リアル異世界RPG〜選ばなかった物語で最強になりたい!

リアル異世界RPG〜選ばなかった物語で最強になりたい!

初めまして、Jです。素人のAI アニメーションのクリエーターです…
日々の出来事、過去の経験をAI アニメーションを通じて、みなさんのこれからの人生に少しでも、共感、生きるヒントになればと、少しずつ頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。

 

 

 

エレベーターの中に、静かなアナウンスが流れた。

「確認しました。19階層へ転移します」

その瞬間――

ゴォォォォ……。

地響きのような音が鳴り響いた。

次の瞬間、僕の身体はものすごいスピードで、底のない空間へ落ちていくような感覚に襲われた。

「うわーーーーっ!」

そして――

ポーン……。

どこか聞き慣れた到着音が響いた。

……エレベーターが止まった。

しばらく、何が起きたのか分からなかった。

どうやら、19階層に到着したらしい。

恐る恐る身体を確認する。

怪我は……ない。

呼吸もできている。

よかった。

また病院送りは、ごめんだ。

ゆっくりと、エレベーターの扉が開いていく。

目の前に広がっていたのは、開放感のある大きなホールだった。

 

そして、その先には――

城のような建物!?

たくさんの人々が行き交い、街は賑わっている。

まるで、どこかの異世界に来てしまったような光景だ。

僕は、しばらくその場に立ち尽くした。

ここが……。

19歳の、選ばなかった僕の物語なのか……!?

そして僕は、ゆっくりと前へ歩き出した。

海外留学。

行き先は……確か、ニュージーランドだったよな。

あの頃、もし海外留学を選んでいたら――。

僕は、どんな人生を歩んでいたんだろう。

「19階層……」

目の前に広がる街を見ながら、僕はつぶやいた。

そして――

「19階層、19歳の冒険の始まりだ!」

……いや、待て。

浮かれている場合じゃない。

とにかくまず、冷静に状況を把握するんだ。

僕はいきなり、19階層へ戻ってきた。

ここから海外留学。

つまり、まずは語学学校を探さなければならない。

もちろん、寝る場所も必要だ。

……ほんとに、一からだ。

19歳の頃に戻ったとはいえ、誰かが準備してくれているわけではない。

学校も。

住む場所も。

これからの生活も。

全部、自分で探さなければならない。

でも、まずは街の中心へ行けば、何とかなるだろう。

僕は、もう一度街を見渡した。

そして、歩き出した。

さあ――

19階層、19歳の冒険を始めよう。




 

僕は、一歩前へ進んだ……。

人類にとっては小さな一歩だが、

僕にとっては――

大きな一歩だ!

……。

……どこかで聞いたような。

いや……

なんか、いろいろ間違っているような……。

そんなことを考えていると、フェアリーが明るい声で話し始めた。

 

「早速ですが、時間もありませんので、始めましょう!」

……時間もない?

なんだか急に現実味が出てきた。

フェアリーは、エレベーターの中を指差した。



「このエレベーターの中にあるボタンパネルが、行き先になります」

「行き先……?」

「はい」

フェアリーは続ける。

「つまり――」

少し間を置いて、

「あなたが戻りたい過去の階層です」

……。

なるほど。

つまり、

49歳の僕が、

過去の年齢へ戻る。

階層と年齢がリンクしている。

19歳なら――

19階層。

「戻りたい階層のボタンを押してください」

フェアリーはそう言った。

そして、もう一つ大事なことを付け加える。

「先ほども説明しましたが、体験中は、いつでも元の時間と場所へ戻ることができます」

「ですから、ご安心ください」

……。

いつでも戻れる。

その言葉を聞いて、少しだけ気持ちが楽になった。

すると――

「あっ!」

フェアリーが何かを思い出したように声を上げた。

「忘れていました!」

「……?」

フェアリーはポケットから、小さな鍵を取り出した。

そして、その鍵を僕に差し出す。

「こちらをお渡しします」

「鍵……?」

僕は鍵を受け取った。

思っていたよりも、ずっしりと重い。

フェアリーは説明を続ける。

「もし、元の場所へ戻りたいと思ったら――」

少しだけ微笑んで、

「『戻りたい!』と言ってください」

「そうすると、扉が現れます」

「その扉を、この鍵で開けてください」

……。

なんだ、それ。

完全にゲームじゃないか。

いや。

異世界もののアニメでも、こんな説明はありそうだ。

でも――

これはゲームでもアニメでもない。

現実……のはずだ。

フェアリーは最後に、軽く頭を下げた。

「以上です」

そして、

「いってらっしゃいませ」

そう言って、僕を見送った。


……本当に。

今、起きていることは現実なのか?

