思えば私が活字プロレスに最初に目覚めたのは、アブドーラ・ザ・ブッチャー著『プロレスを10倍楽しく見る方法』を読んだ時だった。

 

ブッチャーの文才に驚きながら、とにかく面白い内容に惹き込まれた。ブラックジョークにも優れていて、濃密なストーリーだった。

 

希代のヒールであるブッチャーが、リング上でジャイアント馬場とどういう口論をしているのか。タッグマッチの時に、パートナーとどんな会話をしているのか。

 

テレビ中継ではわからない裏話が満載だ。

 

タイトルに偽りはなく、本当にプロレスが10倍楽しくなった。活字プロレスの真骨頂とは、ある意味、試合よりも面白い言葉のプロレスを展開することかもしれない。

 

 

ただの試合リポートでは面白くない。動画を観たほうが早い。

 

活字プロレスの怪人・ターザン山本さんは、駆け出し記者の頃、先輩に言われた。

 

「プールのような透明なものを底無し沼のように書くんだ」

 

この言葉はターザン山本さんの記事で読んだのだが、なるほどと唸った。これぞ活字プロレスの秘訣だと感銘した。

 

 

ブルーザー・ブロディ夫人のバーバラさんが著わされた『ブルーザー・ブロディ 私の、知的反逆児』では、ブロディの生きた言葉が読める。

 

ブロディはレスラーになる前は正真正銘のライターだから、言葉のプロでもある。

 

プロレスの八百長論に対しても見事な切り返し技を炸裂させている。

 

「プロレスは八百長かと聞かれたら、プロレスは八百長じゃないと答えるのが正しい」

 

何とも微妙な言い回しだが、もちろんこれだけではない。

 

ブロディは、リック・フレアーとの試合の裏話を証言している。

 

フレアーの代理人がブロディのもとへ来て、試合中にフレアーのマネージャーが乱入してノーコンテスト(没収試合)というシナリオでどうですかと。

 

ブロディは「それでいい」と承諾した。ところが、いざ本番の試合でマネージャーが乱入すると、ブロディはそのマネージャに殴る蹴るの暴行を加え場外に放り投げて大歓声を浴びた。

 

話が違うと驚くフレアーだが、ブロディがまた裏切りやがったと悟る。

 

そこはフレアーも超一流の実力者。ブロディとフレアーはそのあと真剣勝負で白熱したファイトを繰り広げ、観客をオーバーヒートさせた。

 

プロレスが始めから全て勝敗が決まっている八百長ではないことを物語るエピソードで、ファンとして嬉しく思った。

 

私も「もしかして全部決まっているのか?」と疑ったことはある。なぜならプロレスラーやレフェリーが著作で、打ち合わせがあったことを証言しているのだ。

 

だからこそ、ブロディのエピソードはプロレスを愛する者として心強い。

 

ブロディは打ち合わせがあることも認めたうえで、ブロディのように裏切るレスラーもいるのだから「八百長じゃないと答えるのが正しい」と言い切れたのだ。

 

 

スタン・ハンセン著『魂のラリアット』も最高に面白かった。

 

ブルーザー・ブロディは紳士か乱暴者か。どちらの顔が正しいかというのは、ブロディファンのテーマでもあったが、盟友のハンセンは乱暴者のほうに一票を投じてしまっているのが笑える。

 

リング上は乱暴者でリングを下りたら紳士というのは、ミステリアスな雰囲気を醸し出すが、プロレスはビジネスなので、ブロディはキャラ設定の天才だったといえる。

 

酒場の用心棒をしていた頃のブロディの話も、ハンセンは暴露しているが、ブロディが店内を歩いているだけで荒くれ男たちが静かにした。ブロディはそれほど怖かった。

 

 

私はほかにも、アントニオ猪木と長州力の本は何冊も読んだ。ハルク・ホーガン、高山善廣、大仁田厚の本も読んだが、本人の主張を聞くとなるほど納得できる。

 

インタビューと違い、本一冊分のメッセージだから、かなり心に響く。

 

高山選手は私と同世代だから、少年時代に同じ光景を観ていたと思う。昭和の黄金期は、強力な外国人レスラーが日本人レスラーと闘って盛り上がった。

 

しかし近年、その外敵がいなくなったので、高山選手は自分が新日本プロレスの外敵になって、日本のマット界を盛り上げようと考えた。

 

素晴らしい姿勢だと感動した。

 

 

活字は強い力を持つ。言葉は人の心を変える力を持っている。

 

活字プロレスを展開するならば、やはり言葉の力を磨く必要がある。

 

面白くなければプロレスではない。