーからムーンサルトプレス! 猪木がカウントツウで返した。

 

ムタがバックを取ってジャーマンスープレックスホールド! カウントツウ。

 

大歓声と大拍手。

 

ムタがフルネルソン。猪木が粘るが、ドラゴンスープレックスホールド! カウントツウ。

 

「嘘だろ」という表情のムタ。嵐のような猪木コールが巻き起こる。

 

ムタがスペースローリングエルボーを狙ったが、猪木が交わして魔性のスリーパー! そのまま倒してカウントスリーを奪った。

 

猪木激勝!

 

 

ムタが退場すると、猪木がマイクを持つ。

 

「テメーこのヤロー! ムタ! どんな手でも受けてやるかかって来い! 俺の命を取ってみい! あああ!?」

 

これは後日の話ではなく今すぐここでやってやるという意味だ。

 

ムタコールが起こる。しかしムタは来ない。

 

「命懸けで勝負します。誰でもかかって来い。その代わりテメーも、覚悟で来い。ムタ、こんな勝負じゃなくておめえのなあ。トドメの勝負の厳しさを本当に教えてやらあ」

 

 

20分の激闘。凄まじい試合だった。

 

ムタにしかできない戦い方だった。

 

猪木はよけずにムタの大技を全部受け切った。