頭では理解している。

でも――

怖い。

正直に言えば、怖い。

何が待っているのか分からない。

どこへ行くのかも分からない。

そして、戻れるとは言われているものの……

本当に戻れるのか?

そんな不安が、頭の中を駆け巡る。

それでも――

行くしかない。

僕はエレベーターの中へ、一歩足を踏み入れた。

すると、僕の心中を察したのだろうか。

フェアリーが笑顔で手を振っている。

「いってらっしゃい」

そんな表情だった。

……。

僕には、とても手を振り返す余裕なんてなかった。

エレベーターの扉が、

ゆっくりと閉まっていく。

フェアリーの姿が、少しずつ見えなくなる。

そして――

完全に扉が閉じた。


静かだ。

エレベーターの中には、僕一人。

言われていたように、目の前のボタンパネルを確認する。

たくさんの階層ボタン。

一つ一つの数字を眺める。

そして――

僕は、思わず声を上げた。

「マジかよ‼」

……。

どうやら、

本当に現実らしい。

このボタンが、

僕の過去へつながっている。

そう思った瞬間、不思議と迷いはなかった。

押す階層は――

もう決まっている。


19階層。

僕の人生で、

唯一と言っていいほど、ずっと心に残っている「選ばなかった物語」。

19歳の頃。

僕には、海外留学へ行くチャンスがあった。

今までとは違う場所。

知らない国。

知らない言葉。

知らない人たち。

自分の知らない世界へ飛び込むチャンスだった。

でも――

僕は、行かなかった。

いや。

行けなかった。

異国へ飛び込む勇気がなかった。

怖かった。

失敗するのが怖かった。

一人になるのが怖かった。

だから――

諦めた。

あのときは、それでいいと思っていた。

仕方がない。

自分には無理だった。

そう思っていた。

でも……

あれから49歳になった今でも、

時々、思う。

「あのとき、行っていたら……」

人生には、戻れない瞬間がある。

一度選ばなかった道は、

そのまま消えてしまう。

……少なくとも、

今まではそう思っていた。


あの出来事以来。

僕は、大事な選択肢を目の前にすると――

いつも迷うようになった。

やってみたい。

でも、怖い。

行ってみたい。

でも、失敗したらどうしよう。

変わりたい。

でも、今のままのほうが楽だ。

そんなことを考えているうちに、

気がつけば――

「やらない」という選択をしている。

まるで、

あの19歳のときと同じように。

僕はずっと、

「勇気」という武器を振るうことができないまま、人生を進んできたのかもしれない。

でも――

今なら。

今の僕なら、

できるかもしれない。

49歳まで生きてきた。

失敗もした。

後悔もした。

恥ずかしい思いもした。

それでも、ここまで生きてきた。

だったら――

一度くらい、

あの頃の自分に戻ってみてもいいんじゃないか。

そして、

今度こそ――

勇気を出してみてもいいんじゃないか。

僕はボタンパネルを見る。

そこにある、

「19」

のボタン。

指を伸ばす。

あと少し。

あと少しで届く。

胸の奥で、何かが震えている。

怖い。

でも――

行け。

自分に言い聞かせる。

勇気を出せ!!

失ったんじゃない。

勇気を――

取り戻すんだ!!

僕は、19階層のボタンを見つめた。

そして――

ゆっくりと、指を伸ばした。

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彼女は、あらかじめ用意していたのだろう。

一枚の紙をポケットから取り出した。

そして、僕に向かって言った。

「それでは、ルールを説明しますね」

……。

なんだろう。

まるで、これから始まる参加型イベントゲームの説明みたいだ。

こんな非現実的な状況なのに、妙に手慣れている。

彼女は紙を見ながら、淡々と説明を始めた。

 




① あなたの答えは、「はい」か「いいえ」の二択です。

……二択?

