ハルク・ホーガンも大好きなプロレスラーだった。あの躍動感が素晴らしい。

 

黒装束に身を包み、颯爽と入場して来る。背中には白抜きの「一番」の文字。

 

リングインすると人差指を突き上げて「イーチバーン!」

 

 

新日本プロレスに初登場した時はヒールで、超人ハルクと呼ばれていた。

 

ホーガンはアンドレ・ザ・ジャイアントを軽々とボディスラムで投げてしまう。

 

アンドレをボディスラムで投げたレスラーは意外に多いが、数ではホーガンが一番だろう。何回も投げている。

 

ホーガンは怪力レスラーとしてファイトしていたが、アントニオ猪木と試合をしたり、タッグを組んで、日本式のレスリングテクニックを学んだ。

 

インクレディブル(信じられない)というニックネームがつくほどのパワーファイターがテクニックを習得した。まさに鬼に金棒だ。

 

 

ハルク・ホーガンはムービースターでもある。天皇賞・秋の銀メダリストのムービースターではない。ハルク・ホーガンは映画スターだ。

 

特に印象に残っているのが「ロッキー3」で、サンダー・リップスというヒールレスラーを熱演した。

 

チャリティーのイベントで、ロッキーは当然ショーだと思って、軽くジャブを放ち「こんなもんか?」と話しかけながら試合をしていた。

 

ところが、サンダー・リップスはいきなりロッキーの背中に拳を叩きつける。本気の打撃技にロッキーは焦る。

 

サンダー・リップスは暴走し、ロッキーを叩きのめし、ダウンしたロッキーの喉もとに必殺技レッグドロップまでお見舞いする。

 

これはショーではないと悟ったロッキーは、グローブを外し、素手で戦った。ヘビー級ボクサーの素手のパンチは2メートルを超える巨漢プロレスラーにもダメージを負わせた。

 

最後はロッキーがサンダー・リップスをボディスラムで場外に放り投げた。

 

このシーンはプロレス的要素を多分に含んでいるので興味深い。

 

最初はショーのつもりでファイトしていたが、相手が真剣勝負を挑んで来た場合、すぐに察知して真剣勝負に移行する。実際のプロレスの試合でも、こういうことがある。

 

 

そして、何といってもハルク・ホーガンといえば、IWGP決勝戦だ。

 

80年代当時のプロレス界は、NWA、AWA、WWWFの世界3大タイトルのほかに、多くのベルトが乱立していた。

 

IWGPは、アントニオ猪木の悲願で、世界最強の統一ベルトという意義が込められていた。

 

83年に開催された第1回のIWGP決勝リーグ戦は、当然アントニオ猪木が優勝すると思っていた。

 

決勝の相手は、蘇ったネプチューン・ハルク・ホーガンだ。

 

来日当初のホーガンとは実力が違う。斧爆弾、三つ又の槍と称された必殺のアックスボンバーがあり、テクニックもある。

 

ハルク・ホーガンは想像以上に強く、猪木は大苦戦。

 

そして、両雄が場外に転落した時、ハルク・ホーガンは背後から猪木の後頭部にアックスボンバー!

 

猪木はそのまま鉄柱に前頭部をぶつけ、ダウンしてしまった。

 

ホーガンが先にリングに上がる。猪木が不用意にエプロンに上がったところを、ホーガンがもう一度アックスボンバー!

 

猪木は場外に転落。アックスボンバーを炸裂した時のミスター高橋の顔が「何やってんだよ?」という表情に見えた。

 

悲痛な猪木コールが響き渡る。当然のごとく、不屈の闘魂で再びリングに戻り、大逆転勝利があると思ったが、猪木はリングに戻るどころか、失神KOだ。

 

ハルク・ホーガンが優勝。場内は騒然となった。

 

 

忘れもしない、翌84年の第2回IWGP王座決定リーグ戦のアントニオ猪木VSハルク・ホーガンの一戦。

 

私はこの日、蔵前国技館で観戦した。

 

猪木ファンは今度こそという思いで試合を観ていた。しかし、またしても場外乱闘でハルク・ホーガンのアックスボンバーを食らい、猪木が鉄柱に激突してダウン。

 

昨年の悪夢が蘇る。この直後、ホーガンは何を思ったか、リングサイドにいた長州力めがけてアントニオ猪木を振った。

 

長州力は何と猪木にリキラリアット!

 

この瞬間、四方八方から長州に物が投げ込まれた。ホーガンは長州にアックスボンバーを炸裂させるがリキラリアットと相打ちになり、ホーガンもダウン。

 

罵声と怒号が飛び交う。ファンは大激怒。怒り心頭だ。

 

もっと良くないことに、新日本プロレスのセコンド陣が、半失神の猪木をリングに上げて、猪木のリングアウト勝ち。

 

この結果にファンの怒りは完全に爆発し、暴動が起きた。

 

皆殺意の目が血走っている。私は身の危険を感じて逃げた。

 

もはや「猪木神話崩壊」どころではない。「プロレスが死んだ日」とまで言われ、失望が広がったのだ。

 

乱入で試合をぶち壊しにする。こんなものを観に高い金を払って来ているわけではない。

 

当時の新日本は過激なプロレスを売りにしていたから、新日本プロレスファンも過激なのだ。ふざけた試合は絶対に許さなかった。

 

 

暴動で有名なのは、アントニオ猪木VSマサ斎藤の試合で、謎の海賊男が乱入し、試合をぶち壊してしまった時だ。

 

この時もファンが大激怒し、大暴動となった。

 

 

たけし軍団とマサ斎藤がベイダーを連れて来た時も、強引なカード変更で大ブーイングが起こった。

 

その日はベイダーの宣戦布告だけで、後日、アントニオ猪木VSベイダーのシングルマッチにすれば暴動には発展しなかったかもしれない。

 

アントニオ猪木と長州力の戦いでも十分ファンは熱狂できたと思うが、余計な演出をして大失敗し、ファンの怒りを買った。

 

暴動は良くないが、それだけ真剣にプロレスを観ていたともいえる。

 

試合で盛り上がるのが一番理想的だ。おかしな要素を入れる必要はない。

 

プロレスに自信があるなら、プロレスの試合だけで勝負するべきだ。