嘘をついた夜には 眠れずに怖かった
どんな喧嘩をしても 次の日は忘れていた
いつか人を疑い 生きる寂しさを知ることも
気が付かずに全てを 信じていた頃
(椎名恵『遠い記憶』より抜粋)
BGM
これは俺たちの物語だ!
さるるの蒔いた種が
まるで奇術のような鮮やかさで
そびえる疑団の巨樹になって育っていく。
【N谷が上級生たちに狙われている】
いよいよ真実味が増してくると
世間はN谷から露骨に距離を置くようになった。
かといって救いの手を差し出すわけでもない。
傍観者、それより積極的な観覧者として
N谷の没落を楽しみにしている。
N谷
「さるる、ちょっとええか。」
ひとり事情を知らぬN谷だったが
世間が自分に対して
よそよそしくなっているのは肌で感じていたのだろう。
さるるはN谷に呼び出された。
まさか
さるるが噂を流しているとバレた?
いや
それはあるまい
仮にそうだとしても
噂なんてものは空気のようなもので
確たる証拠は存在しないし
さるるが最初に流した噂は人の手に渡るうちに
脚色され続け、もはや
さるるオリジナルの噂ではない。
N谷
「みんなが冷たいんじゃ。」
さるる
「ぶっ!(笑)」
思わず吹き出してしまった。
もっと、こう、言い方があると思ったからだ。
あまりに素直な物言いだったので
思わず吹き出してしまった。
N谷
「笑うなや!」
「まあまあキツいど、【はみご】にされたら。」
【はみご】とは
【はみ出した子】の略称といわれ
関西が発祥、そこから西日本に広く伝播したらしい。
現在は日本全国でも通用する言葉だ。
さるる
「いじめられとんか?(笑)」
さるるは白々し答えた。
この状況を作り上げた張本人だ。
噂の成果を確かめるために
N谷から詳しく状況を聞いてみたいと思った。
悪質な部類の人間ではあったが
そもそも陰謀家とはそういうものだ。
N谷
「それがわかれば苦労せん。」
「だから聞いとんやないか。」
「こんなん、さるるぐらいしか言えんからな。」
さるるを信頼しているらしい。
なんとおっ広げな性格であろうか。
目の前のさるるが諸悪の根源だというのに
N谷はさるるを頼ってきた。
さるる
「N谷はN谷やんけ。」
「いつも通りでええんちゃうか。」
さるるは罪な人間だ。
つまり、現状を続行させようとした。
N谷をさらに陥れようとしている。
N谷
「さるるの言うとおりやの。」
「俺は俺や、別になんも悪いことしとらんし。」
さるる
「・・・・。」
さすがに少し、胸が痛んだ。
N谷は底抜けに人を疑うことを知らぬ。
これが悪党ならどんな目に遭っても知ったことではない
むしろ愉快なぐらいではあるが
N谷とはさるるが思っているほど
悪い人間ではないかもしれない。
だとしたらさるるは
ただ人を騙しただけの男になってしまう。
確かにさるるは陰謀家である。
しかしそれは
さるるの安全保障上
やむを得ない場合の陰謀であって
面白半分に人を騙す、陥れる陰謀ではなかった。
人の心を弄ぶようなマネはしたくない。
N谷
「まぁなんかわかったら教えてくれや。」
さるる
「ほんまナンも知らんのか。」
N谷の態度が気に食わなかった。
図々しく、さるるをいきなり呼び捨てにして
仲間を増やして上級生とも上手く関係を構築していった。
あれよあれよとスターダムに駆け上がった。
さるるにとって気に食わない、おもしろくない存在だった。
そのはずだったのだが・・・・。
N谷
「なんか知っとるんか。」
さるる
「・・・・。」
あまりに健気で
頼られてしまったために
罪悪感が生まれた。
しかし、どうすればいいのか。
いまさら犯人はさるるだと告白するか?
もちろん、そんなことはできない。
N谷
「まあ言いたぁなかったら言わんでええ。」
「教えたろって気になったら頼むわ。」
ややこしい感情になった。
人を疑う能力が欠落しているのか。
これではまるで
さるるがペテン師じゃないか。
さるる
「待て、俺の知っていることを話す。」
当然、すべては話さない。
ただこのまま何も言わないことに
良心の呵責があった。
さるる
「つまり、こういうことや。」
N谷が上級生に
叛乱の疑いあり、と噂が流れている。
だから世間が巻き込まれまいと
N谷から離れているのだ。
N谷
「・・・・なんやそれ!」
「そんなもん根も葉もない噂じゃ!」
知ってる
その噂を流したのはさるるだからな
しかしここまで
うまくいくとは思わなかった。
さるる
「どうする?」
N谷
「噂を流したヤツを許さん!」
勇ましいことだ。
しかし事ここに至っては、もはや遅い。
そもそもさるるが
尻尾を掴まれるようなヘマはしない。
しかし同時に
N谷をなんとかしてやりたいとも思っている。
それは善良な心からではない
さるるが罪悪感から解放されたい一心である。
どこまでも利己的な考えだ。
さるる
「犯人探しはともかく」
「仲のええ先輩からみんなに話してもらえば?」
皮肉なことだ。
さるるが流した噂を今度はさるるが
必死になって消そうとしている。
N谷
「そうやのぅ。」
「トシヒコ先輩なら・・・・。」
「先輩らの誤解を解いてくれるはずや。」
さるる
「トシヒコ先輩?」
N谷
「よう世話になっとる先輩や。」
「さるる、おまえのこともちゃんと言うたる。」
さるる
「何を言うんねん。(謎)」
N谷
「前に言うたやろ。」
「俺がええカタチで手打ちにしたる。」
鋼鉄のドンキホーテ (463)【花神 ~花を咲かせる男~ 】
「誰とでも揉め事を起こすの、もっと考えんとあかんぞ。」
ふん
誰に講釈を垂れているんだ?
不良なんざ揉め事を起こしてナンボだろう。
そんなことを言うなら
最初っから不良なんてやらなければいい。
さるる
「いや、別に揉めてないど。」
「勝手にアッチが仕掛けてくるだけやし。」
鋼鉄のドンキホーテ(447)【盛者必衰 ~高校デビューの落日~】
鋼鉄のドンキホーテ(449)【You are special to me.】
さるる
「俺の心配より自分の心配せんかい。(笑)」
世間から疎外されていること
上級生たちから狙われていること
さるるだったらもっと過敏に反応するはずだが
なんでもっと狼狽(うろた)えないのだ?
陰謀する側にとっては
その光景も含めて復讐だというのに。
N谷
「まあどないかなるやろ。」
「帰るぞ、さるる!」
さるる
「お、おう・・・・。」
この男、ひょっとして
時代に名を残す傑物ではないか
ふと脳裏によぎった。
(つづく)