まあ、分かりやすい。


② 体験中は、いつでも元の時間と場所へ戻ることができます。

過去に戻る前の、

時間と場所へ。

……なるほど。

体験版だから、やり直し可能ということか。

それなら、少し安心できる。


そして、最後。

③ 選択した物語は、あなた自身が体験した物語になります。

……。

僕は、その言葉に少し引っかかった。

「体験した物語……?」

そう思ったが、彼女は特に説明を加えることなく、次の言葉を続けた。


「最後に、アドバイスとして――」

彼女は紙から顔を上げた。

そして、少しだけ微笑む。

「過去に自分が選択しなかった物語を、ぜひ選んでみてください」

「せっかくですから」

……。

そう言って、彼女は一通りの説明を終えた。

そして、

「それで?」

とでも言いたげな表情で、僕の顔を覗き込んだ。


僕の答えは……

「……はい」

だった。

あまりにも自然だった。

まるで、用意されていた場所に、

すっぽりとはまったような感じ。

……いや。

なんだろう。

言わされた感が、どうしても拭えない。

いくつか、彼女に聞きたいことはある。

そもそも、ここは何なのか。

彼女はいったい何者なのか。

なぜ僕を待っていたのか。

本当に過去へ戻れるのか。

聞きたいことはいくらでもある。

でも――

答えは、

「はい」か「いいえ」の二択。

それしかない。


こんな非現実的な出来事が、

今、僕の目の前で起こっている。

もう一度、頭の中を整理してみよう。

僕は体調を崩した。

そして、この病院に運ばれた。

一週間入院した。

そして退院当日。

エレベーターの前で、彼女に呼び止められた。

そこまではいい。

特に変わったことは起きていない。

……いや。

十分、変わっているか。

でも、僕自身にとっては、

「体調を崩して入院した」

という、ありきたりな出来事の延長線上にある。

もしかすると――

僕自身に、まだ何か後遺症が残っているのかもしれない。

そんな、ありきたりな考えも浮かんだ。

理解が追いつかない。

それでも――

もう後戻りはできない気がした。

いや。

正確には、

僕は、もう「はい」と答えてしまった。


……待て。

ここで、ふと思った。

「はい」か「いいえ」の二択なら――

確率は50/50じゃないのか?

今までの人生。

僕は、

約76%の確率で不正解。

そう思って生きてきた。

選択するたびに、

「こっちじゃなかったかもしれない」

「別の道を選んでいたら……」

そんなことを考えてきた。

でも今回は違う。

二択だ。

50/50。

……だったら。

やってみてもいいんじゃないか?


しかも、体験版だ。

失敗したら戻ればいい。

いつでも、ここに戻ってこられる。

そう考えると、少しだけ気が楽になった。

そして――

もしかしたら。

今まで、

約76%の確率で不正解だったと思い込んでいた選択を、やり直せるかもしれない。

そんな期待が、ほんの少しだけ生まれた。


僕は、もう一度フェアリーの顔を見た。

彼女は、何も言わずに微笑んでいる。

まるで、

「さあ、どうぞ」

とでも言っているように。


僕は、

一歩前へ進んだ。

 

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選ばなかった物語を、選んでみる……か。

正直に言えば――

答えは、決まっている。

「ノー」だ。

……間違いなく、そう思った。

過去に戻って、別の人生を体験する。

そんなことをして、いったい何になる?

今さら、やり直したところで……。


……けど。

ふと、別のことを考えた。

戻りたかったら、いつでも戻れるんだよな。

そう。

彼女は、そう言った。

「体験版だから、戻りたい時にいつでもこの場所へ帰ってこれる」

つまり――

今の人生を捨てるわけじゃない。

ただ、

「もし、あの時に別の選択をしていたら?」

その答えを、自分で確かめることができる。


僕は、これまでの人生を振り返った。

約76%の確率で不正解。

そんなふうに、自分では思っていた。

どちらを選んでも、ほぼ不正解。

選択するたびに、

「こっちじゃなかったかもしれない」

「別の道を選んでいたら……」

そんなことを考えてきた。

でも――

ふと、思った。

そもそも、誰が「不正解の人生」って決めたんだ?

