ひとりじゃ、できないから…! ポストゼロ年代のメロドラマ | †† あらかじめ失われた愛 ††

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「ホホウ( ゜∋゜)と思ったセリフ集」、その一〇です。


ば か も の


日本公開:2010年
監督:金子修介
原作:絲山秋子『ばかもの』(新潮社刊)
出演:
成宮寛貴、内田有紀、白石美帆、中村ゆり、浅見れいな、岡本奈月、浅田美代子、小林隆、池内博之、古手川祐子
内容:芥川賞作家・絲山秋子の同名小説を「DEATH NOTE デスノート」シリーズの金子修介監督成宮寛貴内田有紀主演で映画化したラブロマンス。強気な年上の女性に冷たく捨てられたダメ青年が、どん底人生を歩んだ末に彼女との再会を果たすが…。(キネマ旬報社」データベースより


群馬県に住む大学生、大須秀成、通称ヒデ(成宮寛貴)が、ちょっとしたことで年上の女性、額子(内田有紀)に出会います。
エキセントリックな彼女とのセックスに溺れるヒデ。

え、あの内田有紀さんにあんなことをさせたり、こんなことを言わせるの…? (´,,・ω・,,`)
というシーンが、彼女のファン世代には驚愕です。

ところが、本編開始わずか30分足らずで、ヒデは額子に手ひどい捨てられ方をします。

その後、堕ちに堕ちてゆくヒデを、成宮さんが好演。

内田有紀さんは主演のはずなのに、再登場するのは別れのシーンから何と1時間後。
映画内では実に10年の時が流れており、もう終盤です。

群馬県の片品、不幸な事故で変わり果てた姿で(左腕を失い、髪の毛がグレーになっています)、訪ねてくるヒデを迎える額子の表情……!

…(´;ω;`)ブワッ
人生の哀しみや理不尽、時の流れの重さ、それでも他者と繋がりたい想いを、内田有紀さんが一言も発せずに表現しているように思えました。

額子はヒデを親族が残してくれた家に招き入れ、夕食を振るまって二人はくつろぎます。

額子が言います。


頼みがあるんだ…。
ひとりじゃ、できないんだ。


羞恥や深愛、懇願…さまざまな想いのまじった表情で続けます。


右手を…右手を、
洗ってほしい。
ガシガシ、洗ってほしい。
ひとりじゃ、できないから…!



…(´;ω;`)ブワッ
その後の浴場での二人のシーンの、何と切なく愛おしいことでしょうか。
人と人が切り結ぶ情愛の関係は、はたからみると時に滑稽かもしれません。でも、だからこそ愛おしい。

堕ちに堕ちたヒデ、ためにためての額子の再登場で、強くそう感じ入りました。

アマゾンの商品紹介には「ラブロマンス」とありましたが、ひょっとして金子修介監督は「メロドラマ」として本作を撮ったのかなあ、と思いました。

どこにでもありそうな、ダメダメな人生、べったベタな物語を描き、しかし観客を感動させる。
僕には、映画の力を思い知らされる一作でした。

全編、端正で静謐なシーン、印象的なセリフが続き、ラストも大好きです。
本稿ではあえて触れないでおきます。