今、藤田和之が注目されている。「やはり藤田和之は強かった」と。50歳になってもパワーと怖さは衰えていなかった。

 

総合格闘技でも大活躍した藤田和之は、あのヒョードルを最も苦しめたファイターと言われている。

 

氷の拳と呼ばれ恐れられたエメリヤーエンコ・ヒョードル。

 

ベースの格闘技は柔道で、コマンドサンボをやっていたヒョードルは、関節技の鬼。そのヒョードルがボクシングを猛特訓し、打撃も鬼になり、無敵となった。

 

PRIDEに参戦したヒョードルは、セーム・シュルト、ヒース・ヒーリング、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラなど強豪に勝ち、4連勝。

 

次は、プロレスラーの藤田和之がヒョードルと対戦することになった。

 

2003年6月8日、横浜アリーナ。PRIDE26のメイン。藤田和之VSエメリヤーエンコ・ヒョードル。

 

藤田は183センチ、116キロ。ヒョードルは182センチ、107キロ。

 

盟友ケンドー・カシンが藤田のセコンドにつく。リング下にはミルコ・クロコップがいる。

 

ゴング。最初は互いに様子を見ながら攻めのタイミングを計るが、ヒョードルが来る。鋭い左右のパンチ。ヒョードルが藤田の脚を取るが防いだ。速い展開だ。

 

藤田がローキック。これは空を切る。ヒョードルがゆっくり拳を回す。これは、不気味なポーズだ。ぐるぐる、ぐるぐるとゆっくり両腕を回して迫り、いきなり左ストレート!

 

交わしたが藤田が押し倒された。ヒョードルが上から顔面にパンチ! 何とか防御して立とうとする藤田だがヒョードルがフロントキック!

 

一瞬も油断できない。藤田が脚を取るがヒョードルは倒れない。ヒョードルがパンチを連打して来る。離れ際に藤田が左フックを放つが当たらない。

 

藤田がロープを背にしている。ヒョードルが猛然と襲いかかり、パンチを打って来る。藤田危ないか。

 

ヒョードルが右ストレート・・・をガードした藤田が右フック! 入った。側頭部に当たった。ヒョードルがよろける。効いている。大歓声。

 

ふらつくヒョードルがクリンチのような体勢で藤田を抱え込むが、藤田が強引にヒョードルを倒し、上になった。大喝采が巻き起こる。

 

藤田が攻める。ギロチンチョーク。ヒョードルが目じりのあたりから出血している。嵐のような大藤田コール!

 

ヒョードルが腕を取って起き上がろうとする。藤田はアマレス技で高々とヒョードルを持ち上げてマットに腰から叩き落とそうとするが、ヒョードルが足で着地。

 

離れてしまった。向かい合う両雄。藤田がパンチを打つ。ヒョードルは藤田のボディに強烈なミドルキック! 入ってしまった。

 

ぐらつく藤田の顔面にガン! ガン! と左右のワンツーパンチ! 藤田苦しい。背後に回ったヒョードルがチョークスリーパー!

 

そのまま後ろに倒れて胴締めスリーパー! 藤田たまらずタップアウト!

 

1R4分17秒。裸絞めでヒョードルの勝利。

 

解説の高田延彦は「強い。強いわ。三宅さん鳥肌立ちましたよ今。鳥肌立ちました」

 

PRIDEのリングでは、ヒョードルが一方的に攻める試合が多かっただけに、ここまでヒョードルを追い込んだのは藤田和之が初めてだった。

 

無念にも敗れたが、この時も「藤田和之はやっぱり強かった」と多くのファンが感じた。

 

アントニオ猪木もリングに上がり、藤田に何か声をかけている。ヒョードルは藤田と抱擁し、健闘を称えた。

 

 

ヒョードルは藤田戦のあと、ゲーリー・グッドリッジ、永田裕志、マーク・コールマン、ケビン・ランデルマン、小川直也を破り、10連勝。

 

リングスの戦績を入れると、ヒョードルは2001年から2009年まで8年間無敗だった。

 

こんなモンスターを藤田和之は、あわや勝つかというところまで追い込んだのだ。本人は無念だと思うが、藤田和之の実力を賛嘆したい。

 

今振り返っても素晴らしい試合だった。

 

世界最強の男を一発で出血させ、ダウン寸前に追い込んだ藤田の最恐フック。プロレスのリングでも、藤田和之のフック気味の張り手の破壊力は凄まじい。

 

拳王戦でも見せたが、今後も藤田和之の凶器の張り手が炸裂するだろう。