……自分じゃないのか?

勝手に、自分で決めているだけじゃないのか?

人生に、本当に正解なんてあるのか?

人生の基準なんて、あるのか?

人に迷惑をかけない。

親から与えられた人生を生きる。

それも大切だと思う。

でも――

ただ生きるだけじゃなく、楽しくだ!

それでいい。

きっと……。


「……はい」

気がつけば、僕は答えていた。

フェアリーは、一瞬だけ僕を見つめた。

そして――

微笑んだ。

僕に向かって、何度も、何度も頷いている。

まるで、

「それが正解ですよ」

とでも言うように。

その表情を見ていると、

不思議と胸の奥が軽くなった。


「かしこまりました」

彼女は静かに言った。

「私が責任をもって、あなたを案内します」

そう言って、また微笑む。

さっきまでの穏やかな表情とは、少し違っていた。

どこか――

これから始まる何かを知っているような。

そんな顔だった。

そして彼女は、一呼吸置いてから言った。

「それでは――」

少しだけ間を置く。

「ルールを説明しますので、よくお聞きください。」

……。

ルール?

ここから先は、ただの「もしも」の話じゃないらしい。

僕は、黙って彼女の顔を見つめた。

ここから先は、

いよいよ――

「選ばなかった物語」へ。

 

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唐突すぎましたね。ごめんなさい。つまり、人は人生一度きりですよね。これは紛れもない事実です。ただ――生きていく中で何度かは、自分の人生を振り返ったことがあると思います。例えば…… 彼女は一度、天井を見上げ深呼吸をした。これから話すことを、頭の中で整理しているように見えた。一から十まで、慎重に。

 

「人生には大きな分かれ道がいくつもありますよね。進学するのか、働くのか。この人と一緒にいるのか、別の道を選ぶのか。今いる場所に残るのか、それとも思い切って遠くへ行くのか。その時は、目の前にある道を一つ選ぶしかない。でも――選ばなかった道がどんな人生につながっていたのか、私たちは知ることができません。だから、人は時々考えるんです。もし、あの時――選ばなかった物語を選んでいたらって」

 

そして――僕は静かに彼女の話を聞いていた。いや、正確には聞き流していたのかもしれない。彼女の話が終われば、今度こそエレベーターで下に降りて家に帰ろう。 彼女には悪いが、 そんなことを考えながら、僕はエレベーターの「↓」ボタンを見つめていた。 「長々と話してしまいましたね。私があなたに伝えたいことは――」 彼女は、ゆっくりと言葉を選ぶ。 「過去に戻って、自分が選ばなかった物語を体験してみませんか?」 ……。 「もちろん、体験版です。 戻りたい時には、いつでもこの場所に帰ってくることができます。どうですか……?」彼女の唾を飲み込む音が聞こえた。

そして僕の返事は―― 「はい」 「いいえ」の二択…… 彼女の話は聞き流していたはずなのに。最後の言葉だけが、 引っかかったというか――いや、引き込まれてしまったのかもしれない。 予想もしていなかった問いに、僕は質問すら思い浮かばなかった。二択……。僕は決断しなければいけない。 そんな状況に立たされていた。

 

「選ばなかった物語か……」

 

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ずっと引っ掛かっていたんだよな、この言葉。待っていた?僕を?なぜ?……まあ、きっと彼女の言い間違いなんだろう。とにかく、ここから出よう。 色々やることはあるが、もう少し体調を整えなくてはならない。なんせ、また地獄の勤務が僕を待っているだろうし…… 彼女は、僕がもうこの場から離れたがっているのを察したのか、慌てて何か大事なことを伝えようとするような目で、僕を引き止めようとした。「えーっと、色々ありましたね。本当に、よくここまで頑張ったと思います。少しの沈黙。

