「あたしのプリン食べたでしょ?」


彼女がにらむ。


「ふぶてぬい。」


僕は口を開けずに「食べてない。」と言ってみた。


しかし、その試みは失敗に終わった。


「どうして口を開けないの?」


「ふぶてぬいなる。」


僕は再び口を開けずに「食べてないから。」と言ってみた。


うまくいかない。


「口を開けて見せて。」


彼女が僕に近寄る。


彼女が僕の唇をつかむ。


彼女が僕の唇を上下にひっぱる。


・・・


ドーン。

口の中からぐちゃぐちゃになったプリン(元プリン)が現れる。


「ほら、食べてるじゃない。」


「ふいまへん。」


すいません、と言ったつもりだが、プリンが邪魔でしゃべれない。


「どうしてくれるの?」


たかがプリンで彼女はひどくご立腹だ。


今年で30。プリンごときでそんなに怒らないでくださいよ。


僕はしゃべれないので、マジックと紙を持ってきた。


さらさらと言いたいことを書く。


(今から口移しでこのプリンを君にあげるよ。心配ない。形はくずれてるけど、れっきとしたプリンだよ。)


ふーん。彼女はうなずく。


「分かったわ。じゃああたしが口を開けるから、あなたは口移しであたしの口にそのプリンを入れてちょうだい。」


(りょうかい)


あーん。


彼女が口を開ける。


僕も口を開ける。


さあ、プリンを口移し・・・


パーーーン!!


彼女のビンタが僕の頬を打った。


プリンが口から飛び散る。


床がプリンでべとべとになる。


「新しいプリン買ってきてね。」


「・・・はい。」


「あと、床も掃除しといてね。」



彼女は自分の部屋に戻っていった。


ヤモリはアスファルトの上でじいっとこちらを見ていた。

「お前、そんなとこにいると人に踏まれるよ。」

僕はヤモリをアスファルトからひっぺがそうと試みた。

そいつの腹をもち、垂直にひきあげる。

しかしヤモリは両足を地面にぴったりとへばりつけ、なんとか僕に持ち上げられまいと踏ん張った。

「馬鹿だな、お前にイタズラしようってわけじゃあないんだ。こんなところにいると人に踏まれるからさ。そう踏ん張るなって。」

僕は再びヤモリを引っ張った。

イヤダイヤダと首を振る。なかなか頑固な奴である。

「しょうがねえな。踏まれたらお前の責任だからな。死んじまうんだぞ。」

僕はあきらめてコンビニへ向かう。

「いらっしゃいませ。」

コンビニでアルバイト情報誌と缶コーヒーを手にとった。

(そういえば、ヤモリって何を食うんだろう。)

僕はさきほどのヤモリがなんとなく腹を減らしているような気がした。

ビーフジャーキー食うかな。


僕はヤモリがいた場所までゆっくりと戻った。

ビーフジャーキー食うのかな。

ヤモリを笑わせたかった。

頑固なヤモリを。


戻ってくると、ヤモリはぺしゃんこだった。

「おい、お前、大丈夫か?」

誰かに踏まれたのだろう。

ヤモリは息をしていなかった。

「だから言っただろ、踏まれてもしらねえぞって・・・」

―――ごめん、俺の責任だ。

ビーフジャーキーの入った袋をポトリと落とした。

僕はヤモリの腹をつかみ、先ほどと同じように垂直にひきあげる。

もうヤモリは踏ん張らなかった。

簡単に持ち上がる。

「お前、最初からそうしてろよ。」


ヤモリをそっと埋めた。