春休みのある日
たまたま
ふと
何となく
gumtreeという
全英無料サイトで
ピアノを見ていた。




そこにたまたま
古いグランドピアノが
安いお値段で売られていた。
それもこの街に。





状態は見たら分かるから
弦やハンマーがダメだったら
断ったらいいし
一度見てみようかなと連絡した。





リリィという女性が
私に連絡をくれた。
その女性、応対が早く
2日後に会う約束を取り付けた。
優しいメッセージの間から
律儀と生真面目さが滲み出る。
お年寄りかしら、
なんとなく思ってみた。



送ってくれたサイトを見ると
店というか倉庫だった。
個人じゃないんだ。
そっか。
じゃー変な物は売らないよね、
という可能性は増した。



やりとりの中で
細やかで優しい文面に
ポッと心が暖かくなるのと同時に
騙されるかもしれない
しっかり断る強い心を
持つように!
と過去に痛い目に遭って来た
自分に厳しく言い聞かせる。






2日後の朝早くも
リリィからメッセージが来た。
「天気も良いから外に出て本を読みながら
待ってるわ。」と書いてくれていた。




子供は置いて行った。
彼らも連れて来たいが
ピアノに対する五感が鈍る。
目耳鼻、研ぎ澄ましておかないと
ミスる。





相変わらず慣れないこの街。
iPhoneのマップを見ながら
倉庫に到着。




雑然とした静かな倉庫群の中に
テーブルと椅子を出し
そこだけ別空間のような佇まいで
小説を読んでいた若い女性がいた。


「サワ?」


リリィだった。
きっと小説読んでいながらも
私のことが気になって
本の中身に集中できなかったはず。
そういう素振りを
全く見せずに
今私に気付いたようなそに仕草がまた
たまらなかった。



「ごめんなさい
消毒液してもらっていい?」
と申し訳なさそうに
でも凛とした強さも目の奥に見えた。


いよいよピアノが待っている
部屋に入っていく。








(悲愴第二楽章冒頭部分)



つづく