蛇口から水が一滴、そっと滴り落ちる。それくらいの間。

 そして、一滴の涙が僕の頬をつたった。 その言葉が本意じゃなくてもいい。彼女が僕のことを何一つ知らなくてもいい。それなのに、なんだろう、この解放されたような感覚は。 こんなに何気ない言葉なのに。いや。もしかしたら、僕にとっては――ずっと欲しかった言葉だったのかもしれない。僕は何もなかったかのように、 服の袖で涙を拭った。ありがとうございます。で、何か僕に? 彼女は僕が話を聞く意思を持ったことを確信したのか、一度だけうなずいた。そして、ゆっくりと話し始めた。「選ばなかった物語で、最強になりたいですか?――過去に戻って。」

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)

 

是非YouTubeのアニメもご覧下さい。

 

 

 

退院当日の朝、9時30分。

病室の荷物を整理し、退院手続きを済ませた。

あとは退室時間を待つだけ。

僕は窓際に立ち、しばらく外の景色を眺めていた。

人が右から現れ、左へ消えていく。

人が左から現れ、右へ流れていく。

車が走り、信号が変わる。

いつもと変わらない、街の日常。

それを眺めながら、複雑な気持ちになっていた。

ここを離れられることへの安堵。

そして――

再び、あの暴力的な日常へ戻らなければならないという不安。

病院にいる間は、嫌でも外の世界から切り離されていた。

仕事のことも。

生活のことも。

これからのことも。

一度、全部を忘れることができた。

でも、もう終わりだ。

体力が回復した今だからこそ、

一刻も早く、この場所を離れなければならない。

そう思った。

いや――

思わなければならない。

強制的にでも。


担当医がやって来た。

退院後の薬について説明を受ける。

「ありがとうございました」

お礼を言い、頭を下げる。

そして病室を出た。

向かう先は――エレベーター。

廊下を歩きながら、ふと思った。

恐らく、ここに搬送されたときも、このエレベーターを使ったのだろう。

でも……

まったく記憶がない。

あのときは意識がなかったのだから、当然か。

エレベーターの前に立つ。

そして、下へ向かう「↓」のボタンに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

その瞬間――

「……あの」

背後から声がした。

僕は振り返った。


そこに立っていたのは、

入院した初日に担当してくれた看護師さんだった。

「あ……」

思わず声が漏れた。

女性は、あの日と変わらない穏やかな表情で立っていた。

「退院ですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます。お世話になりました」

僕は軽く頭を下げた。

その優しい口調を聞いた瞬間、入院した初日の記憶が蘇ってきた。

真っ白な部屋。

酸素。

点滴。

そして――

「お待ちしておりました」

あの言葉。

……待っていた?

何を?

誰を?

あのときは、深く考える余裕などなかった。

僕は再び、エレベーターの「↓」ボタンに手を伸ばした。

すると――

看護師さんが、そっと僕の手を遮った。

「……?」

僕は彼女を見る。

看護師さんは何も言わない。

ただ、静かに僕を見つめている。

「どうしました?」

少し間を置いて、彼女が口を開いた。

「……もう、お帰りになるんですか?」

「え?」

「はい……退院なので」

自分でも変な答えだと思った。

すると看護師さんは、少しだけ微笑んだ。

「そうですか……」

「……?」

何かがおかしい。

この人は、いったい何を言おうとしているんだ?

僕は尋ねた。

「何か……僕に用がありますか?」

看護師さんは、すぐには答えなかった。

そして、しばらくしてから――

「ひとつだけ、聞いてもいいですか?」

「……はい」

「あなたは……」

彼女はそこで言葉を止めた。

僕の目を見る。

そして、ゆっくりと続けた。

「本当に、下へ行くつもりですか?」

「…………」

意味が分からない。

下へ?

エレベーターで一階に降りるだけだ。

それ以外に何がある?

「……どういう意味ですか?」

そう尋ねた。

看護師さんは答えない。

ただ、僕の後ろにあるエレベーターを見た。

そして、再び僕を見る。

「……お待ちしておりました」

「……え?」

まただ。

その言葉。

入院した初日にも聞いた。

今も聞いた。

一体、何を待っている?

