1974年10月10日、蔵前国技館でNWF世界ヘビー級選手権試合。時間無制限1本勝負が行われた。

 

王者・アントニオ猪木と挑戦者・大木金太郎の調印式は、殺し合いをしてしまうのではないかと心配するほど殺気に満ちたものだった。

 

あの緊迫感。あの殺伐とした空気は出そうと思って出せるものではない。

 

猪木のデビュー戦の相手は大木金太郎で、大木が得意の頭突きで勝っている。この両雄はまさに日本プロレス時代からの因縁の対決だ。

 

 

レフェリーは豊登。サブレフェリーはミスター高橋。猪木はガウンを脱いで早くも臨戦態勢。大木はガウンを着たままレフェリーのボディチェックを受ける。

 

この時、猪木がいきなり大木の顎に右ストレート!

 

場内騒然。大木はダウンしたがすぐに立ち上がり、コーナーで顔を押さえている。坂口征二が、感情剥き出しでエキサイトする猪木をコーナーに押しやる。

 

波乱含みの試合。ゴングが鳴ると、猪木が怒りの形相で拳を握る。豊登がグーは反則と猪木を注意するが、大木もジャブを見せる。

 

大木がフロントヘッドロック。猪木はすぐに切り返し、両者離れて睨み合い。

 

ブレーンバスターを狙う大木だが、猪木が腰を落として粘る。猪木が離れ際に張り手! 猪木がコブラツイストを狙うがロープブレイク。

 

組み合う。大木が押す。ロープ際。頭突きを狙う大木だが、豊登とミスター高橋が両者を分ける。

 

大木金太郎のヘッドバットは凶器攻撃と同じだ。日本プロレス出身の人間はその破壊力を知っている。

 

猪木がヘッドロック。大木が脚を取って倒し、足4の字固めを狙うが猪木がすぐにキック!

 

今度は猪木がコブラツイストを狙うが、大木が防御する。脚を外そうとする大木。猪木が離れた。

 

再びロープ際。大木が頭突きを狙うが豊登が必死に分ける。

 

猪木が大木を素早く投げて上になり、得意のフェイスロック。肘で顔をしごくように決める独特のフェイスロックだ。

 

大木は頭突きのチャンスを狙っているが、猪木が警戒して隙を与えない。猪木が顔面にエルボー、ボディに膝蹴り!

 

大木がフロントヘッドロックから強引にブレーンバスター! カバーの体勢に入るが猪木がカウントワンで返す。

 

猪木がお返しとばかりダブルアームスープレックス! 大木もカウントワンで返す。意地と意地のぶつかり合い。

 

もう一度猪木がダブルアームスープレックスを狙うが、大木がリバーススープレックスで返した。

 

ダメージはないとばかりに猪木がすぐにフロントヘッドロック。大木がアームロックで切り返す。ロープブレイク。

 

ロープ際。大木が猪木のボディにヘッドバット! 効いている。猪木が苦悶の表情。コーナーを背にする猪木のボディに大木がヘッドバット!

 

捕まえた。大木が猪木の頭部にヘッドバット! ついに炸裂した。二発目のヘッドバット! 三発目で猪木がダウン。

 

なおも頭突き連打を狙う大木を豊登が押して離れさせる。ダウンしている相手を攻撃してはいけないルールだが、これはボクシングではなくプロレスだ。

 

やはり人一倍大木金太郎の頭突きの破壊力を知っているから、こういうレフェリングになってしまうのだろうか。

 

大木が行く。四発目のヘッドバット! 猪木ダウン。リング上に物が投げ込まれる。異様な空気が流れる。

 

やはりBブラジルと大木金太郎のヘッドバットの危険度は別物なのか。

 

猪木が大木のボディにキックを放つが、構わず五発目のヘッドバット! 食らえば猪木は卒倒するようにダウンしてしまう。場内騒然。

 

大木が六発目のヘッドバット! 猪木が片膝をつく。七発目のヘッドバット! 猪木はダウンして場外に転落。

 

リング中央で大木が勝ち誇るように両手を上げる。

 

猪木がリングに上がると、大木が八発目、九発目と連打! しかし猪木が自分の頭を指差し「来いこのヤロー!」

 

大木が心を鬼にして十発目、十一発目のヘッドバット! 猪木の目が血走る。額が割れて流血しているが、両拳を上げて「来いこのヤロー!」

 

十二発目のヘッドバットで猪木ダウン。さらに十三発目のヘッドバット! 猪木がダウン。大木がカバーの体勢。猪木がカウントツウで返した。

 

大木の表情。心を痛めているようにも見える。普通は一発でフォールできる技だ。それをこんなに食らったら命に関わる。

 

しかしプロレスは闘い。大木がついに一本足打法! 決まった。

 

大木がトドメの頭突きに行くところを猪木が顎に怒りの鉄拳! 大木がダウン。猪木がボディスラム!

 

猪木がバックを取ってバックドロップ! 決まった。カバーの体勢。ワン、ツウ、スリー!

 

大木は返そうとしたがスリーカウントが入っていた。猪木が6度目の防衛だ。

 

座布団が舞う蔵前国技館。ファンも興奮がおさまらない。

 

猪木と大木が握手して抱き合う。大木金太郎が泣いている。猪木も泣いている。やはり二人にしかわからない絆があるのか。

 

壮絶な死闘は、感動的なラストシーンで幕を閉じた。