「ただ、たわいもない話がしたかった…!!!」現代人のコミュニケーションに潜む疎外 | †† あらかじめ失われた愛 ††

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お久しぶりです。またちょっとブログを書いてみたくなったので、ご用とお急ぎでない方は、ご覧頂ければ幸い。
コメントなどいただいた日には、もっけの幸いです。

「ホホウ( ゜∋゜)と思ったセリフ集」…えーと、その一八ですね。
このシリーズでは4ヶ月半位上ぶりですか。

※ネタバレ、というほどではありませんが、本作の中心的テーマと思われる台詞の引用や、それに対する私なりの(勝手な)解釈がなされます。先入観を持たずに本作を鑑賞されたいと思われた方は、お読みになるのをお控えください。


ではでは。


その夜の侍


日本公開:2012年
脚本、原作:
赤堀雅秋
製作:藤村恵子
製作総指揮:小西啓介、重村博文、杉田浩光、西田圭吾、中村昌志
出演者:堺雅人、山田孝之、綾野剛、谷村美月、高橋努
音楽:窪田ミナ
主題歌:UA「星影の小径」
撮影:月永雄太
編集:高橋幸一
制作会社:テレビマンユニオン
配給:ファントム・フィルム

公開:2012年11月17日
言語:日本語


あらすじ…ななぜか、どのサイトもあまりまとまっていません(あえて?)
ここでは、アマゾンのブルーレイ版「内容紹介」から引用させて頂きます。


<STORY>小さな鉄工所を営む中村健一(堺雅人)は五年前のひき逃げ事件で最愛の妻を亡くして以来、深い喪失感と共に虚無的な日々を過ごしている

その頃、刑期を終え出所したばかりのひき逃げ犯木島宏(山田孝之)の元には、"復讐決行日"までをカウントダウンする匿名の脅迫状が届くようになる。

二人の男と、取り巻く周囲の者たちそれぞれが抱える孤独、葛藤、願い。

そして妻の五回目の命日の夜、二人は遂に対峙する。二人の魂がぶつかり合うなか、中村が木島へと向けた刃は意外なものだった。中村の想いとは・・・。



序盤は、観ているのがキツイくらい陰惨な印象でした。亡くなった奥さんが忘れられず、奥さんの服や下着をクンカクンカしている、まさに魂の抜けたとしか言いようがない堺雅
さんの演技…。

見かねた義理の兄(死んだ中村さんの奥さんのお兄さん)が、再婚話を持ってきます。それでも、最初は心を開かない彼。

一方、山田孝之演じる木島は、本当に鬼畜! ひき逃げだけでは飽きたらず、出所早々やりたい放題。

そうこうしているうちに、木島に届く「お前を殺して、俺も死ぬ」の復讐状の日が迫ります。

そんななか、先の再婚話で出てきた女性がと義兄が、何とか中村を止めよう、その復讐の怨念に凍り付いた心を溶かそうと、最後に歩み寄ろうとします。

昼下がりの公園。

「お弁当、作ってきたの」

と女性。

「キャッチボール、しませんか?」

と中村。

女性とキャッチボールする中村の顔は、やはり晴れているとは言えません。

すかさず義兄が、弁当もあるし、ピクニックに行こうか、と近くに停めてある車へ向かいます。とにかく中村が事件を起こしたら、もうお終いだからです。

ところがここで、つい和んでいたいた女性が、
「あ、いけない、車のキー、私持ってた…」と。

ここで、タイムアウトです。
中村は布に包まれた、凶器らしきものを出し、女性と距離を取り初めます。

女性が言います。

「なぜ…? 私はもっと、あなたとたわいもない話がしたかった…。なんでもない話が…。」

感極まる女性。

そう、「たわいもない話」とは、中村が亡くした妻と留守電でやり取りしていたような、「プリンばかり食べちゃだめだからねぇ~」というような会話なのです。


もうここで、

…(´;ω;`)ブワア!!!

です。


たわいもないことが言い合える関係、なんと幸福なあり方ではないでしょうか。そんな関係、たとえ職場の仲間であろうと、幼馴染であろうと、成人して仕事を持っていたら、そうそう取れませんよね。

さて物語はもう少し続きます。

ついに女性に背を向け、疾走する中村。
何処へ? 木島の元へ。今日が、その日なのです。

ラスト、土砂降りの中、対峙する堺雅人と山田孝之。

堺の口を突いて出たのは、思わぬ、衝撃的な言葉でした。

それは、妻の魂を慰めたいがための、懇願の言葉でしょうか…?
あくまでの人の心の奥底に善なるものを見出したいがための、清き魂の慟哭でしょうか…?



けして軽い作品ではありません。
しかし、現代の人と人のつながり、寂しさ、だからこそのつながりの尊さを高らかに謳いあげた作品だと、私は感じ入ったのです。


そして、たわいもないことが言い合える伴侶やパートナー、友人、家族を、本当に大事にしなければと、深く、深く思い知った次第。