僕はエレベーターの「↓」ボタンを見る。

そして、看護師さんを見る。

彼女は、ただ静かに立っている。

 

僕の指は――

「↓」のボタンの前で止まったままだった。

……。

この先にあるのは、いつもの日常。

仕事。

生活。

悩み。

不安。

そして、また始まる49歳の現実。

一方で――

僕には、まだ分からない。

この看護師さんが何を知っているのか。

なぜ僕を待っていたのか。

そして――

「下へ行く」ということが、本当に正しい選択なのか。

エレベーターの前で、

僕は初めて――

ボタンを押すことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

是非YouTube版のアニメもご覧ください。

 

 

……と、その時だった。

突然――

暗闇の中で、身体がゆっくりと持ち上げられていくような感覚に襲われた。

タワークレーンで吊り上げられているような、不思議な感覚。

時折、風にあおられるように身体が揺れる。

エレベーターが上昇するときの感覚とは、明らかに違う。

それでも――

何かが僕を、確実に、そして正確に運んでいる。

どこかへ。

どこか知らない場所へ。

 


そして――

第49階層。

真っ暗な闇の中。

次の瞬間、身体全体を押しつぶされそうな、とてつもない重力を感じた。

息が苦しい。

身体が動かない。

何かがいる。

いや……

何か、とてつもなく巨大なものが、僕の目の前に立ちはだかっている。

まさか……

ここでボス戦突入か?

49階層のボス。

その正体は――

ホワイトドラゴン!!

……。

………。

……いや、待て。

そもそも、戦えるのか?

HPはほぼゼロ。

MPなんて、とっくに枯れている。

武器もない。

防具もない。

そして何より――

戦う気力がない。

こんな状態でボス戦とか……

無理だろ。

 

薄明かりの中で、ゆっくりと目を開けた。

真っ白な壁。

窓から差し込む、まぶしい光。

鼻には酸素のチューブ。

腕には点滴。

……。

やっぱりな。

病院だ。

どうやら僕は、ホワイトドラゴンに打ちのめされたらしい。

そりゃそうだ。

あの状態で戦えるわけがない。

むしろ、よく戦おうと思ったな。

……いや、思ってないか。

そもそも、あの状況でボス戦ってありえないだろう。

負けるべくして負けた。

だから僕は、今ここにいる。

なるほどな。


ふと、窓際を見る。

そこには、人影があった。

窓から差し込む光が強くて、顔はよく見えない。

小柄で、少し丸みを帯びたシルエット。

おそらく女性。

看護師さん……だろう。

彼女は、ゆっくりとこちらを見た。

そして、穏やかな声で言った。

「おはようございます。私、担当看護師のフェアリーと言います。お待ちしておりました」

……待っていた?

何のことだ?

僕がそう考えている間にも、彼女は続けた。

「一週間もすれば、体調は良くなりますよ」

一週間……。

僕はぼんやりと、その言葉を聞いていた。


三日後。

熱は少しずつ下がっていった。

呼吸も、ずいぶん楽になった。

身体も少しずつ動くようになってきた。

どうやら、全回復までもう少しらしい。

そして――

仲間たちが面会に来てくれた。

顔を見た瞬間、なんだか胸が熱くなった。

励ましの言葉をもらう。

たったそれだけなのに、不思議なくらい心が温かくなった。

一人で戦っているつもりでも、

本当は、ずっと誰かに支えてもらっていたんだな。

改めて、そう思った。


それにしても……

今までの階層で、一番苦戦した戦いだったんじゃないだろうか。

ここまで自分のHPを削られたのは、初めてかもしれない。

体力だけじゃない。

精神力まで、ほとんど残っていなかった。

49階層。

まさか、ここまで来てあんな強敵が待っているとは思わなかった。

でも――

いつまでも、ここに留まっているわけにはいかない。

体調が戻ったら、また進まなければならない。

次の階層へ。

嫌でも進むしかない。

もう、引き返すことなんてできない。

……いや。

今さら、引き返せるわけがないよな。

49歳。

ここまで来てしまったんだから。

だったら――

次の階層へ行くしかない。

第50階層へ。